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8 三者三様

第1部「マントラ・ウォーズ ~超常のレジスタンス~ 能力覚醒編」

第2部「マントラ・ウォーズ 伝説の剣を手に入れろ編」

も是非お読みください。

 時は現在

 王都アデリー郊外の谷間の草原


 アジットの話にジッと耳を傾けていたアシュウィンは、おもむろに口を開いた。

「そうだったのか……

 それで、親父は俺と母さんの前から突然姿を消して、ガザンの所に行ったんだな。」


「……そうだ。」


「だからって、許される話じゃねぇ。俺と母さんを捨てていい理由にはならねぇだろ?」


「分かっている。」


「分かっているなら、何で母さんに相談しなかったんだ?

 親父が出て行ってから、母さんがどんなに苦労したのか分かっているのか?」


「すまないと思っている。

 謝って済む問題じゃないが、あの時は、そうするしかなかった。」


「それで、家を出て、バーニという人の組織を引き継いだのか?」


「成り行き上、そうなった。」


「レジスタンスになるなら、いっそのこと、ラーマの麒麟に属した方がいいんじゃないか?」


「一度出て行った俺が、おめおめと戻れる訳がないだろう。」


 アシュウィンとアジットの会話をじっと聞いていたインジゴだったが、我慢しきれなくなって、口を挟んだ。

「2人の話の腰を折って申し訳ないが、アジットさんがここにいるガザンの所に行ってレジスタンスになったのであれば、何故、ガザンはレジスタンスではなく近衛兵になったんだ?

 しかも、近衛兵団の幹部の師団長じゃないか。

 全く辻褄が合わない。」

 インジゴは首を左右に振った。


 マナサも頷いて、インジゴに同意した。


「うーーん。そうだな……

 ガザン、こうなってしまったからには、お前の口から真実を説明するしか、この場を収める方法は無いんじゃないか?」

 アジットはガザンを見た。


「そのようですね。分かりました。

 ただ、説明するには、サイがいると都合が悪いな。」


「どうした?部下に聞かれたらまずいのか?」

 インジゴがガザンに詰め寄った。


「おれはいいんだが、サイの立場が悪くなる。」

 ガザンは離れた所いるサイの方を見た。


 サイは、逃げる途中でアジットの部下に捕らわれていた。


「?

 もう少し、分かるように言ってもらえる?」

 マナサも口を挟んだ。


「ああ。これから説明するが、俺とサイとの立場が違うんだ。同じ側に立っていない。」

 ガザンはアジットに目配せした。


 アジットは部下の方に向かって合図の指笛を吹くと、大柄な隊員が、馬を走らせて、アジットの所にやって来た。


「お呼びですか?」

 大柄な隊員がアジットに訊いた。


「ああ。バズ、すまんが、我々の会話が聞こえない所まで、捕らえた近衛兵を遠ざけておいてくれるか?」


「分かりました。」

 バズは、そう言うと、チラッとガザンを見た。


 ガザンもバズを見ると挨拶した。

「バズ、久しぶりだね。」


「本当に久しぶりだ。ガザンも元気そうだな。」

 バズは、ガザンに向けて親指を立てると、馬を走らせて他の隊員とサイがいる所へ戻って行った。


「これでよし、と。

 みんな、負傷して、疲れてもいるだろうから、腰を下ろして話をしよう。

 この場で戦闘になることはもうない。俺が請け負う。」

 アジットは4人をその場に座らせた。


 サイが離れた所に移動して、アシュウィンたちが落ち着いたところでガザンが語り始めた。

「俺は母を近衛兵に殺されて、誰よりも近衛兵を恨んだ。

 必ず復讐してやると天国の母に誓った。」


「それなら、お母様のレジスタンス組織に入るべきだったんじゃないの?」

 マナサは素朴な疑問を口にした。


「俺も最初はそう思った。

 親父が母の組織を引き継ぐことになるから、俺も正式に組織に入って、母の仇を討とうと思った。」


「俺もガザンの立場なら、そうするよ。」

 アシュウィンも同意した。


「ところが、そう簡単にはいかないことが徐々に分かってきた。」


「簡単にはいかない?」

 インジゴが先を促した。


「さっき来た、親父の副隊長をしているバズは、母が隊長の時も副隊長をしていて、母が命を落としたあの時も共に行動していた。

 母がどうやって亡くなったのか、直接目の当たりにした隊員はいなかった。

 ただ、母が潜入した近衛兵団の武器庫には、怪物のように馬鹿デカいマントラ使いがいて、そいつ1人にやられて作戦は失敗した。

 そして、母の命を奪ったのも、そのマントラ使いだったらしい。」


「そいつは誰だ?近衛兵だから、ガザンは知っているんだろ?」

 アシュウィンは答えをせかした。


「今はそうだが、その当時はガキだったから知らなかった。バズたちに教えてもらった。」


「で、誰なんだ?」

 インジゴも前のめりになった。


「……セスという男だ。母や隊員がやられたのは。」


「セス?」

 マナサはセスを知らなかった。


「知らなくて、当然かもしれない。

 今は退いて、近衛兵団にはいない。

 まあ、当時も近衛兵の自覚はあまり無かったらしい。

 身勝手に単独行動ばかりとって、好き放題だったらしいから。

 ただ、そんなセスだが、マントラの威力は群を抜いていた。

 血筋なんだろうな。」


「血筋?」

 インジゴは怪訝な表情をした。


「ああ。セスはバシット卿の息子だ。

 マントラの能力が強くても不思議じゃない。」


「それで好き放題か。」

 アシュウィンは納得したように言った。


「そういうことだ。

 それで、今は近衛兵団にも属していないし、どこで何をしているのか行方知れずだ。」


「でも、あなたは仇を取るために探しているんでしょ?」

 マナサが訊ねた。


「最初はな……

 でも、その後、俺は考え方を変えた。

 変えたというより、変わったと言うべきかな。」


「変わった?何がどう変わったんだ?」

 アシュウィンは興味深げに訊いた。


「最初はセスを倒すことだけを考えていた。

 どうやったら、あの怪物を倒せるのか。

 でも、俺は、成長するにつれて、違うことを考えるようになった。

 母の組織は、武器庫襲撃戦の結果、壊滅状態になっていた。

 組織を引き継いだ親父は、母と違ってマントラの能力があるから、母の二の舞にはならないのかもしれない。

 そうは言っても、組織としてみれば、規模の小さいレジスタンス組織だ。

 親父たちには申し訳ないが、近衛兵団と比べれば、象とネズミほどの差がある。

 自然と戦い方もゲリラ戦が中心になる。

 そんな状況で俺がセスを倒すことが出来るのか。

 そもそも、セスに巡り合う事さえできない可能性が高い。

 それにも増して重要なことは、母の直接の仇はセスであることに変わりはないが、そもそも、人民を苦しめている非道な近衛兵団が問題だ。

 そして、その根本にあるのは、マントラの力を盾にして、王族を支配しているバシット卿の存在だ。」


「その事とお前が近衛兵団にいる事と、どう結びつくんだ?」

 インジゴは我慢出来ずに訊いた。


「象を倒すには、外部から攻撃するよりも、内側に入り込んで中から壊す方が、確実だと思わないか?

 俺はそう考えた。そう考えるようになった。

 自分で言うのもなんだか、はっきり言って、俺は親父の隠し子だ。

 アシュウィンと違って、一族にも知られていない存在だ。

 正体を隠して、入団できる自信があった。

 一族の中でも傍流だ。マントラの能力があっても、素性が暴かれる可能性は少ない。

 事実、隠密行動によって諜報活動をする仕事に就いたことで、派手な活動をする必要がなく、バシット卿や幹部に疑われることは無かった。

 それどころか、諜報活動が性に合っていることもあって、今はバシット卿にも信用されて、師団長の立場にある。」


「それでも、多勢に無勢でしょ?内部から壊すといっても……」

 マナサが核心を突く質問をした。


「確かにそうだな。内部から壊すといっても、簡単に壊せるものではない。

 俺一人の力では限界がある。

 同志を増やそうとしても、気づかれないように、少しずつ同志を近衛兵団に入団させるか、翻意の可能性がある兵士をこちら側に引き込むしかない。

 中々先が見通せない状況だった。

 ところがだ。俺は、近衛兵団での立場を利用してバシット卿の身辺を調べていくうちに、ある重要な情報を手にすることが出来た。」


「重要な情報?」

 アシュウィンは身を乗り出した。


「そうだ。俺たち一族の存在を根底から揺るがすような情報だ。」


「だから、その情報って何なんだ?」

 アシュウィンはガザンを急かした。


「それは、アルジュナの古文書だ。」

 ガザンはもったいぶったように言った。


「アルジュナの古文書?

 アルジュナっていうと、マントラの力を発見した、あの先祖の?」

 アシュウィンはマナサから聞いた話を思い出した。


「そうだ。マントラの能力を発現させた、我等一族の始祖のアルジュナだ。

 そのアルジュナがマントラの能力に関して記した文書が、500年の時を経て、現在はバシット卿の手元にある。」

 ガザンは話しているうちに気持ちが高揚してきた。


「アルジュナの古文書は、歴史のうねりの中で失われて、その所在が分からなくなっていた。

 この世には、すでに無いとも言われていた……

 それが、その古文書が存在している。」

 マナサは感慨深くつぶやいた。


「ああ。もう少しで手が届くところにあるんだ。」


「それで、その古文書がどうしたって言うんだ?」

 アシュウィンが訊いた。


「アルジュナがマントラの能力について記した、その古文書には究極のマントラについての記述があるといわれている。」


「究極のマントラ……」

 アシュウィンは体が震えた。

「一体どんな力があるんだ?恐ろしく強大なパワーのあるマントラか?この世の全てを焼き尽くすような……」


「それとは対極にあるマントラというところかな。

 噂によると、究極のマントラとは、この世の全てのマントラの能力を封印してしまうものらしい。」


「マントラを封印する?」

 インジゴが口を挟んだ。


「言い伝えによると、始祖のアルジュナは、マントラの能力を得たものの、積極的に使用したりはしなかった。

 他に手段がなく、どうしても使わざるを得ないときに限って使うものだと考えていた。

 そういう考えだから、もし、マントラの力が暴走して手に負えなくなった時のことも考えていたんだと思う。

 その時には、善良で無関係な人々のためにも全てのマントラの力を無力化する。

 それが究極のマントラなんだろう。」


「今のこの時代、マントラの能力と武器を駆使して戦っている状況を知ったら、アルジュナは落胆するでしょうね……

 それとも、怒り狂うのかしら?」

 マナサは天国のアルジュナを見るかのように空を見上げた。


「そうなんだ。

 俺がこれから行おうと考えていることは、まさにそれだ。

 この国からマントラの力を消滅させる。その上で、バシット卿を失脚に追い込む。

 マントラの能力を持つ者が存在する限り、その能力を利用して人々を支配しようとする、第2、第3のバジット卿が現れるに決まっている。

 それを阻止しなければならない。

 そうすることが、人民を救い、母の大願にもかなうものだと俺は信じている。

 これが、俺の、俺なりの仇討ちだ。」


「そのように上手く事が運べばいいが……

 そもそも、本当にそんな究極のマントラが存在するのか?

 ガザン、お前はまだアルジュナの古文書を手にしていないんだろ?」

 インジゴが冷静に問いただした。


「もうすぐ手にする。

 そのために、様々な情報を収集したり、情報を流布したりして、バジット卿の信頼を勝ち得てきた。」


「ちょっと待てっ!そのために俺たちの仲間がどれだけ犠牲になっていると思ってんだっ!」

 アシュウィンは激高した。


 マナサとインジゴも、アシュウィンと同じ反応だった。


「俺なりには理解しているつもりだ。

 大儀を貫くためには、犠牲が出ることを防げない。

 心底申し訳ないとは思うが、目的を達成するための尊い犠牲だ。

 今のこの国の状況を一刻も早く終わらせなければ、罪のない人民の犠牲者が増え続けるだけなんだ。」

 ガザンは珍しく感情的になった。


「だから、我々ラーマの麒麟は、尊い犠牲を払いながらもバジット卿を倒すために命を賭している。」

 インジゴは反論した。


「それでは駄目なんだ。

 マントラの力がこの世に存在する限り、過ちは繰り返される。」


「お前のエゴを押し付けてくるなっ!」

 インジゴは今にもガザンに殴りかかりそうな剣幕だった。


「まあ、君たちには理解されないと思ったよ。

 親父にだって、未だに理解されていないからな。」

 ガザンはアジットの方に視線を移した。


 ずっと口を閉ざしていたアジットは、4人に注目されて、明らかに戸惑っていた。

「アルジュナの古文書やそこに記されているという究極のマントラの話は耳にしたことはあるが、おとぎ話だと思っていた。

 信ぴょう性が無さすぎる。」


「親父は内幕を知らないからだ。

 バジット卿が自分の命のように大切にしているアルジュナの古文書だ。

 そこには確かに究極のマントラが記されているはずだ。」

 ガザンは一歩も引かない。


「俺としては、引き継いだ組織でゲリラ戦を展開していく。

 俺たちの活動で出来た近衛兵団のほころびを、ラーマの麒麟なり、他のレジスタンスなりが突いてくれればいいんだ。

 蟻の一穴というやつだ。俺や向こうにいる仲間は、言うなれば蟻なんだ。そういう役回りだ。」

 アジットはバーニの笑顔を思い出しながら言った。


「話は平行線だな。」

 ガザンはため息交じりに言った。


「何か話をまとめようって訳じゃない。三者三様でいいじゃないか。

 目的はみな同じだ。それを確認しただけで十分だ。

 進む方向は違えど、目指す目的地は同じ場所だ。」

 アジットは話を締めようとした。


「何、話を丸く収めようとしているんだ?」

 アシュウィンはアジットに食って掛かった。

「俺たちは、ガザンのせいで近しい仲間を何人も失っているんだ。

 その事実を不問に付すことなんて出来やしない。」


「その通りだ。うやむやにはさせない。」

 インジゴも応じた。


「話を蒸し返しても、過ぎたことは変えられん。

 軽薄に聞こえるかもしれんが、前を見て進もう。」

 アジットは場を静めようとした。

「それとも、戦闘再開か?そんなことをすれば、これほど無謀で不毛な戦いはないぞ。

 いがみ合っていても、何も生まれない。

 確かに、ガザンの情報によって結果的に犠牲者が出たのは事実だが、ガザンが直接戦った訳ではない。」


「直接戦っていなくても、その原因を作ったのはガザンだ。」

 インジゴはガザンを睨みつけた。


「だが、ガザンの情報を利用して、近衛兵団に命令を下したのはバジット卿だ。

 ……こんな風にどこまでも原因を遡ってもしょうがないじゃないか。

 空しくないのか?

 君たちラーマの麒麟のリーダーが、ガザンにだけ怒りをぶつけるべきなのか?」

 アジットはアシュウィンたち一人一人の顔を見据えた。


 アシュウィンたちは一瞬口ごもった。


「……バタフライエフェクト。そんな言葉があったわね。

 この国の現状、一体どこから始まったのかしら?

 私たちの怒りも短絡的過ぎたわね。」

 マナサが冷静になって口を開いた。


「えっ?うん……

 少なくとも、バジット卿を倒す。このことは共通した目的だし、正しい使命だ。」

 アシュウィンは自分に言い聞かせるように言った。


「……ガザン、一つ聞いてもいいかしら?

 捕らわれているサイは、あなたの考えを知らないのでしょう?

 あなたとサイは立場が違うと言っていたから。」

 マナサがガザンに訊いた。


「ああ、そうだ。サイは何も知らない。

 俺が本当に近衛兵団の諜報担当として活動していると信じている。

 ……サイの処遇をどうする気だ?」


「どうしたものかしら?」

 マナサはアシュウィンとインジゴの意見を求めた。


「はらわたは煮えくり返ったままだが、部下だったあいつを信頼して、本当の姿を見抜くことが出来なかった。責任の一端は俺にもある。

 これ以上、我々の新たな情報が近衛兵団に流れないのであれば、解放することも選択肢の一つか……」

 インジゴは決めかねていた。


「確かにな。知らない人間じゃないし、無駄に命を奪う必要はないかな……」

 アシュウィンはマナサを見た。


「私も同感。

 では、サイを解放するということでいいかしら?」

 マナサはアシュウィンとインジゴの表情をかわるがわる見た。


「ああ。」

「うん。」

 インジゴとアシュウィンはマナサに同意した。


「ラーマの麒麟として、それは賢明な判断だ。

 ガザンがサイを連れて近衛兵団に戻れば、バジット卿のガザンに対する評価は、高まりはすれど、低くなることはないからな。」

 アジットは安堵した。


「言っておきますが、この決定はガザンのためじゃありませんから。」

 インジゴはアジットに強い口調で言い放った。


「分かっている。理由はどうあれ、殺生はしないに越したことは無い。

 なあ?」

 アジットはガザンに同意を求めた。


「そうですね。アシュウィンたちには恩に着る。」


「一つ借りだからな。いずれ返してくれよ。」

 アシュウィンは、右手で握り拳を作って、ガザンに向けてガッツポーズをとった。


「ああ。

 ……しかし、アシュウィンが俺の弟なんだな。」

 ガザンがつぶやくように言った。


「うん?無責任な親父のせいだ。突然兄弟が出来るなんてな。」


「家族は多い方がいいだろ。」

 アジットは意に介さない。


「野郎3人、むさ苦しい……」

 アシュウィンは頭を左右に振った。


「血のつながりは変えることはできない。前向きに捉えよう。」

 ガザンは何となく嬉しそうだった。

「……すまないが、そろそろサイを解放してくれるか?」


「インジゴ、いいわね?」

 マナサがインジゴに確認した。


「ああ。とっとと、連れて帰れ。

 今度会うときは戦うことになる。サイにそう伝えてくれ。」


「分かった。感謝する。」

 ガザンはインジゴに手を差し伸べた。


「握手はしない。」

 インジゴはガザンの手を握ることを拒否した。


「……そうか。」

 ガザンは馬に飛び乗るとサイの元に向かった。


 それを見ていたアジットは、指笛を吹いてバズに合図した。


 離れた所にいたバズは、右手を上げてアジットに応答すると、サイを解放した。

 ガザンは、サイを馬の後ろに乗せると、一度もアシュウィンたちを振り返ることなく、草原の中を走り去って行った。


「……これでよかったんだよな?」

 アシュウィンは、遠ざかって行くガザンとサイを目で追いながら、マナサに確認した。


「……今は分からない。後になってから、分かるんだと思う。」


「そうだな。今はこうするしかなかった……」

 インジゴは自分を納得させるように言った。


「これから、どう戦っていけばいいんだ?」

 アシュウィンは誰に訊くともなく訊いた。


「今まで通りだろうな。

 ガザンはガザンで俺たちとは関わりなく目的を遂行しようとするだろう。

 共闘ということにはならない。

 それに比べれば、俺たちは、必要があれば喜んで協力するぞ。

 あのじいさんの考え方次第だけどな。

 弟のニキルも俺のことをボロクソに言っているんだろうな。」

 アジットはインジゴの反応を観察していた。


「父ですか?

 ……ボロクソには言っていませんけど……良くは言わないですね。」

 インジゴは言い難そうだった。


「インジゴ、気を使わなくてもいいぞ。自分の都合で出ていったのは俺だから。

 ……アシュウィン、そう言えば、あの子は元気かな?」


「あの子?どの子だ?」


「以前に俺の組織がムンベイの近くの空き倉庫にいた時、ラーマの麒麟の隊員と接触したんだ。名前は聞かなかったが、どうやらガザンを探していたみたいだった。

 戦闘能力は高そうだったな。あの子、多分、女性の隊員だよな?」


「ああ、ジョディだと思う。今は俺の隊の副長だ。

 よく女性だと分かったな。」


「まあ、それはな。接すれば……分かる。」


「ん?何だって?」


「い、いや。

 そのジョディは元気なのか?」


「そうだな……言葉では言い表せない程、大変なことがあったけど、今は元気でやっているよ。」


「そうか。よろしく伝えてくれ。」


「うん、伝える。

 ……仮に、仮にだけど、親父に連絡を取る時には、どうすればいいんだ?」


「俺の根城の場所を教えておくよ。何かあったら、いつでも連絡してくれ。

 今まで何もしてやれなかったからな。それを取り返すわけじゃないが、できる限りのことをする。」


「分かったよ、親父。」

 アシュウィンは笑顔で言った。


「それじゃあ、私たちも戻りましょうか?」

 マナサの問いかけにアシュウィンとインジゴはうなずいた。


 馬にまたがりながら、インジゴがつぶやいた。

「今日は一体何だったんだろう?

 サイをガザンに引き渡しただけか……」


「そうだけど、ガザンの思いと立ち位置が分かったことは大収穫よ。

 幽霊師団の正体を掴めた。

 私たちの味方になるのか敵になるのか、まだ、はっきりとしないけれど。

 少なくとも、今は攻撃対象ではない。

 それに、アシュウィンのお父さんとも共闘出来るようになったしね?」

 マナサは、そう言いながら、アシュウィンを見た。


「ん?共闘……そうだな。」

 アシュウィンは横目でアジットの表情を確認した。


 アジットは笑顔で3人に手を振っていた。


「それじゃあ、本部に戻りましょうか?」

 マナサはアシュウィンとインジゴに訊いた。


「うん。」

「そうしよう。」

 2人はマナサに呼応した。


 3人は、アジットに別れのあいさつをして、馬を走らせた。

 アジットは、まだ、笑顔で3人に手を振り続けていた。


励みになりますので、応援コメントなどをお待ちしています。


よろしくお願いします。

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