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2 潜入者

第1部「マントラ・ウォーズ ~超常のレジスタンス~ 能力覚醒編」

第2部「マントラ・ウォーズ 伝説の剣を手に入れろ編」

も是非お読みください。

 ラーマの麒麟本部の中庭


 アシュウィンとマナサは、隊の再編成を受けて、それぞれ第2隊と第3隊の隊員を招集していた。


「第3隊の隊員は本日付けで第2隊の所属となります。

 なお、アシュウィン副長は隊長に昇格するため、副長の後任にはモハンが昇格します。

 モハン、前へ。」

 マナサは隊列の先頭に並んでいたモハンを自分の横に呼び寄せた。


「はい。」

 モハンはいつもの機敏な動作でマナサの横に並んだ。


「私とモハン副長の下で旧第3隊は新生第2隊となります。

 亡くなったチャンドラ前隊長や小隊の隊員の名誉を汚さぬよう、皆でバシット卿からこの国を取り戻しましょう。」


「了解しましたっ!!」

 新生第2隊の隊員は気合を込めて叫んだ。


 マナサは第2隊の隊列の最後方にいる隊員に近づいて声をかけた。

「シン、隊員が安心して戦えるように、医務官としてしっかり務めてね。

 私を救ってくれた時のように。」


「はい、お任せください。」

 医務官となったシンは、みぞおちに右手の拳を当てて、マナサに敬礼した。


「では、第2隊全隊は施設に戻って、ミーティングを行います。」

 マナサは、そう言うと、隊員たちと共に第2隊の施設に移動した。


 そのマナサの行動を注視していたアシュウィンは、第3隊の隊員の前に立った。

「みんな、アシュウィンだ。

 チャンドラ隊長とみんなのために、この隊はあった。チャンドラ隊長の下で一致団結した素晴らしい隊だ。」


「チャンドラ隊長は、本当に亡くなったんですか?

 ご遺体は、いまだに発見されていないんですよね?」

 隊員の1人がアシュウィンに質問した。


「こんなことは口にしたくないが、遺体は確認されていないとしても、生きている証が見つからない以上、亡くなっていると考えざるを得ないと思う。

 俺も、ふと、あの豪快な笑い声を響かせながら、チャンドラ隊長がひょっこり目の前に現れるんじゃないかと思うことがあるよ。」

 アシュウィンは寂しそうに笑った。


「すいません。余計な質問をしました。」

 質問をした隊員が頭を下げた。


「気にするな。当然の疑問だ。みんなの気持ちはよく分かっているつもりだ。」

 アシュウィンは、質問した隊員を慰めると、再び全隊員に向けて言葉を発した。

「俺は、チャンドラ隊長の代わりになろうなんて、これっぽっちも思っていないし、代わりになれるとも思っていない。

 チャンドラ隊長が生きていた時もいなくなった今も、俺たちの目標は何も変わっちゃいない。俺のことをどう思おうが、俺は一切気にしない。

 ただ一つの目標に向かって、第3隊一丸となって全員で突き進もう。それだけだ。」


 アシュウィンの演説を隣で聞いていたジョディは、アシュウィンの耳元にそっと唇を近づけると、「隊長、大丈夫ですよ。隊員は皆、隊長を隊長と認めています。」と、優しくささやいた。

 そして、隊員に向けて口を開いた。

「副長のジョディです。

 今、アシュウィン隊長の話にもありましたが、我々の目標は何も変わりません。

 新生第3隊として、アシュウィン隊長の下、チャンドラ隊長や亡くなった仲間たちに恥じない戦いをしましょう!」


「了解しましたっっ!!」

 新生第3隊の隊員はアシュウィンに敬礼しながら叫んだ。


「起きてしまったことは元に戻せません。過去は過去として受け入れて、前を向いて、一歩ずつ前進しましょう!」

 ジョディは隊員たちを鼓舞した。


「了解っっ!!」

 アシュウィンと隊員たちは天に向かって叫んだ。


「じゃあ、隊長。」

 ジョディがアシュウィンに水を向けた。


「えっ?」

 アシュウィンは、戦闘の傷が完全には癒えていないジョディの端正な顔を見つめた。


「皆を施設の会議室に移動させないと……」

 ジョディが促した。


「そ、そうだな……

 みんなっ!これから第3隊の施設の会議室で打ち合わせだ。」

 アシュウィンは施設の方を指さしながらぎこちなく指示した。


 アシュウィン以下第3隊の隊員は高揚した心持ちのままで施設に移動した。


 ◇


 ラーマの麒麟第1隊の施設内の会議室

 ブリーフィング中の第1隊


 インジゴが隊員に今後の行動計画を伝えている最中だった。

 シュリア、サイ、レアンの各小隊長も最前列に着席して、それを聞いていた。

「……打合せの内容は以上だが、1つ連絡事項がある。

 別棟の闘技場の使用についてだが、第3隊のアシュウィン隊長が最近探し出した伝説の剣『毘羯羅麒麟』のマントラ能力を検証するために使用する予定だ。

 言うまでもないが、その内容は機密扱いなので、今日一日は闘技場に立ち入ることはもちろん、近づくことも何人たりとも禁止だ。

 いいな?」


「はい。」

 隊員たちは声を揃えた。


「『毘羯羅麒麟』って、本当に存在していたんですね。」

 シュリアがつぶやいた。


「ああ、そうだ。確か、アシュウィン隊長の父親が隠していたはずだ。」

 隣にいたサイが答えた。


「サイ、詳しいな。」

 インジゴが意外そうにサイに訊いた。


「立場上、様々な情報が耳に入りますから。」

 サイは恐縮して答えた。


「アンテナを高く張っている証拠だ。」

 インジゴは満足げに言った。


「『毘羯羅麒麟』か……本物を拝みたいものだな。」

 レアンが独り言のように言った。


「その内、目にすることになるだろう。」

 インジゴは話を切り上げた。


 ブリーフィングが終わると、隊員たちはそれぞれの部屋や詰所に戻って行った。


 インジゴは会議室から出て行く隊員一人一人の後ろ姿を見送った。

 第1隊に潜入者なんている訳が無い。

 全員が数々の戦闘で修羅場をかいくぐった仲間だ。同志だ。

 ラーマの麒麟内に近衛兵の潜入者がいるなんて……マナサの思い過ごしだ。

 そうあって欲しいものだ……


 ◇


 ラーマの麒麟第2隊の施設内の会議室

 ブリーフィング中の第2隊


 マナサから行動計画の説明を受けたモハンが質問した。

「隊長、カダクの支部は今後どうなるのでしょうか?」


「元々あった施設の場所は近衛兵団に把握されているので使用出来ないし、今後、カダクに支部を置くことは難しいと思います。」

 マナサはカダク防衛戦の事を思い出していた。


「では、我々の本拠地はこの本部施設のみということですか?」


「そうですね。そうなります。」

 マナサは第2隊全隊員の表情を見渡した。

 この中に潜入者がいる……?

 仮にそうだとすると、重要な情報に接することが出来る人物……

 幹部級の人間……

 ……考えたくないわ……

 出来ることなら、私の思い過ごしであって欲しい。

 マナサは気を取り直して隊員に説明した。

「全員に重要な連絡があります。

 別棟の闘技場の使用制限についてです。

 皆、知っていると思いますが、第1隊のインジゴ隊長が先の峡谷の戦いで重傷を負いました。

 現在は回復していますが、当時は死線をさまよって、何とか一命を取り留めた状態でした。

 その際、不幸中の幸いと言うと語弊があるのかも知れませんが、身体的にある種の化学変化に似たような反応が起きたらしいのです。

 インジゴ隊長は、その身体的な反応によって、新たなマントラの能力を得たと言うことです。

 そのマントラの能力の確認や訓練のために、闘技場を使用するとのことです。

 したがって、今日一日、闘技場を使用することは出来ませんし、近づくことも厳禁となります。」


「インジゴ隊長が2つ目のマントラを使えるようになったということですか?」

 モハンが興味深げに聞いてきた。


「そういうことらしいわ。」


「でも、マントラの能力は1人に1つなんですよね?

 使うことが出来ない私が言うことではないんですが……」


「ええ、そのための確認ですからね。

 ……興味がありそうね、モハン。」


「えっ?副長として知っておくべきかと……」


「そう……」

 マナサは笑みを浮かべた。


 ◇


 ラーマの麒麟第3隊の施設内の会議室

 ブリーフィング中の第3隊


「……我々第3隊はチャンドラ隊長と騎馬小隊の隊員を失ってしまった。とてつもなく大きな損失だ。だが、副長のジョディが生還できたことは唯一の救いだ。

 中々気持ちを切り替えられないとは思うが、相手も待ってはくれない。

 近衛兵団も師団長を失って、強引な攻撃を仕掛けてくるかも知れない。

 一致団結して、気合で乗り越えよう。

 俺からは以上だ。」

 アシュウィンはジョディに目をやった。


「第3隊は、すぐに隊員を増員できる状況にはありません。騎馬小隊がいない大きな穴は全員でカバーするほかない状況です。

 アシュウィン隊長の下、今の体制で最大限可能な働きを見せましょう。

 一人一人が問題意識を持って、効果的、効率的な作戦行動を取りましょう。

 ……そして、何よりも気合いですっ!」

 ジョディは、アシュウィンをフォローして、再び隊員を鼓舞した。


「よし。それじゃあ、この辺で解散だな。」

 アシュウィンはジョディに確認した。


「そうですね。」

 ジョディは同意した。


「あっ!違う、違うっ!言い忘れていたことがあった。」

 アシュウィンは立ち上がろうとしている隊員たちを制止した。


「何か、ありましたか?」

 ジョディはイスに掛け直した。


「忘れるところだった。

 外に闘技場があると思うけど、今日は誰も使用できないことになっているんだ。」


「えっ?そうなんですか?

 これから闘技場で戦闘隊形の確認をしようと考えていたんですが。」

 ジョディが驚いて訊いた。


「ジョディ、まだ傷も完全に癒えていないのに無理するな。

 闘技場はマナサが使用する予定だ。

 ある種の実験みたいなことをするって言っていたかな?」


「……なんか、うろ覚えですね。」

 ジョディが突っ込んだ。


「いやぁ……実験と言うか、カダクの戦闘の時にマナサとセシルが距離的に近いところで戦っていた影響とかで、同じマントラを使う2人の波長が同期したとか何とかで……

 マナサの頭の中にセシルの意識が流入してきて、セシルの思考が分かるようになったらしい。」

 アシュウィンは、額に汗をにじませながら、しどろもどろに説明した。


「…………はい?」

 ジョディは眉間にしわを寄せて首を傾げて見せた。


「とにかく、そういうことで、意識を同期する実験をするらしい。

 っていうか、マナサにセシルが乗り移るってことかな……怖っ!

 どっちにしても、闘技場に近づかないことっ!使用禁止だっ!」

 アシュウィンは言いたいことを一方的に言って話を切り上げた。


「……結局、闘技場は使用できないということですね?」

 ジョディは、かいつまんだ。


「……はい。」

 アシュウィンはうなずいた。


「了解しました。」

 ジョディは笑顔になってクスッと笑った。


 ◇


 ラーマの麒麟本部施設裏手の林の中

 ちょうど、その位置から別棟の闘技場の裏側を見渡せた。


「来ますかね?」

 インジゴがニキルに訊いた。


「仮に近衛兵の潜入者がいればな。

 いるなら、潜入者にはどうしても手に入れたい情報だと映るだろう。」

 木陰にしゃがみ込んでいるニキルはインジゴを見上げた。


「少なくとも、第1隊の隊員の中には潜入者なんていませんよ。」

 インジゴは闘技場の方を見たまま答えた。


「考えたくないものだな、ラーマの麒麟の中に潜入者がいるなんて……」


「はい。罠を張ったことが、徒労に終わることを祈りましょう。

 ……今、闘技場には母さんが1人でいるんですね?」


「そうだ。猫と一緒にいる。」


「ヒマですか?」


「ああ。相変わらず、俺はあの猫に嫌われているけどな。」

 ニキルは子供のように口をへの字に曲げた。


 無邪気だなぁ……

 インジゴは子供っぽい父親を微笑ましく感じていた。


 ◇


 第3隊の施設の裏

 そこから別棟の闘技場の正面を監視できた。


「誰か来るかな?」

 アシュウィンは小声で傍らにいるマナサに訊いた。


「誰も来ないと信じたいけど、撒いた餌に食い付く魚がいると思うわ。

 ……なんか言い方が悪いわね。

 今日、闘技場で行われるとした情報。

 近衛兵の潜入者であれば、確認せずにはいられない情報のはずよ。

 全くのでまかせだけど、隊のブリーフィングで話せばリアルでしょ?」


「まあね……

 ただ、でまかせだから上手く説明できなくて、ジョディに突っ込まれたよ。」


「冷静なジョディならそうでしょうね。

 アシュウィンがたじろいでいる光景が目に浮かぶわ。」

 マナサは目を細めた。


「でも、これって、潜入者じゃなくて、興味本位で見に来る奴がいないとも限らないよね?」


「その可能性もあるけど、ブリーフィングで近づくことも禁止だと説明したんだから、普通は来ないわよ。

 ……アシュウィンもそう説明したんでしょ?」


「その辺は抜かりなく。」


「潜入者であろうがなかろうが、ここに来た理由を問いただす必要があるわ。

 白黒をハッキリ付けることが必要よ。

 キツい言い方だけど、潜入者というリスクを排除しなければ、私たちの組織全体に危険が及ぶ。

 それが誰であれ……」


「うん、……だね。

 潜入者を早くあぶり出さないと、って思っていたけど、誰も来ないでほしいな……」


「そうね。複雑な心境だわ……」


 2人が闘技場の窓を見ると中の人影が動いた。


「副官、ヒマと一緒に中にいるんだな。」


「そうね。特にすることもなくって、暇だからヒマといるんじゃないの?」


「へ?」

 アシュウィンはマナサの親父ギャグに少しだけ引いた。


「ゴメン……」

 マナサはチラッとアシュウィンを見た。


 その時、アシュウィンたちがいる側とは反対側の闘技場の側面に人の気配を感じた。

 思わず、アシュウィンとマナサは目を合わせた。

 2人は、息を止めて五感を研ぎ澄ますと、その気配に集中した。


 その人の気配は、できる限り足音がしないよう、慎重に歩いているように感じた。


 行く?

 アシュウィンが手振りでマナサに確認した。


「もう少し待って。

 1人じゃないかもしれない……」

 マナサは押し殺した声でアシュウィンを止めた。


 アシュウィンはゆっくりうなずくと気配のする方を凝視した。

「ダメだ。見えない。もう少し近づこうか?」


「そうね。行きましょう。」


 アシュウィンとマナサは、第3隊の施設を離れて、闘技場の方に近づいて行った。


 ◇


 闘技場の裏手にある林の中にいたニキルとインジゴもまた、闘技場の横の敷地にうごめく人影を発見した。


「インジゴ、見えているか?」

 ニキルが目を細めて闘技場を見ながらインジゴに確認した。


「あの人影ですね?」

 インジゴも闘技場から目を離さないまま答えた。

「誰だろう?」


「覆面を被っているのか、ターバンを巻いているのか、顔を隠していて分からないな。」


「1人みたいですね。」


「ああ、単独だな。」


「行きますか?」


「行こう。」


 ◇


 アシュウィンとマナサは、息を殺して気配を消しながら、慎重に闘技場に近づいた。

 そして、闘技場の正面の壁伝いに側面に近づくと、角のところで立ち止まって、向こうの気配をうかがった。

 聞き耳を立てていると、角の向こう側から足音と息遣いが聞こえてきた。


 アシュウィンは、闘技場の建物の角のところで顔を半分だけ出して、向こう側をそっと覗いた。


 すると、闘技場の側面にある小窓から中を覗き込んでいる人物がいた。

 その顔には黒いターバンが巻かれていて、素顔を確認することが出来なかった。

 ただ、身体つきから男であることは確かだった。


 やるぞっ!

 アシュウィンは目配せでマナサに合図した。


 マナサは小さく頷いた。


「バキラヤソバカッ!」

 アシュウィンは、両手の手のひらを開いてマントラを唱えると、その男の動作を止めて拘束した。


「ひっ!」

 その男は突然見えない力に全身を押さえ付けられて悲鳴を上げた。


 マナサは、素早くその男に近づくと、顔を覆っていたターバンを剥ぎ取った。


「お、お前はっ!」

「あ、あなたっ!」

 アシュウィンとマナサは揃って声を上げた。


 そこに、ニキルとインジゴも遅れて闘技場に到着した。


「潜入者なのか?その男は誰だ?」

 ニキルはその男の顔を覗き込んだ。

「お、お前……」


 屋外の人声を聞きつけたシーラが、ヒマを抱いたまま闘技場から出てきた。

「誰かいたの?誰が闘技場に?」


 シーラの声にニキルが振り向いた。

「ご覧の通りだ。」


「あなたが……どうして?」

 シーラは、捕まっている男を見て、信じられないような表情をした。


「しゃーっ!」

 ヒマは、ニキルの顔を見て、前足を上げて威嚇してきた。


 ニキルの隣にいたインジゴは、その男の顔を確認して、絶句した。


励みになりますので、応援コメントなどをお待ちしています。


よろしくお願いします。

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