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エピソード01

その日は目が覚めてすぐ違和感を感じた。


「あれ?···マーサ?」


毎朝クロエが目を覚ませば

すぐ聞こえる侍女のノックが今朝はなく

名を呼んでみるが返事もない。


「ふふっ···珍しいこともあるのね。」


幼い頃より、1度は鳴らしてみたいと

マーサより早く起きることに何度も挑戦し

未だに鳴らせたことのないベルを

やっと鳴らす時が来た!と

高揚感を抑えつつ、軽く振ってみると

部屋中に高い音が響き渡った。


想像よりずっと大きな音が出たことに

次はもっと優しく振らなきゃ···と考えていると

いつものノックが聞こえてきた。


「クロエ様、おはようございます。」


「おはよう、マーサ。」


部屋に入ってきたマーサの顔を見て

先程までの高揚を忘れ、クロエはがっかりした。

いつも表情が変わらぬ彼女も

さすがに今日は慌てるだろうと思っていたのに···


「クロエ様、今朝の朝食は

こちらにお運びしてもよろしいでしょうか?」


テキパキ朝支度を進めるマーサの提案に

珍しいことが続くものだと驚きつつ確認する。


「いいけど···アイルが拗ねないかしら?」


アイルは、クロエと同じ歳の義弟で

2人が8歳の時

王太子の婚約者となったクロエに代わり

公爵家を継いでもらうため養子に迎えた

父方のいとこにあたる。


2人の仲は、一般的な姉弟から大きく外れており

互いに対する関わり方は、溺愛以外の何物でもなかった。


幼い頃より食が細く、偏食気味なクロエの食事に

必ずと言っていいほど同席して

毎食の量や、栄養バランスを把握しつつ

甘く優しく完食を促すのが恒例となっている。


「アイル様はお出かけになられました。」


「アイルが??何かあったのかしら?」


「夜が明けきる前に、王城より使いの者が参りました。」


「ロベルト様から急ぎのお呼び立てかしら···?」


アイルは、父の宰相職も引き継ぐべく

同じ歳で、クロエの婚約者でもあるロベルトの

側近候補兼ご学友として、日頃から補佐しているので

日夜関係なく、呼び出されることがある。


しかし、クロエとの食事より優先されたことはなく

大丈夫かと聞いても、急がなくてもいいと言われてしまう。


「気にしなくていい。

義姉さんの食事が最優先だと殿下も仰っていた。」


「2人共過保護過ぎよ?幼子じゃないんだから···」


自身に対する、2人の未だ薄れぬ認識に

気恥ずかしさから膨れて見せれば

切れ長の目をとろかしながら

空気を含んだクロエの片頬に、大きく無骨な手を宛てがう。


「大丈夫、本当に急ぎなら殿下はそう伝えるはずだ。

俺が何より義姉さんを優先することを

殿下が誰よりも1番理解しているからな。」


確かにアイルはそう言っていた···

では本当に急ぎの用があったのだろう。


『もしかして会場に問題でもあったのかしら?』


「マーサ、ここで朝食をいただくわ。

私も早めに出発したいから、軽めの物を急ぎでお願い。」


「承知いたしました。

旦那様もすでに王城へ向かわれましたので

馬車を手配しておきます。」


そうだった。

ジェラート公爵家の家紋の入った馬車は2台。

アイルとは常に一緒にいたから

2台で事足りていたけど、ないなら仕方がない。


「ありがとう。お願いするわ。」


すぐ用意されたいつもより軽めの朝食を

慌てて食べ進めるも、急ぐ気持ちだけが空回る。


やっと食事が終わり、ひと息ついたら

いつもより入念な身支度が始まる。


今日は、3人の通う学園で卒業パーティーがあり

参加者は制服ではなく、礼装で出席する。


クロエは、ロベルトと同じ生地で作られた

対になるデザインのドレスを着る。


今まで贈られたドレスは

リボンやフリルがふんだんにあしらわれていて

余計に幼さが強調されてしまう気がしたので

今回は希望を取り入れた

シックなデザインのドレスにしてもらった。


『卒業したらすぐ結婚式の準備に取り掛かるし

いつまでも子供ではいられないもの!』


マーサの腕により着々と進む身支度。

しかし、言い表せない違和感を感じる···


『···今朝からなんなの?

なぜだか胸がそわそわする···』


マーサがクロエ付きの侍女になって12年。

6歳で母を失ったクロエにとって

マーサは1番身近な同性で、母のように姉のように慕ってきた。

そのため、無表情で口数の少ない彼女の変化に

クロエは非常に敏感だった。


『いつもなら目の合うタイミングなのに、今日はそらされてる?

目の合う回数自体少ないし···

髪を梳かしてくれる手つきも何か違う···』


表には出なくとも、マーサもクロエを

唯一の主とし慈しむよう仕えていた。


特に、ミルクティーベージュの

柔らかなウェーブがかかったロングヘアは

絡みやすく手入れにコツがいる。

クロエに少しの痛みも与えたくないと

いつも宝石でも磨きあげるかのように

どこまでも優しく丁寧な手つきで整えていた。


今日の手入れも痛みは全くないのだが

どこか義務的で、淡々と進められている気がする。


「···マーサ何かあったの?」


「何もございません。」


「もしかして怒ってる?」


「···使用人が主に怒りを覚えるなど

あってはならないことでございます。」


「···そう、ならいいの。」


釈然としない気持ちのまま

クロエの身支度は完璧に仕上げられ

マーサと手配された貸し馬車へと向かう。


いつもより少ない使用人達とすれ違うも

なぜかよそよそしい空気が漂い

居心地の悪さを感じながら家を後にした。

ここの話をマーサ視点で

すごく書きたいけど···絶対書くけど

どこの流れでぶっこんだらいいのか悩んでます。

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