3 正体
第1部「マントラ・ウォーズ ~超常のレジスタンス~ 能力覚醒編」
第2部「マントラ・ウォーズ 伝説の剣を手に入れろ編」
も是非お読みください。
「どういうことだっ?何でここにいるっ?どうしてだっ?」
インジゴはまくし立てる様に詰問した。
「……すいません。
伝説の剣がどんなモノなのか興味があって、つい……」
男は頭を掻くような仕草をした。
「興味って……闘技場には近づくなと説明したはずだっ!」
インジゴは怒りで口元が震えていた。
「貴様は小隊長なんだぞっ!
分かっているのかっ?」
「分かっていますよ、隊長。」
「貴っ様ぁぁーー!」
怒り心頭のインジゴは反射的に殴りかかった。
「手を上げては駄目よっ!」
マナサがインジゴの右腕を掴んで止めた。
「離せっ!
殴らないと気が済まんっ!」
インジゴはマナサに掴まれた右腕を振り払おうとした。
「決めつけないでっ!
まだ、決まった訳じゃないでしょっ?」
マナサはインジゴの右腕を掴んだまま諭した。
「インジゴ、直属の隊長として冷静に対処してくれ。」
ニキルはインジゴをたしなめた。
「……はい。すみません。」
インジゴは普段の冷静さを取り戻した。
マナサは、インジゴが冷静に戻ったことで、掴んでいたインジゴの右腕を離した。
「では、第1隊小隊長のサイ、取調室に移動する。」
インジゴは、サイの両手を後ろ手に拘束すると、サイを促して歩き出した。
◇
ラーマの麒麟本部内の取調室
部屋の中央のイスに座らせられたサイは、暴れることもなく、至って冷静だった。
「命令を反故にして闘技場に行ったことは謝ります。
魔が差しました。すみません。これからは十分に注意します。」
「本当に魔が差しただけなのか?
いつも冷静に戦況を判断するお前が、魔が差して命令違反をするのか?」
インジコは追求の手を緩めない。
「興味本位で命令を破るような人間じゃないだろう。」
インジゴは感情が暴走して暴力的になることを何とか理性で堪えていた。
「ですから、魔が差したんです。」
サイは冷静なままだった。
「サイ、本当は近衛兵団の人間じゃないのか?」
「私が?そんな馬鹿なこと……
私は隊長の下で共に戦ってきたんですよ。
隊長が一番分かっているはずじゃないですか?
一度魔が差した位でこんな仕打ちを受けるんですか?」
「今、アシュウィン隊長とマナサ隊長がお前の個室の中を捜索している。
潜入者であることの動かぬ証拠が出てこないといいがな。」
「私の部屋ですか?何も出てこないですよ。
私は潜入者じゃありませんから。」
サイは微動だにしなかった。
ニキルは、サイを尋問するインジゴの後ろで腕組みをしたまま、サイの表情や仕草を細かく観察していた。
「サイ、本当に魔が差しただけなのか?」
「副官、本当です。
今後は軽率な行動を取らないように十分気を付けます。」
ニキルを真っ直ぐに見据えたサイの表情からは、サイの言葉が真実か否かを判断することは出来なかった。
仮に潜入者だとしても、悟られないように十分訓練を積んでいるんだろうから、そう簡単には尻尾を出さないだろうな……
力ずくでも口を割らんだろうし……
それに、本当に魔が差しただけなら、手を上げてしまうと元の関係に戻ることは不可能だ。
どうする?
マナサとアシュウィンの捜索で何らかの成果があればいいが……
ニキルはこの先の展開をどうすべきか逡巡していた。
張り詰めた空気の中、インジゴが口を開いた。
「話を変えるが、サイが持ってきた幽霊師団の情報、あの情報は近衛兵のたまり場となっている酒場で掴んだと言っていたが、あれは本当か?」
「はい、そうです。
私が酒場に通い詰めて収集した情報です。」
「だが、結局、あの情報は間違っていた。幽霊師団はいなかった。
それどころか、その情報のためにチャンドラ隊長を始め、第2隊の騎馬隊が全滅した……」
インジゴは声を詰まらせた。
「……すいません。
私の情報のせいで……
言い訳に聞こえるかも知れませんが、情報元の兵士が酒に飲まれて言ったことを鵜呑みにしてしまいました。
本当に痛恨の極みです。
……第2隊の騎馬隊が全滅したことが私の責任だと言うのなら、甘んじて処分を受けます。」
言葉とは裏腹に、サイの態度が漂々としているようにニキルには映った。
「何故、第2師団はチャンドラ小隊がいることを知っていたんだ?」
ニキルが更に問い詰めた。
「情報元が第2師団のことを幽霊師団と勘違いしていたんだと思います。」
「果たしてそうかな?第2師団はチャンドラ小隊を追って来たらしいぞ。」
「……そうですか。
実際にどうだったのか、私には知る術もありません。」
「サイ……」
インジゴが昔話でも語るように取調室の天井を見上げながら口を開いた。
「今まで共に死線をくぐり抜けてきたよな。」
「はい、そうです。隊長と共に命を張ってきました。」
サイは大きく頷いた。
「それがまやかしだとは信じたくない。
私や仲間を裏切らないでくれ。」
「……はい。」
サイは視線を落とした。
「サイ、私を見るんだ。
お前はラーマの麒麟の隊員として小隊長として真実を語っているのか?」
インジゴは射抜くような眼つきでサイの目を見つめた。
「……」
サイは、下を向いたまま、言葉が出なかった。
「答えられないのか?」
「信じてください。」
サイは、一瞬インジゴの顔を見て、再び下を向いた。
「サイ……」
インジゴはため息交じりに言った。
その時、取調室の扉が開いて、アシュウィンとマナサが現れた。
「どうだった?」
待ちかねたようにニキルが訊ねた。
「これといったものは何も……」
マナサが首を左右に振りながら答えた。
サイは、その言葉を聞くと、顔を上げてマナサを見た。
「潜入者だと断定できるようなものは見つかりませんでした。」
マナサはイスに腰かけているサイを見たまま言った。
「何も出なかったのか?」
インジゴはホッと安堵のため息をついたのと同時に落胆した。
「なーんにも無い。」
アシュウィンが吐き捨てるように言った。
「なぁ、サイ。そんなに『毘羯羅麒麟』に興味があるのか?」
「伝説の剣、ですから……
みんな興味があると思います。
本当に見つけたんですか?」
「今のあなたには教えられないわ。
分かるでしょ?」
マナサがサイの質問を引き取った。
「まあ、はい。」
「インジゴ隊長から聞かれたかも知れないけど、私が第3隊に在籍していた時にカダクの支部が襲われた。
知っているわね?」
「はい、当然知っています。」
「襲ってきた近衛兵団は支部がある場所や施設の出入口の位置も知っていた。」
「私が近衛兵に教えたとおっしゃるんですか?」
「違うのかしら?」
「私ではありません。
私は逆に近衛兵から情報を収集していたんです。」
「それじゃあ、その見返りにこちらの情報を教えたんじゃないの?」
「そんな、馬鹿馬鹿しい。」
「チャンドラ隊長の騎馬隊もその居場所を捕捉されていた。」
「さっきも言ったんですけど、私が掴んだ幽霊師団の情報が実際には第2師団の情報だったんだと思います。」
「違うわ。それは違う。
第2師団はチャンドラ隊長たちを討つのが目的だったのよ。」
「ですから、その辺のことは私には分からないんですっ!」
サイは語気を荒げた。
「あなたの部屋の中、確認させて貰ったけど、何も出なかったわ。」
「そうですよね?
私が潜入者だなんて馬鹿げた話の証拠なんてあるはずがない。」
「そうね。
だから怪しいのよ。」
「だから怪しい?」
「そう。
何も無さすぎる。」
「だから、証拠はないんですよ。」
「証拠だけじゃなくて、身の回りの品や備品も最低限の物しかない。
生活感がない。
まるで、何時でも姿を消すことが出来るように準備しているみたい。」
「日々、命を懸けていますので、部屋には必要最低限の物しか置いていません。」
「そう。それにしても少な過ぎるんじゃないかしら。
極度の緊張の中で任務に当たっているのだから、せめてプライベートスペースには生活感があって、生への執着が感じられることが普通だけど、あなたの部屋は違う。
違和感満載よ。」
「違和感満載?そう感じられても、私には言いようがありません。
独り者で物欲が無いので、あの部屋にある物で十分なんです。」
アシュウィンが口を開きかけたところで、扉が開いた。
そこにいた全員が一斉に振り向くと、シーラが取調室の中に入ってきた。
「シーラ、何かあったのか?」
ニキルが話しかけた。
「サイは真実を語った?」
「いや、まだだ。」
「しょうがないわね。そう簡単には本当のことをしゃべらないでしょう。」
「うん?うん……」
「伝えたいことがあって来たんだけど。」
「伝えたいこと?」
「そう。
大師が予知夢を見たらしいわ。」
シーラはサイを意識するように言った。
「予知夢?何の予知夢か聞いたのか?」
ニキルが食い気味に聞いてきた。
「ええ、サイの件よ。」
シーラはサイの表情を見ながら言った。
サイは、一瞬、両肩をビクッと動かした。
「サイ。潔く自ら口を開くべきじゃない?
私が大師の予知夢の結果を伝える前に。」
サイはシーラの言葉に耳を傾けなかった。
「覚悟は出来ているってことかしら?」
「副官、やはりサイは……」
インジゴは眉間にしわを寄せながらシーラに聞いた。
「残念だけど、大師の予知夢では、サイは潜入者として、近衛兵団の師団長の特命で行動していた……
そういうことらしいわ。
どの程度の情報が漏れているのか……」
シーラはため息交じりに答えた。
「サイッ!弁解の余地は無いな?
洗いざらい白状してもらうぞっ!」
インジゴがサイに詰め寄った。
「お前の上官、師団長は誰だ?」
ニキルも畳みかけるように訊いた。
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