24話It Was Only Yesterday
「いったいどうしたんだ?・・」何も言わずにうつむいている、香に向かって質問した。
高木は少しおどおどしながらこちらを見ていた。
「神田さん・・・・・・・すまない。まさかこんな事をするなんて・・・」
「それは、無理矢理と言うことか?」私の言葉を香が遮った。
「違うの・・私が悪かったの。高木さんを許してあげて」その言葉を聞いて何も言えなくなってしまった。今、自分の中に怒りの感情は無い。あるのは脱力感とその場所に
居たくないという気持ちだけだった。私が出て行こうとすると高木が話を始めた。
「私の香さんへの感情は君も知っていると思う。彼女を愛してしまった事によって
嫉妬心が芽生え私に絵筆を握らせてくれた。私は神田さん、君を尊敬し信頼している・・
少ししか話してはいないが、私の心の中を見透かされている様な感覚がいつもあった。
だからこそ君が愛する香さんを描きたかった・・・・」
「高木さん、僕もわかってました。だから何も言わなかった。だからと言って今日の
この状況は理解できませんね」
「神田さん、私は彼女を描いてる間ずっと、あなたが彼女と交わっているところを
想像し、嫉妬に燃える手で筆を握っていた。胸が裂けそうになる思いをキャンバスに
ぶつけてきた。香さんは私が不能である事を知っている・・・・だが今日は違った
もう何十年ぶりかに身体が変化したんだ。私は嬉しかった・・・・」
そこまで言うと涙を流してうずくまってしまった。
「晋一郎さんごめんなさい・・私が誘ったんです。そうなった彼を受け入れたかった」
二人の話を聞いているうちに、自分の中に不思議な感覚が生まれてきているのがわかった。
嫉妬心とはまた違う性的な感覚であった。
その後、暫らくそこに居たが二人を残してその場を後にした。が、リビングに入ると
大変な光景がそこにあった。弘子が大量の薬を飲み床に倒れていたのである。
アトリエの2人を呼びつけ、すぐに救急車の手配をさせた。まだ呼吸はあるようだが
意識はまったく無い。脈もかなり弱っているようだった。
高木は弘子に縋り付くように泣きながら謝っていた。それが私には何故か滑稽に
見えていた。
弘子はすぐに軽井沢病院に搬送された。睡眠導入剤を50錠ほど飲んでいたが
命に別状は無いとの事だった。一応念のため2~3日入院して様子を見るという。
高木が病室に付いていると言っている。香と私は別荘に戻って着替えなどを
持ってくる、と言って病院を出た。沈黙が続いていた。
高木には7時ごろ行くと言ってあったので、まだ2時間近くある。
リビングに座って何を話せばいいのか考えていた。長い沈黙の後最初に口を開いたのは
香のほうだった。
「私って、バカな女でしょ?貴方の事が好きなのに他の男に抱かれるなんて・・・・」
涙が白い太ももに落ち、その弾力のある肌を伝いながらソファーに消えていった。
「自分でも不思議なんだが、あの状況を見ても君への怒りや憎しみは、まったくと
言っていいほど無いんだ。勿論、君を侮辱する言葉はいくらでも思いつきそうだけど
君が僕を愛しているのがわかるから・・・・・君を失いたくないんだ」
私がそう言うと香は泣きながら抱きついてきた。
「ごめんなさい・・・・」
私はこの時自分の中に、ある奇妙な感情がある事に気づいた。それは、さっきまで高木に
抱かれていた香の身体が、どんな風に高木を受け入れ喘いでいたのか。
それを香の口から聞きたいという。自分でも理解できない感情だった。
それを口にすることは無かったが香を抱きながら感じ取っていた。
It Was Only Yesterday
Larry Carlton & Steve Lukather
http://www.youtube.com/watch?v=2kXNQNXSwY8