29話 完結When You Wish Upon A Star
2月に入った雪の日。私は空港に居た。
日本に居ても香の事ばかり考えしまい、何も手につかない・・・
暫らく以前住んでいたベトナムに行こうと思っていた。
期間は10日ほどだが、気晴らしにはなるだろう。
14時15分発のCX便を待っていると携帯電話が鳴った。池田弘子からである。
「もしもし、神田さん?どこ行ってるの?貴方の家の玄関に居るのよ開けてよ!」
「今、家に居ないんだ・・・セントレアに居る」
「セントレア?なんで飛行場なの・・・すぐに会いたいのよ!」
「無理だよ・・・14時15分の香港行きがもう来るんだ・・・用件は何だったの?」
「バカね!香さんの事に決まってるじゃない!私、金沢に行ってきたのよ。香さんに
会ってきたの。ねえ・・・戻ってきて。伝えたい事がたくさんあるのよ」
「香に会ったって?」私は身体が熱くなるのを感じていた。
池田弘子は何の手がかりも無しに、香を探し出したというのか?いったいどうやって・・・
「わかった。これからすぐに戻るよ。4時には着くと思う」電話を切り私は焦る
気持ちを抑えながら電車に乗った。
家に戻って暫らくすると弘子がやってきた。
「間一髪だったわね。後30分電話が遅かったら・・・まあ、いいわそこに座って頂戴
順番に話すから」弘子はコーラを1杯飲み干してから喋りだした。
「最初はどうやって捜していいのか分からないまま、金沢に行ったの。まあ、旅行の気分
だったんだけど・・・それで市役所に行ったらいいのか、警察に行ったらいいのか
迷っていたの。そんな事思いながら歩いていたら、お腹が空いちゃって・・・
駅前のレストランに入ったの。運命って信じなかったけど、こういう事ってあるのね。
香ちゃんが働いていたのよ。もう、お互いびっくりして暫らく固まってたわ」
そのあと店が終わるのを待って香と落ち合い、話をしたらしかった。そして今までの
経緯を聞いたらしい。
「まさか妊娠してたなんて・・・びっくりしたわよ。私にできなかった事を香ちゃんが
出来たなんて・・・かなり妬いたわ。でも、そんな事言ったってもう高木は居ないんだし
私はまだ若いんだから・・・これから絶対いい男見つけて幸せになるって決めてたから」
彼女はそこまで言うと深くため息をついた。そして更に続けた・・・
「彼女、独りで生んで育てるなんて言うじゃない。そんなこと無理だって言ってやったわ
それでも、頑固なのよ。貴方に申し訳ないって。そればっかり・・・だから貴方が病気に
なって死にそうだって言ってやったのよ。あの時はまんざら嘘でもなかったし・・・」
それからも猛烈な勢いで話し続けた・・・
「それで・・・はい、これが住所。神田さんに渡してもいい?って聞いたら頷いたわ。
携帯電話は解約して持っていないそうよ。どう?私のこと見直した?
フランス行き延ばして捜したんだからね。結局直ぐに見つかちゃったけど・・・」
そう言って弘子は笑った。
私はその日のうちに金沢に向かうことにした。
18時22分のしらさぎになんとか間に合った。
途中米原からは雪が舞っていて、金沢に入ると少しだけ積もり、街を美しく輝かせていた。
駅から出て香が働いているというレストランを捜す。
それは雑居ビルの2階にあった。
少し古びた看板が目に入り階段を登ると、自分でもはっきりと聞き取れるほど
鼓動が激しく高鳴っていた。
ガラス製のドアを開ける。まだこの時間なら店に居るはずだ。
髪の毛を茶色く染めたウエーターが席に案内してくれた。
私は黙って周りを見渡した。居た、香だ。
銀色のお盆に水の入ったコップを乗せこちらの席に向かってくる・・・
「いらっしゃいませ。ご注文は・・・!?」
私に気づいた香がその場に固まった。
お腹は少し目立つくらい膨らんでいる。
私は何も言わず立ち上がり、香を抱きしめた。
香は震えていた。
「会いたかった・・・」
私の言葉に香は泣きながら言った・・・
「私も・・・」
周りの客達のざわめきが聞こえた。
さっきの茶髪のウエイターと一瞬目が合う。
彼は親指を立てウインクをしていた。
ふと我に返り耳を澄ますと、聴き覚えのある音楽が流れていた。
・・・星に願いを・・・
私は香のおでこにそっとキスをした。
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When You Wish Upon A Star
Billy Joel
https://www.youtube.com/watch?v=wtKUMiSBK3s
これで、このお話はおしまいです。
ご協力いただきました ねとらじDJぢる様リスナーの皆様に感謝し 後書きとさせて頂きます。
皆様に素敵な出会いがありますように・・・
ps
ぢるさんはどうしてるのかなぁ?結婚して子供5人ぐらい居るのかな?
なんにしても 猫☆印は不滅です!!!
山田サンタ(roy)