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Distant eyes  作者: 山田サンタ(hideaway)
19/29

19話Cause We've Ended As Lovers

挿絵(By みてみん)

 あの日から何度か香は高木の家に行っているようであった。迎えに行く時間には

遅れることなく来ていたし、本人も事実を隠そうとしているようであったが、私には

わかっていた。

香が黙っていた理由は明白である。私を失いたくなかったからである。自分のしている

行為が酷く私を傷つけるものと判断しての事であろう。実際最初はそんな感情が自分の

中に目覚めた事は事実である。しかしその反面美しく妖艶になっていく香を益々愛して

いる自分に気づき、すべてを包み込みたいと思うようになっていた。

私は香に提案した。高木の別荘に暫らく滞在してみないかと・・・・・

香の会社は旅行代理店である。本来なら夏休みに入るこの時期は有休など以ての外である。

しかし香はその提案を素直に受け入れた。

「7月の24日から1週間休みをとったわ。軽井沢って初めて行くの。どんな所なのかしら」

頻繁に高木に会っている事を、私が知らないと思っている香は冷静さを装っていた。

当日は車で出かける事にしていた。軽井沢には何度か泊まったことがあるが車が無いと

結構不便である。別荘は中軽井沢から程近い場所にあり、高木たちは電車で行っている

ようである。高木はほとんど車を運転しないと言っていた。

「ホントに1週間もお邪魔してもいいのかしら?」香がそう言った。

私が高木に軽井沢に行く事を伝えてからも香は高木に会っている。高木はそれを

望んでいただろうし、香もそうであるに違いなかった。ただ、私が一緒に居る事は

彼らにとってどのように作用するのかはわからなかったし、私が最も知りたい事だ。

車は上越道から軽井沢に入り、二人が高木の別荘に到着したのは午後2時を廻った

頃だった。

「いらっしゃい。結構掛かったでしょう?」高木が満面の笑みで出迎えてくれた。

池田弘子も後から出てきたが顔色は余りさえなかった。

「お世話になります。本当に良かったんでしょうか?押しかけてきて」

「何を言ってるんですか神田さん、来て欲しかったんですよ。お二人に」

そう言いながら別荘の中を案内してくれた。敷地は300坪以上だろうか建物は比較的

新しくヨーロピアンスタイルの2階建てである。

中は15畳程のリビングダイニングに6畳のキッチン、ベッドルームが2階と1階に

それぞれ一部屋ずつ。アトリエ用に8畳程の洋間、バスルームはかなり大きい設計に

なっていた。

「2階のベッドルームを使ってください。」そう言って案内されたのは10畳ほどの

部屋だった。セミダブルのベッドが2台置いてあり窓からは鬱蒼うっそうとした

森が見えている。

「コーヒーでも入れますから、荷物を置いたらリビングにいらしてください」

そう言って高木は階段を降りていった。

「弘子さん何だか顔色が良くなかったわね?」香の質問に少し疑問が残った。

先週多分高木の家に行っているはずである。その時は顔色が良かったのだろうか?

それとも家には居なかったのか?いずれにしても弘子の口から直接聞いてみれば

済む事であった。

夕食は庭でバーベキューをするという事だったので、一緒に用意を手伝だった。

「それじゃあ、1週間の楽しいひと時に乾杯!」高木が楽しそうにグラスを持ち上げ

長い宴が始まった。結構な量の肉と、ワインを飲んで盛り上がってきた頃、私は高木に

絵の事について聞いてみた。

「高木さん最近絵のほうは描いてるんですか?」高木の反応は意外にも冷静であった。

「おかげさまで、また筆を握る事ができました。一時はもう描くことが出来ないんじゃ

無いかと自分でも不安になっていたんですが・・・・・」一瞬香の身体が強張るのを

感じたが、その時は軽く流しておいた。

香と弘子が後片付けのためにキッチンに入ってゆくのを確認し、真相を確かめる事にした。

「高木さん、昼間香がお宅にお邪魔しているのは知っています。しかし彼女はそれを

私には話そうとしないんです。何かやましい事でもあるのですか?」

ストレートに聞いてみた。それでも高木は至って落ち着いた様子でこう言った。

「私は貴方が気がついている事は分かってました。改めてお詫びをします。

だが、やましい事などは何も無いですよ。香さんをモデルに作品を描いている

ただそれだけです」

「それなら何故香は私に隠すのでしょう?あなたの為?それとも私の為?」

私が一番知りたい部分だった。

「神田さん、私はクオーターに行く時、よく違う女を連れて行ってました。彼女達は

勿論、私の恋人達でした。しかしセックスは一度もしたことはありません。なぜなら

私は不能なんですよ。ご存知ですか?インポテンツという言葉を・・・」

私は一瞬言葉を失った。そして理解できた。なぜ彼が香を描きたくなったかを・・・

「わかりました、どこまで協力できるか分かりませんが・・・あなたの絵を見届け

たいと思います。それに詫びる必要などまったくありません。むしろあなたに感謝

している位なんですよ。私は今、自分でも経験が無いほどの心で香を愛し始めています。

ここへ来た理由は勿論それです。あなたのそばに香が居る間のこの感情は、彼女が帰った

後の、あなたの感情だという事が理解できた以上、香を疑う理由はありません」

私がそういい終わる前に、高木は涙を流していた。この男の屈折した愛し方があの作品を

創り上げてきたのだ。その時キッチンから2人が出てくるのが見えた。

「じゃあ私はシャワーを浴びに行って来ます。後ほどリビングでカードゲームでも

しましょう」そう言うと高木は中に入っていった。



Cause We've Ended As Lovers

   Jeff" Beck

   http://www.youtube.com/watch?v=THnbh5lTqSY&feature=related

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