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73話 到着! 真珠の国

 真珠の国は火竜の国と同様、島国である。騎士の国と真珠の国はガラスの国より近く、船で三日の位置にある。

 だが、今回は同じ三日でもかなり疲れる旅程だった。


 その原因は全てトラヴィチカにある。


 彼の驚くほどの不幸体質が、魔物を引き寄せ、ついでのトラブルを引き寄せる。

 海に出たばかりのシーサーペントはさることながら、夜にはセイレーンの歌を聞かされ──女の私に効果はないが──、帆が魔物に引き裂かれる、(まじな)い切れで魔物が船に侵入する、船の故障、食糧不足その他色々と。


 おかげで私は三日三晩、寝ずに船の見回りをする羽目になり、二回目の朝日に目を細めている。トラブルを引き寄せた本人、トラヴィチカは船室でぐっすりと眠っていた。

 トラヴィチカは本当に『お前魔女か?』と聞きたいくらいポンコツで、魔物が出ても船が故障してもアワアワと慌てるだけ。オルテッドと戦っていたあれは一体、何だったのだろうと思うレベルだ。


「ふぁあ〜。ケェトさんおっはよぉ」

「おはようじゃないだろ。ったく、私は一睡も出来ないのに」

「んはは。ごめぇん」


 太陽は低いが、空は青くなった頃にトラヴィチカは起きてくる。

 手を叩き、モップたちに甲板の掃除をさせると、トラヴィチカは舵を取る私の元に来る。

「代わんね〜」と舵を交代すると、トラヴィチカは鼻歌混じりに船を進める。


「ケェトさん〜、そぉろそろリスアコット見えるよん」

「あの宮殿みたいなやつだろ」

「え、もぉ見えてるの?」


 私ははるか先にある島国を見つめる。トラヴィチカは「うわぁ」と肩を震わせた。


 ***


 真珠の国──リスアコット


 七つの国の中では最大の観光地を誇る国。海に囲まれた国は名の通り、真珠の採取量が多く、真珠を使った装飾品が人気だ。

 それと同時に、唯一『魔女信仰』が公言される『魔女の国』としても有名で、魔女御用達の店もわんさかある。


「魔女の為の『商人の国』〜なんて、笑っちゃうねぇ」

「本当にな。ミモスナージャに喧嘩売ってる」


 あの貝殻の馬車の中で、私は真珠の国を眺める。

『大鍋専門店』とか『マホガニー製の杖あります』とか、大っぴらな商売をしている店が多かった。そこで一つ、不思議に思った。


 他国製品を扱う店で呼び込みをする人たちが、誰も国の略称を使わないのだ。


「アルフェンニアで取れたアメジストはいかが〜? いまなら二割引セール中でーす」

「シャンテラルエ緊急入荷! 数量限定販売! 早いもん勝ちだよー!」

「ムールアルマの短剣残り二本です! 次回入荷未定!」


 略称の方が分かりやすく、伝わるのだがどうしてか正式名称で喋っている。トラヴィチカはニヤッと笑う。


「あのねぇ。ここは魔女に救われた国だぁから、魔女信仰があるのは知っとぉるでしょ〜? 魔女は名前を大事(だぁいじ)にするからぁ、それに倣って国の人も名前を大事(だぁいじ)にするんだ〜」

「なるほど。で、私はどこに連れていかれるんだ?」

「『花嫁』の準備があるから〜、それを準備してくれる人のところに♡」


 そう言って、馬車が停まったのは赤い屋根の一軒家。肌色のレンガの家は、いわゆる『ごく普通の』場所だ。トラヴィチカはエスコートするように私を馬車から下ろす。

 トラヴィチカが家に入ると、リリスティアが「おやおや」と何かのリストと羽根ペンを持って、家の中を歩き回っていた。


「トラ、ケイトもか。何をしに来たんじゃ。今こちらは忙しい」

「んはは。『魔女の花嫁』を連れてきたんだぁ」

「ああ、もう決まったのか。儀式どころじゃないんじゃがなぁ。よいよい。で、花嫁は? ケイトの後ろか?」

「ん〜にゃっ! ケェトさんだよ」

「ケイトか! こりゃまた驚いた」



「ケイトだと!?」



 二階から、ドスン! バタン! と音がして、ナディアキスタが転がり落ちるように下りてくる。私を見ると、ナディアキスタは驚いたような嬉しいような、そして怒ったような、忙しい顔になる。


「何でケイトが!」

「聞こえなかったのか? 年寄りめ。『魔女の花嫁』だか何だかで、無理やり連れてこられたんだ」

「クソッ! 今回に限って!」


 ナディアキスタは頭を掻きむしり、部屋へと戻っていく。リリスティアは薄ら笑うと、私をリビングの方に連れていく。


「選ばれてしまったのなら仕方がない。儂が身支度をしてやろう」

「そんなにも怒ることなのか?」

「そりゃあ、なぁ。魔女の花嫁とは、魔女の鎮魂のために捧げられる『贄』の事を指すのだから」


 私はその言葉にショックを受けた。それは、ナディアキスタも怒る。

 リリスティアは私の髪を(くし)()かしながら、哀れんだ目を向ける。まさか自分も、贄にされるとは思っていなかった。

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