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Distant eyes  作者: 山田サンタ(hideaway)
22/29

22話One Note Samba

挿絵(By みてみん)

サフランの鮮やかな黄色がテーブルに明るく映えている。弘子の得意料理だという

パエリアは本格的なものだった。それに炭火で焼いた豚ロースの焼き色が、更に食欲を

そそった。シャンパンで乾杯した後、料理に舌鼓を打ちながら今日廻った旧軽井沢の

店の話などをしていた。そして話は弘子の音楽活動していた頃の話になった。

高校時代にずっとバンドでボーカルをやっており、上京した際もナンパされた男が

たまたまジャズバンドをやっていた事から話が合い、付き合ってる期間一緒にライブ

などに出演していたという事であった。

「弘子さんそれじゃあ1曲一緒にやってみましょうか」昼に少し打ち合わせをしてあった

ので、譜面には目を通してあった。カラオケセットのマイクを使いステージの準備が整うと

最初はギターのボディを叩いてリズムセクションから入った。それにあわせ高木と香が

手拍子を刻んだ。そしてボサノバのリズムでコードが入り弘子が歌った。

それほど長い曲ではないが見事に歌い切り3人が弘子に拍手を送った。

「すばらしい!久しぶりに弘子の歌を聴いたよ。まさかワンノート・サンバをやるとは

思わなかった。それにしても神田さん、ちょっと上手過ぎじゃないですか?」

高木が笑いながら拍手をしていた。

「それじゃあ・・もう1曲」この夜は合計5曲ほど弘子の歌を披露し夜の宴は終わった。

後片付けが終わった10時頃、高木が少し香を貸してくれないかと言ってきた。

先日まで描いた先を少しだけ描きたいというのだ。私は問題は無いが香はどうかと

たずねた。「よろしくお願いします」香の返事はこうだった。

それほど遅くはさせないと高木は香を連れアトリエに入っていった。

その時ほんの少しだが弘子の顔が曇ったのを私は感じ取っっていた。

リビングで弘子とバーボンを飲みながら私がやっていたバンドの話をしていた。

「神田さん以外の方はプロになられたんですか?凄いですね」

「ボクにはさすがにその勇気は無かったなあ・・・」そんな話を1時間ぐらいした頃

弘子が、今高木が描いている絵の事について話し出した。こちらに来る前に運送業者に

積み込む荷物のなかに布をかぶせた絵があったので中を見たらしい。

「それが香さんだとは最初は分からなかったわ。あまりにも妖艶に描いてあったから」

「それは・・つまり、ヌードだってこと?」私が尋ねると首を横に振り言った。

「薄い着物を着ていたわ。白い羽衣のような・・・それが創作なのか本当なのか

分からなかった・・・・・でも、彼女の表情はエクスタシーを感じた後のものだった」

「僕には分からないんだ。どうして身体に触れることも無くそんな状態になってしまう

のか・・・君も経験したんだろ?」弘子が思い出すように話し出した。

その言葉は淫靡いんびでかつ高尚なものであった。

「初めて彼のモデルになった日、私はヌードを要求されたわ。勿論充分すぎるほどの

報酬が約束されていたから別に平気だった。ところが彼は一向に描こうとしないのよ。

ポーズをとっているのにキャンバスの前で目を閉じてたの。彼は聞いていたのよ

私の息遣いを。そして目を開けると、そのリズムに合わせて筆を滑らせていくの・・・

ゆっくりと」

今度は逆にそのゆっくりとした筆の動きが、自分の何処を描いているのか伝わってくる

のだという。つまり彼の見えない筆が全身を愛撫している・・・そんな感覚に

なって行くのだ。リラックスしたポーズにもかかわらず1時間ほどの間に何度も

気が遠くなるような感覚に襲われていたのである。

その話をする間、弘子はまるで私がそこに居ることを忘れているかのように自らの

胸を鷲づかんでいた。

挿絵(By みてみん)




One Note Samba

Astrud Gilberto・Stan Getz

http://www.youtube.com/watch?v=9sc3Xx64WGE

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