20話Girl Talk
それぞれ風呂に入り、リビングに集まってポーカーゲームをする事になった。
元々ギャンブルは苦手なほうだったがその夜はツイていた。ワインを飲みながら
ゲームを進めてゆくうちに香が先に寝るといって2階へ上がっていった。
長時間のドライブで疲れていたのだろう。この時私は勝負に勝っていたため眠気を
まったく感じなかった。暫らくして高木も限界だと言って1階の寝室に入っていった。
リビングで池田弘子と二人きりになった。
「神田さんのおかげで久しぶりに笑いました。高木に聞いたそうですが貴方には
凄く悪いことをしたと後悔しています」
「そうじゃない。君には感謝してるんだ。僕はすべて分かっている上でここに来たんだ。
それより・・・・君は辛くないの?」その言葉には表情を変えずに弘子は言った。
「今彼の心は香さんにあるの。でもそれは作品が出来上がるまで・・・・
その後行き場を失った彼の心は必ず私の元へ帰ってくる。そう信じてるの」
その表情には先ほどまでの影は感じられなかった。
その夜は2時間ほど弘子と話していた。彼女の実家は熊本で高校を卒業後就職で
東京に住んでいたらしい。しかし上京して間もない頃、雑誌のインタビューで
スカウトの目にとまりファッション雑誌のモデルになった。就職していた会社は
退社しモデルで食べようと思ったが、思ったほどの収入にはならない。それどころか
自分が身に着けるものが高価なため借金が出来てしまっていた。
これを解消するため夜の店で働き出し、そこに客として来ていた高木と出逢った。
高木は雑誌社に連れられて店に来たらしい。弘子がモデルをやっていた話をすると
一緒に来ていた雑誌社に使ってみないかと言ってくれたのだという。
それから時々モデルをやりながら夜も働いていたが、高木から絵のモデルになって欲しい
と連絡が入りそのまま一緒に住むようになったのだという。
「私がまだ20歳の頃だったわ。裸になってキャンバスの前でポーズをとっていると
だんだん自分が感じてくるのがわかったわ。回を重ねるごとにそれが深くなっていくの」
高木に抱いてもらいたかったという。しかし彼が出した答えは他人に抱かせる事だった。
最初は訳がわからず反発していたが、高木が不能でそういった嫉妬心が彼の快楽になる
ということを理解するようになり、高木の前で知らない男に抱かれたのだ。
高木は終わるまでキャンパスの前から動かず、一心不乱に描き続けていたのだという。
私は弘子の話を聴きながら自分の身体が熱くなっていくのを感じていた。
部屋に戻ると香はぐっすりと眠っていた。弘子の話しを聞き興奮したせいか目を閉じても
なかなか眠る事ができなかった。仕方なくリビングに戻り缶ビールを飲んでいると香が
起きてきた。
「どうしたの?眠れないの?」そう言いながらソファーの横に座った。
「運転しすぎたせいかな?なかなか寝付けなくて・・・・」
二人は夜の音を聞いていた。暫くして香が口を開いた。
「私ね・・・黙ってたけど、高木さんの絵のモデルになってるの」
「知ってるよ・・・・香が言ってくれるのを待ってたんだ」
少しびっくりしたような顔をして私を見つめながら香は言った。
「そうだったんだ・・・・ごめんなさい。私いけない子ね?」
「ほんとにそう思うのかい?」香りの耳元でささやいた。
香はビクッと身体を硬直させすぐに私に抱きついてきた。
そして私の耳元で小さな声でつぶやいた。
「抱いて・・・」
二人の間に入っていた小さな亀裂が一瞬にして閉じていった。
Girl Talk
Oscar Peterson
http://www.youtube.com/watch?v=i-EZlqpgjrM&feature=related