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6 再会

第1部「マントラ・ウォーズ ~超常のレジスタンス~ 能力覚醒編」

第2部「マントラ・ウォーズ 伝説の剣を手に入れろ編」

も是非お読みください。

 アジットがバーニと別れてから5年の歳月が流れていた。

 別れた当初、アジットはバーニのことが片時も頭から離れずに仕事も手に付かない有様だった。

 そんなどん底の日々を送っていた時、アディティと出会った。

 アディティは活動的なバーニとは正反対だった。

 おっとりとして温和な性格で、人に優しく、周りにいる人を穏やかにさせた。

 アジットは、そんなアディティといることで、バーニとの別離に対する喪失感が徐々に薄れていった。

 そして、自然な流れのまま、アジットはアディティを伴侶とした。


 ◇


 ある日。

 自宅の居間にいるアジットは、奥の部屋で衣類を畳んでいたアディティに声をかけた。

「アディティ、そろそろ買い物に行ってくる。」


 アディティは奥の部屋から出てきた。

「あなた、悪いわね。ナツメヤシの実がマーケットにあるお店にしか売っていないものだから……ちょっと遠いけど、大丈夫?」


「大丈夫。大切な時期だ。おなかの子に何かあったら大変だからな。俺にはこんなこと位しか出来ない。」


「そう?じゃあ、お願いね。

 あと、塩と油も無くなりそうなの。」


「分かった。塩と油だな。

 じゃあ、行ってくるよ。」


「行ってらっしゃい。気を付けてね。」


「行ってきます。」


 アジットはマーケットに向かって大通りを歩き出した。

 ふと、空を見上げると、どんよりとした雲が垂れ込めていた。


 ひと雨きそうだな。急がないと。

 しかし、日々成長しているって感じだなぁ。

 息子かな、それとも娘かな……

 俺が親父になるなんて、信じられん……


 アジットが近い将来に生まれてくる子供のことを考えながら歩いていると、マーケットに近づくにつれて、行き交う人々が増えてきた。

 アジットは人の流れに身を任せてマーケットに向かった。


 王都アデリーのマーケットにはありとあらゆる品物が集まっていて、数百軒の様々な店舗がひしめき合うように軒を連ねていた。

 店のあちこちから客を呼び込む売り子の声が響き立っていた。


「お兄さん、今日はいい魚が入っているよ。買って行かない?」

 鮮魚店の店員のだみ声がアジットの耳に飛び込んできた。


 アジットは思わず足を止めた。

「悪いな。今日は魚を買いに来たんじゃないんだ。」

 アジットは店員に手を振ると再び歩き出した。


 アジットは、しばらく歩いていると、突然、マーケットの真ん中を貫いている目抜き通りで立ち止まった。

 あれっ?俺は何を買うんだっけ?


 アジットが突然立ち止まったせいで、アジットのすぐ後ろを歩いていた幼児がアジットの脚にぶつかってしまった。


「う、うわぁっ!」

 幼児はぶつかった痛さよりも驚きで泣き出した。


「あっ!」

 アジットは、慌てて振り向くと、その場にしゃがみこんで、泣いている幼児に謝った。

「ゴメンな。ぶつかっちゃって……」


 幼児の傍らには、その子の母親らしい女性が幼児の手を握って立っていた。


 アジットは、その女性に謝るために、立ち上がろうとした。


 その時、女性の方からアジットに話しかけてきた。

「やっぱり、アジットだったのね?」


「!?」

 アジットは、その久しぶりに聞いた懐かしい声に驚いて、慌てて立ち上がった。

 そして、女性の顔をマジマジと見つめた。

「……バーニ?」


「そう。アジット、元気だった?」


「うん。君の方こそ元気?身体とか大丈夫なの?」


「この通り、私も元気よ。」


「そうか、良かった。

 本当に久しぶりだなぁ。」


「本当。マーケットに来たら、アジットに似ている人が前を歩いているのを見かけて。

 まさかと思って近づいたら、急に立ち止まるんだもん。

 でも、本物だった。

 あの頃と変わっていない。」


「これでも、生活は色々と変わったよ。

 バーニも変わったみたいだね。」


「アジット、今はどんな生活をしているの?」


「実は俺、結婚した。妻がいる。」


「……そうなの。」


「俺が結婚するなんて、似合わないかい?」


「ううん、そんなことないわ。

 アジットが選んだ人だから、きっと素敵な奥さんなんでしょうね。」


「ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいよ。

 バーニ、君も家庭を持ったんだな。

 こんなに可愛い子がいるなんて……

 名前はなんて言うの?」


 バーニは子供の肩に優しく手を置いた。

「お名前を教えて欲しいって。」


「……ガザンです。」

 ガザンは恥ずかしそうに答えた。


 アジットは、アジットを見上げているガザンに視線を移した。

「ガザンて言うのか。男らしい、いい名前だ。

 こんにちは、ガザン。僕はアジットだ。君のお母さんの友達。よろしくな。」

 そう言って、アジットはガザンの頭を撫でた。


 ガザンは、初めて会う男に頭をわしわしと触られて、嫌な顔をした。


 それでも、アジットは全く意に介さなかった。

「ガザン、年は何歳だ?」


 ガザンは右手の指を4本立てた。


「4つか。お母さんを見習って、立派な大人になるんだぞ。」

 アジットはもう一度ガザンの頭を撫でようとした。


 その危険を察知したガザンは慌ててバーニの背後に隠れた。


「あれっ?嫌われたかな……」


「……ところで、アジットはパパになったの?お子さんはいるの?」

 バーニは気になっていたことを思い切って聞いた。


「俺?今はまだいない。でも、妻のお腹の中にいる。もうすぐ、俺も親父になる予定だ。」


「そうなの?おめでとう!まだ早いけど。」


「うん。お互いに新たな人生を歩んでいるんだな。」


「そうね。あれから5年も経つものね。」


「長かったような、あっという間だったような……」


「私も同じ。」


 ガザンは2人の立ち話が終わるのを待ちくたびれて、近くの店の店先にいる飼い犬とじゃれていた。


「バーニの旦那さんはどんな人?」


「……ん?まあ、普通よ。」


「同じ組織の人?」


「まぁね、そんなところ。

 ……別にいいじゃない、細かいことは。」


「えっ?うん。

 組織の活動は順調なのかい?

 時折、世間を騒がしているみたいだけど。」


「お尋ね者かしらね。

 何をもって順調というのかはあるけど、少しずつでも前に進んでいると実感しているわ。」


「そうか。それならよかった。

 君の役割も責任が増しているんだろう?」


「そうね。私の母親も寄る年波には勝てないし。近い将来、私が組織をまとめていくことになると思うわ。」


「まだ幼い子供もいるのに大変だな。」


「自分が選んだ道だから。」


「でも、ガザンは自分では選んでいないだろ?」


「そうね。子供は親を選べない。

 ただ、母親として、できる限りのことをする覚悟はあるわ。」


「……ごめん。意地悪なことを聞いて。」


「いいわ。気にしてないから。」


「そのセリフ、最初に会った時も聞いた。」


「そうだっけ?」


「ああ。あの時のこと、よく覚えている。」


「私は、お店でのことはあまり覚えていないわ。」


「そうだろうな。沢山いた客の中の1人だったから。でも、俺は忘れない。」


「でも、その後のデートに誘ったことはよく覚えている。

 自分からデートに誘うなんてしたことなかったし。必死だったから。」


「なんか、唐突にデートに誘われたような感じだったなぁ。

 そのこともよく覚えているよ。」


「なんか、すごく嬉しい。」


「今日は、こうして偶然出会えて、本当によかったよ。

 もう、バーニとは一生会えないと思っていたから。」


「そうね。こんなこともあるのね。

 アジットと私は、そういう巡り会わせなのかも。

 運命の糸にお互い引き寄せられたのかもね。」


「運命の糸か……」


「そろそろガザンがしびれを切らしているみたいだから行くわね。

 アジット、元気でね。」


「バーニ、自分と家族を大切にな。」


「ありがとう。また、アジットに会える気がする。」


「ああ、会えるさ、必ず。同じ空の下にいるんだ。」


 ガザンの手を握ったバーニは、以前に付き合っていた頃と変わらぬ笑顔でアジットに手を振ると、名残惜しそうに人混みの中に消えていった。


 アジットはバーニとガザンの姿が人混みに紛れて見えなくなっても、暫く人波を眺めていた。


 ……さてと、先ずはナツメヤシの実を買うんだったな。

 ナツメヤシの実って、どこの店に売っているんだろ?

 アジットは取り敢えず人の波に流されながら歩き始めた。


励みになりますので、応援コメントなどをお待ちしています。


よろしくお願いします。

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