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隠された翼  作者: 月岡ユウキ
第一章 幼年期編

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レオンの成長

 朝食後、レオンは森に入っていた。


 ロムスから課せられたノルマは、午前中のうちに鳥を二羽と四足生物を一頭。それを昨晩受け取った弓を使って仕留めるところまでだ。あとは自分の判断で動けと言われている。


 レオンの首元には、エメラルドグリーンに輝く鱗を持つ細い蛇が巻き付いている。それは『監督役』としてついている、変化した姿のロムスである。


 しかし、レオンが木々の枝を渡っていると『次のあの枝に掴まって片手懸垂を各20回』と突然の筋トレ指示。

 小鳥を見つけて狙えば『シャーッ!』と威嚇音を出されて逃げられてしまう。

 やっと猪を見つけて風下で狙いを定めていると、風向きを急に()()()()()しまい、獲物に気づかれ逃げられてしまう。


「んもー! ロムスはさっきから邪魔してばっかりじゃないか!」


 レオンは怒りを通り越し、呆れながら抗議した。


『これも体力と()()()の強化だ。文句言わずにやれ』


 緑の蛇(ロムス)はチロチロと赤い舌を出しながら、思念で会話している。その上クククと笑っているようだ。


『あと狩りの時はな、()()()()()()()()を常に考えて行動しろ』

「察知?」

『鳥は空を飛び樹上で休む。四足歩行の動物は必ず地面を歩き、魚は水中に居る。それを()()するんだ』


 レオンはうーんと唸って首を傾げる。全くピンとこない様子だ。ロムスは思念での会話を続ける。


『お前が今、獲物を確認しているのは()()()()だ。そこに()()()を追加しろと言っている。この森は特に豊かだからな。そこら中に満ち溢れている精霊たちの力を借りろ──って仕方ねえな。少しだけ俺の視覚を貸してやる』


 首に巻き付いている緑蛇(ロムス)が淡く光った。するとレオンの視界いっぱいに、キラキラと光る粒の様なものが見えはじめた。それは森のそこかしこに光っていて眩しい位だ。


『こいつらは精霊の力そのものだ。そして性質は色になって現れる』


 レオンは光る粒を観察し始めた。

 足元の地面には黄土色のような粒子がびっしりと光っている。森を吹き抜ける風には、緑色の粒子が多い。樹木には水色の粒子がまとわりつきながら流れており、木漏れ日や日向は紅い粒子がキラキラ光っている。


『精霊力を感じる事ができたら、獲りたい獲物をイメージして、精霊の力を借りて見つけてみろ』


 『獲物をイメージ』まではわかる。しかし『精霊の力を借りる』というのがいまいちピンとこない。が、とりあえずやるだけやってみようとレオンは思った。


 どうせなら四足の大物を狙いたい所だが、最初に大物(それ)を獲ると鳥二羽を追うのが大変な気がした。

 取らぬ獲物の何とやらだが、まず鳥を探すことに決める。


 レオンはよく茂った樹の太い枝に座り、目を瞑って想像した。


 鳥は風を受けて上空を飛んでいる。緑色に光る風の粒子は鳥の翼を押し上げ、時に切られたり、時にくるくると回ったりしながら、遊ぶように舞う。疲れた鳥は翼を巧みに使い、緑の粒子を掴んで速度を落とし、ふわりと樹上に止まると……。


(……!!)


 バサリという羽音に気づいて目を開けると、隣の木の枝にまさに鳥が止まった所だった。枝に茂る葉のせいで、こちらには気が付いていないようである。


『今だ、狙え』


 驚いて固まっていた所をロムスに促され、矢籠から手作りの軽い矢を取り出した。呼吸を整えながら静かに(つが)え、狙いを定めて、放つ。


 ──ピィーッ


 矢は見事に命中し、鳥は断末魔を残して地上に落下していった。

 レオンはその後も、ロムスの視界を借りながらではあったが精霊との対話を続けた。


 結果、茂みに潜んでいた(きじ)を見つけて射止めた。

 最後はロムスの選んできた重い矢を使い、森を駆ける牡鹿(おじか)を待ち伏せ、見事に仕留めたのだった。



 ***



 結局、レオンはあっという間にノルマをこなしてしまった。獲物は太い棒に括り付けて、人の姿になったロムスと二人がかりで持ち帰るところだ。

 前を歩くロムスは、なかなかの上機嫌である。


「レオン、やっぱりお前、なかなかセンス良いなぁ。俺の見込んだ通りだぜ。あと弓矢の扱いは問題なさそうだな。あとは腕力付けりゃ尚良い。大物の締めはもう少し手早く出来ればよかったが、まあこれは数こなして慣れるしかねえな」


 レオンはロムスの言葉を聞きながら、あの不思議な感覚と体験を反芻(はんすう)していた。

 目を瞑り、獲物になりきって精霊を感じていると、いつの間にかその獲物が自分の元に現れた。理屈はさっぱりわからないが、『聴覚と視覚以外の感覚を手に入れろ』と言うロムスの言葉の意味が、なんとなく解った気がした。


 それにしても、ロムスの視覚を借りた時はあんなに光る粒子が溢れていたのに、今は全く何も見えない。それを残念そうにロムスに伝えると、彼は足を止めレオンの目を見てニヤリと笑った。


「お前、誰の視覚借りたと思ってんだよ。俺一応、本物の()()だぜ?」


 そう言われれば、確かにそうだ。

 ――あんまり俗っぽいから忘れてた、という言葉はかろうじて飲み込む。


「本人に聞いてみりゃいいが、四百年以上生きてる婆さん(グレンダ)でも、あれほどハッキリとは視えていないはずだ。なのに、ついさっき修行を始めたばかりの小童(こわっぱ)が『視えない』事を残念がるなんてな、俺に言わせりゃ家から出た事も無いくせに『獲物が全然捕れないよ~』って泣くのと同じくらいバカな話さ」


 ロムスの言うことはわかる。でも自分が言いたいこととはちょっと違っていて。


「そうだね、ロムス。でも僕は、あの綺麗な世界が見れて本当に嬉しかったんだ」


 自分の気持ちを上手く言葉に出来ない。でもどうしても伝えたい事が、レオンにはあった。


「今まで皆の中で僕だけ精霊が全く視えなくて、ちょっと寂しかったから。ロムス、僕に精霊の世界を見せてくれて、本当にありがとう。これからも僕、頑張るよ」


 レオンは今日一番の笑顔を見せた。それは牡鹿を仕留めた時よりも素直で嬉しそうな笑みだ。ロムスはちょっと目を丸くした後、ニカッと笑う。


「おう、頑張れ」


 その後、屋敷へ向かって歩きながらロムスは考えていた。


(レオンは今日初日の訓練でコツを掴んで、きっちり成果を上げた。それに、何の訓練も受けていないのに嬢ちゃん(サンディ)の翼が視えたんだ。これは本当にすげえ事なんだがなぁ……)

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