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82話 思いつく限りの

 ナディアキスタが怒ってくれたおかげで、国民からの情報収集が格段に(はかど)った。

 さっきまで怒ったような面白くないような顔をしていた人達が、『魔女の剣』と聞いた途端に、ころりと態度を変える。

 きっと言わなければ協力なんてしなかっただろう。人間というのはこんなにも単純だったか。


 私は情報を集めるだけ集め、コルムの店に向かった。




 カランカランと子気味のいいベルの音がして、コルムが私を見る。猫の可愛らしい口で笑うと、店の奥の個室へと案内してくれた。

 個室では、ナディアキスタが星図を回しながら地図に印を入れていた。何かのメモが床に散乱しているが、殴り書きのせいで何が書いてあるかは分からない。


 私はナディアキスタの向かいに座り、適当にメニューの注文をする。ナディアキスタは黙々と作業をしていた。


「ナディアキスタ、星で嘆きの魔女のケツ追っかけてんのか?」

「馬鹿言え。今はトラヴィチカを追いかけてる」

「何で?」

「トラヴィチカは俺様のことをあまり好いてはいない。俺様はねぎ魔女だからな。本物の魔女でもないし、魔女と名乗る資格も、本来ならば無い」

「いきなり自虐か?」

「うるさい」



 ナディアキスタはふぅと、息をつき星図から手を離すと、テーブルに置いた水を飲む。さすがに集中すると疲れるようだ。


「トラヴィチカは【しっぽ無き凧】の星。生まれついてのトラブルメーカーだ。何らかの拍子で嘆きの魔女に取り憑かれたとか、操られているかもしれん」

「あ〜、だからしょっちゅう泣きついてくるのか。でも、トラヴィチカは長寿ではないだろ。魔女の痕跡はしっかり残るんじゃないか?」

「いや、トラヴィチカは魔女だが、魔力が限りなく薄い。『立つ鳥跡を濁さず』とは言うが」

「確かにトラはふにゃふにゃしてるし、性格スライムだけど」

「性格スライムってどんな性格だ」

「あいつは意外とな、抜け目がないんだ。自分のトラブル体質を知ってるからな、その分自己防衛が強い。それこそ、隙がないくらいだ」


 トラヴィチカが船上で戦う時は、攻撃は隙だらけだったが、防御するってなった瞬間、全く隙を見せなかった。

 それは攻撃よりも早く、彼の危険察知能力は私よりも鋭い。

 トラブル体質が、無駄に危険にさらす真似はしないだろう。


「······ナディーちゃん」

「気持ち悪いな。何だ」

「返事してくれるのか。嘆きの魔女は、どんな人だった?」


 私がそう尋ねると、ナディアキスタの機嫌が急降下する。「聞くなよ」と言わんばかりに睨まれるが、ナディアキスタは腕を組んで断片的に特徴を話す。


「······俺様の主観だがな。女好き。性別での差別が激しい。出来の善し悪しなんて、気にしないようなタイプだったがな。好き嫌いが多い。日中は肉を食べなかった。えぇと、場所にこだわりがあった。右利き。左耳に長いピアスを、右耳に短いピアスをつけていた。あと、マーメイドラインの服が好きだったな。特に赤色」

「ははぁ、なるほど。女好きって、嘆きの魔女は男だったのか?」

「いや。女だ。師匠は女だが、女を好んでいた。手をつけられて、いなくなった弟子も多い」

「なるほど。それなら、嘆きの魔女が仮に憑依(ひょうい)するとしたら女の方だろうな。それも、自分の好みで、痕跡が残りにくくて、自由に動かせてるような······」


 私はその話を聞いて、何となくリリスティアを思い出す。

 もしこの条件に当てはまるとしたら、リリスティアだろう。それなら、ナディアキスタはリリスティアを封じなければいけなくなるのでは?


「ナディアキスタ、嘆きの魔女は死んでいるんだよな」

「ああ。死んでいるとも。俺様が殺したのだから」

「なら、死んだ奴をどうやって封じ込める気だ?」

「儀式の会場に(まじな)いをかける。結界を張って、逃げられないようにすれば、俺様一人でも封じられるだろう」

「もし。生身の人間にとり憑いていたら?」

「そいつには悪いが、死んでもらうしかない」


 ──まずい。この仮説が正しければ、リリスティアが殺される。

 かといって、私は魔女に詳しくない。素人が出しゃばったところで、一体何が出来るだろうか。


「生身の人間にとり憑いていたとしても、追い出せるなら別だがな」


 ナディアキスタは頭の後ろで手を組んだ。私はその時、妙案が浮かぶ。


「ナディアキスタ、嘆きの魔女って要はゴーストなんだろ。ならさ、『アレ』が効いたりしないかな」

「『アレ』? ······ああ、試す価値はあるな」


 ナディアキスタは私の言いたいことを汲み取ると、ニヤリと笑う。彼は私とハイタッチをして、食事を運んできたコルムに「頼みがある」と言った。

 コルムもニヤリと笑うと、ブーツの音を響かせて踊った。

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