一休みに愛を一つ
ようやく今日の仕事の目処がついた午後八時。
デスクワークで凝り切った首を回し、両手を高く天井に伸ばして一息つく。
勢いよく腕を下ろし、右斜め向かいにいる彼を見てみた。
このオフィスには、私と彼だけ。
眼鏡をかけて真剣な顔してパソコンに見入っている。
マウスを操る右手と、画面を見つめる目だけが素早く動いていて、なんだかおかしくなった。
「終わりそう?」
デスクに両腕を乗せ、前のめりになって聞いてみると、こちらをちらりとも見ずに
「もう少しかな」
と淡白な返事が。
仕事モードになるといつもこんな感じだから特に気に留めず、オフィスを出てフロアの奥にある自販機に向かった。
仕事モードになったらすごく真剣で、頼りになる彼。
私も何度も助けてもらった。
そして、いつの間にか好きになっていて、何度か仕事帰りに二人でご飯を食べに行ったりするうちに、彼も同じ気持ちだと教えてくれた。
缶コーヒーを二本買って、オフィスに戻る。
彼のデスク側にあるドアを開けると、さっきと変わらない体勢で黙々とマウスを動かしていた。
そっと後ろに立って、パソコンの横に缶コーヒーを一本サッと置くと、うおっ! と声を出して肩をびくつかせた。
今の反応かわいいなぁと思いながら、後ろから首元に抱き着いてみる。
「コーヒー飲むでしょ?」
「ん、ありがとう」
頬と頬をくっつけてみたけど、無反応。
「まだ仕事中なんだけど」
「知ってる」
「誰か来たらどうすんの」
「その時考えるよ」
「その前に考えろよな」
特に体勢は変えずに相手をしてくれた。
それだけで満足した私は、頬に短くキスをしてから離れた。
それから自分のデスクに戻ろうとしたら、咄嗟に掴まれた右手。
びっくりして振り返ると、眼鏡をデスクに置き、オフィスチェアーごと後ろに下がる彼の姿が。
そして、掴んでいる私の右手を引っ張った。
「え、ちょっと!」
落としそうになった自分の缶コーヒーを慌ててデスクに置き、勢いのまま彼の膝の上に横向きに座ると、片方だけ口角を上げて笑いながら私の腰に腕を回してきた。
「怪しい顔して何企んでんの?」
「失礼な。何も企んでないし」
「ニヤニヤしてるもん、怪しい」
「そう言いながら自分もニヤニヤしてるの、気付いてないの?」
「なっ……」
図星をつかれて眉間にしわを寄せると、顔を背けて、ははっ! と大きく笑った。
何だか悔しくて腕を叩くと、その手に自分の手を絡めて優しく見つめてくる。
……ずるいなぁ。
近づいてくる唇に、目を閉じて降参した。
「日曜日、どっか行く?」
「行く!」
「よし、んじゃ、これ今日中に終わらせるわ」
もう一度軽く触れ合い、彼の膝から下りた。
私が歩き始めると、眼鏡をかけ、ラストスパートへのスイッチを入れる。
仕事モードになると本当に淡白だけど、私の前で見せてくれる姿はかわいいから、まぁいっか。