14話Song For Bilbao
翌週、二人は高木のアトリエ兼自宅に出かけた。夕方6時頃来て欲しいという事だった
ので、その前にデパートでワインを買って行く事にした。
「ねえ、どんなお宅なのかしら画家さんの家って。何だかドキドキするわ」
デパートのワインコーナーで色々選びながら香が言った。高木邸は比較的都心部に
近い住宅街だった。マンションなどが乱立する中、古くからの住まいがまだ結構残って
いる。
タクシーが到着したのは6時10分頃だった。
高木邸は昭和40年代頃流行した洋館風のデザインで、家の周りや門などはツタが見事に
覆っていた。大きさはそれほど大きくは無く80坪くらいであろうか。ガレージには
古いサーブが停まっている。
「素敵なお家だわ。いかにも画家が住んでいそうな・・・・・」
インターホンを押すとすぐに高木が中から現れた。
「ようこそいらっしゃい。待ってましたよ。運転手はすぐに場所が分かりましたか?」
案内しながら高木は楽しそうに話していた。門からのアプローチは石畳がひいてあり
その周りに野草が生えている。イングリッシュガーデン風とでも言うのだろうか。
エントランスには大理石が貼ってあった。
香が買ってきたワインを高木に渡すと、奥から彼女を呼びダイニングにもって行くように
指示した。
「アトリエを是非香りさんにも見ていただきたくて」そう言うと廊下から裏の出口の
方へ案内した。それにしても香を名前で呼んだのには正直驚いた。一度しか名前を
言っていなかったし、私自身高木の彼女の名前までは覚えていなかったからだ。
アトリエは以前裏庭があった場所に建てられているようだった。
なかに入ると10畳ほどの板の間に描きかけのキャンバスや木製の机、資料の棚などと
白いソファが綺麗に配置してあった。絵の具の独特の匂いやデッサン用の人形など
初めて感じる空間だった。
「どうです?面白いでしょ。まだ描ききってませんがこれが新しい作品です」
前回のものとは違い100号ほどの絵は、ただ黒く塗っただけのような感じに見えた。
「前回展示したものの何点かが2階に在ります。どうぞ」そう言ってアトリエの脇にある
階段を登り始めた。そこからはアトリエ全体が見渡せるような作りになっている。
2階の部屋は6畳ほどだろうか、倉庫のようにひんやりとしており布が掛けられた絵が
何点か置いてあった。そこにはあの大作も置いてあり、すべて見させてくれた。
「凄い・・・・」香が息を呑むように見つめていた。どうやって描いたかを事前に
話してあるだけにその世界を覗こうとするかのようであった。
何分かの静寂の後3人はリビングに戻った。そこには色とりどりの料理が用意してあり
キャンドルが美しさを演出していた。
「隆一さん、神田さんに凄くいいワインをいただいてるわよ」そう言って
テーブルの上を示した。
「これは・・・シャトー・ラトゥール1991年。いやーこんなに高価なものを・・
ありがとうございます。早速開けましょう」そう言ってオープナーでコルクを
抜くと4つのグラスにワインを注いでいった。
Song For Bilbao
Pat Metheny Michael Brecker
http://www.youtube.com/watch?v=Sp9DYaijXT0
うーん、ラトゥール飲みたい・・・・