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隠された翼  作者: 月岡ユウキ
第一章 幼年期編

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俗っぽい妖精

 朝食後、私はグレンダの講義を受けていた。


 彼女が言うには、この世界では四大精霊の力がほぼ全てであり、昨夜現れた『白妖精』『黒妖精』という存在は殆ど知られていないそうだ。古い書物の中に『その力は光と闇』あるいは『聖と魔』等と諸説伝わってはいるが、詳細は全く解らないらしい。


 グレンダは過去に四大精霊、全ての加護を頂いたそうだ。しかし、白・黒妖精という存在は会ったことがないどころか、今まで気配すら感じたことも無かったという。


 そのため「彼らについて教えてやれることは無い」と言い、午前中の講義は四大精霊についての基本的な性質や相性、主な精霊の名前や魔法についてのおさらいだけで終わった。



 そして余った時間を使い、ブレスレットを持ち歩く為の袋を作った。グレンダに教えてもらいながら、鹿革を使って小さな袋を縫う。


 口の部分に幾つか穴をあけ、革紐を通した。革紐は長さを調節できるように結び、袋にブレスレットを入れて首から下げる。


「ポケットに入れておくより、余程いいだろうよ」

「グレンダ、ありがとう。これなら無くす心配がないわね!」


 残念ながら今の自分は何も憶えていない。それでもこの世界には、私に対して過保護なほどの愛を注いでくれた人が確実にに存在しているのだ。

 私はその人の愛を無碍(むげ)にしたくは無かった。


(これで『この人の愛』を守ってあげられるかな……)


 私は首から下げた鹿革の小さな袋を、そっと両手に包んだ。



***



 早めに講義を終え、グレンダと庭に出るとマリンの感嘆の声が響いた。


「レオン、すごいです~!!」


 聞けば午前中、レオンが大きな山鳩(やまばと)に雄の(きじ)、そして若い雄鹿(おじか)を仕留めたという。これはマリンがはしゃぐのも無理はない。


「まずはシチューかしら~。あとはハムにベーコンに~、サラミも沢山作っておきたいわ~!」


 料理と保存加工を考えながら、マリンはとても楽しそうだ。


 ちなみにマリンは解体も出来るらしい。「解体は料理の基本ですよ~」と言っていたが、個人的にちょっとそれは違う気がする。


 そしてレオンは、マリンに解体を教えてもらう気満々だった。鳥程度なら解体できるが、大物の四足動物はまだ一人で獲ったことがなく、経験が無いという。


 ロムスはグレンダに、狩りでのレオンの様子を伝えていた。


「思ったとおり、レオン(あいつ)はなかなか筋がいい。精霊力も本人なりに()()を掴んだみたいだな」

「ありがとよ、ロムス。午後の授業が楽しみになったよ」



 ロムスはこれからすぐ街に向かうという。

 昼食をとってからにすれば、とグレンダが誘ったが断っていた。元々今日の早朝に出るつもりだったのを、レオンに付き合って半日伸ばしたので急いで戻るそうだ。街にはグレンダの薬を待っている人が沢山いるという。



「ロムス様~、はいお弁当です~」


 マリンは大きな籠を一つ、ロムスに渡した。


「おお、ありがてえ! マリンのサンドパンは絶品だからなー♪ なんたって、このソースが最高なんだよな!」

「えっと~、そのサンドパンソースは、サンディが考えたんです~」

「そうなのか!?」


 ロムスは目をまん丸にして、私を見た。

 いわゆる『マヨネーズ』を使ったサンドパンは、ロムスの大のお気に入りになっていたのだが……そうか、そういえば言ってなかったっけ。


「うん、そうよ」


 ぐぐっと近寄ってロムスが耳元で囁く。


「これ、絶対売り物になるぜ。なあ、これで一儲けする気無いか?」


 俗っぽい妖精だなぁと思ったが、それは黙っておいた。


「そのソースは日持ちがしないの。作ったら新鮮なうちに使いきらないといけないから、ここで作って街まで持っていくのは難しいと思うわ」

「そうか、残念だな。――いや、ちょっと待てよ」


 指をパチンと弾くと、ロムスは()()()をしてニヤリと笑った。


「ちょっと俺に考えがあるんだ。サンディさえよければ、このレシピを教えてくれねえか?」

「ええ、構わないわ。でも悪いことに使っちゃダメよ?」

「おいおいー、ちょっと待ってくれよ。これでも俺様、街じゃ正直者で通ってるんだぜー?」


 ロムスは大げさなそぶりで肩をすくめてみせた。それはまるで、前世のテレビで見た『Oh~!』って言うアメリカ人の仕草そっくりだ。正直、とても胡散臭い。


「だって今、ロムス様ったらものすご~く悪い顔してましたよね~」

「ね~~」


 マリンと二人、顔を見合わせ一緒に首を傾けて同意していると、レオンが横でケラケラと笑う。


「ちょ、レオン! お前、今度俺が来るまで、毎日腕立て百回ノルマな!」

「ええええ!」


 今度は私とマリンがケラケラと笑う番だった。 



「まったくどっちが子供なんだか……」


 少し離れたところで彼らのやりとりを眺めながら、グレンダは呆れたように笑っていた。

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