9話 Light my fire
平日のユニバーサル・スタジオ・ジャパンはそこそこ混んでいた。
といっても何時間待ちといったアトラクションは僅かで殆どは20分以内で
入る事ができた。以前映画館で観た映画やテレビで放映されたものなど
どれもお馴染みの名前ばかりである。
その中の一つにジュラシックパークがあり、ボートに乗ってジュラ紀を再現した
セット内を探検するというストーリー設定で、最初は子供だましだと思って乗っていた。
が、最後の仕掛けがかなり大掛かりで、ボートごと急斜面をプールに向かって突っ込む
というものである。その際巻き上げた水柱が容赦なく乗客に降り注ぎ服はそれこそ
ベトベトになるのだがボートの客は大歓声を上げて楽しんでいた。
出口ではその写真を引き伸ばし販売しており、予約をすれば数十分で出来上がる
という事だったので頼んでおいた。それから2~3のアトラクションを廻ると既に正午を回っていた。腹が減ったという事もあり、アメリカの西部劇に出てくるようなレストランに
入りステーキやポテトなどを注文していると香が言った。
「ねえ、ビール頼まない?なんだか凄く飲みたくて・・・」まあ夜まで遊んでいれば
アルコールは抜けるだろう。グラスビールを頼み2人で乾杯した。
「神田さん結構楽しんでたじゃない。どうして今まで来なかったの?」
「そうだなぁ、しいて言えばチャンスが無かった・・・かな? こういう所って
カップルや子供連れだろ?」ここが出来たのは10年前だったはずである。
裕子との関係がギクシャクしており仕事に没頭していた頃でとてもそんな
気分ではなかったし、その後付き合った女性とも夜のみに行く事はあっても
遊園地に行くという発想はなかった。
「今日泊まって行かない?そうしたらもっと飲めるんじゃない?ツインで
頼めば一緒に寝るわけじゃないし・・・」そう言うと一気にグラスを空けた。
まあ、実際少し睡眠不足もありこのまま遊続けて夜戻るのはキツイだろう。
それに大阪は何と言っても食べるものが旨い。夜は商社時代によく利用した
店に行きたい気がしてきた。
「よし、わかった・・・・そうしよう。そうと決まればビールだな?」
「やったー。夜は何処へ連れってくれるのかなぁ?」そう言うと香は手を上げ
ウエイトレスを呼びビールをジョッキで2人分頼んだ。
夕方まで遊んだ後車をホテルの駐車場に停めチェックインを済ませた。
予約したホテルは施設のすぐ隣で33階建てのタワーホテルである。案内された部屋は
22階だった。窓からの眺望はすばらしくフロントに頼んで安治川側の部屋にした
甲斐があった。
「素敵・・・」香はカーテンを開け大阪の黄昏を眺めていた。
阪神高速の照明が港大橋までうねりながら続いている。港大橋は日本最長のトラス橋で
大型コンテナ船を通すための桁下は50メートル以上あり車で通るときもその迫力に
圧倒される。
「あの橋渡ってみたい・・・明日通るかな?」
「じゃあ明日は堺の方へ行ってみよう。ボクの故郷みたいな場所だよ」
「大阪出身だったんですか?なんとなくイントネーションがそんな感じだったけど・・」
「小学校低学年までだけどね」堺市には小学2年まで居たがその間にも大仙小学校と
上野芝の津久野小学校に通った。その後は父親の仕事で北九州の小倉に行ったが
半年ほどで引越しをし・・・その後小学校だけで6回転校した。
「美味しいもの食べに行こう。お腹すいたでしょ?」
「うん。たくさん遊んだから」香は飲みかけていたコーヒーをサイドテーブルに置き
レースのカーテンを閉めた。
タクシーで難波に着く頃にはすっかりネオンの似合う時間になっていた。
道頓堀を歩きながら商社時代に利用したレストランに香を案内しワインと
タンシチューを注文した。大阪で夜遊ぶ時はたくさん食べるのは禁物である。
何軒かハシゴするつもりで気の合うもの同士お互いのお勧め料理を少しずつ
食べるのが良い。そして食べながら次の店の話をするのも欠かせない。
この夜もこの後、たこ焼き・モツ煮込み・ふぐ刺し・お好み焼き、と2人で
分け合いホテルに戻ったのは23時前であった。食べながら飲んでいたので
結構な量を飲んでいた。
帰る頃には腕を組んで歩いていたが、恋人というよりは親子に近かったかも
しれない。
香の勧めで先にシャワーを浴びツインのベッドで横になってテレビを観ていると
いつの間にか眠ってしまっていた。
目覚めたのはベッドに潜り込んでくる香の気配を感じたからである。
Light my fire
The Doors←ドアーズ
http://www.youtube.com/watch?v=flOvM4Z355A