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69話 三人の魔女

 私はとりあえずトラヴィチカ、マーガレット、落ちてきた魔女の三人をオルテッドの家に入れてもらった。


 ナディアキスタにマーガレットとトラヴィチカの杖を預かって貰い、オルテッドには魔女の世話を頼む。私はトラヴィチカをしこたま叩く。


「んにゃ〜〜〜! ケェトさんっ! 痛いぃ!」

「ったり前だ馬鹿野郎が! いきなり襲いやがって!」

「なぁんでそんなに怒っとぉの? ボクちゃんが恩を仇で返したからぁ?」

「物資補給で十分返したものを怒るか! 違ぇよ。理由も何も説明なくナディアキスタを襲ったばかりか、オルテッドまで危険に晒したことだ!」


 トラヴィチカの耳を引っ張り、私は怒鳴る。トラヴィチカは「だぁから」と同じことを繰り返す。


「ナディーちゃんの心臓が必要(ひつよぉ)なんだってぇ」

「何のために?」

「それはぁ、魔女のことだから言えなぁい♡」


「ナディアキスタ、遊んでいいぞ」

「さっきの分倍にして返してやろう」

「んにゃ〜〜〜! ケェトさんの無慈悲!」


 トラヴィチカとナディアキスタの攻防を応援していると、オルテッドが二階から降りてきた。あの魔女も一緒だ。

 魔女は黒のフリルブラウスとロングスカートが良く似合う、まさに大人の女性だ。黄緑色の瞳を細めて、魔女は私に微笑んだ。



「すまんのぉ。落っこちた(わし)を受け止めてくれたんじゃと? 重かったろうに」



 ──見た目に反して口調がものすごく年寄りっぽい。

 女はケラケラと笑い、私と握手を交わす。そのすぐ後、トラヴィチカとマーガレットをじろりと見下ろす。二人はビクッと肩を揺らした。


「トラ、マーガレット。儂の話の途中で飛び出して何をしとったんじゃ」

「いえ、別に何もしてなくってよ?」

「そぉそぉ! ボクちゃんたちぃ、ちゃぁんと言う通りにしてたんだぁ」

「ならば何故、お主の魔法が儂の箒にあたる?」

「そぉれは、ケェトさんが」

「お主らがナディアキスタを襲ったから、こういうトラブルが起きたんじゃろうが」

「むぐぐ······」


 私は話が見えなくて、ナディアキスタに視線を送る。ナディアキスタも「知るか」と小さく首を振った。


「おおそうじゃ! 自己紹介をせねばな。儂は『涙空(なみだそら)の魔女』、リリスティア・グラキエル・ホワイトベル。よろしく頼む」


 リリスティアはそう挨拶をすると、トラヴィチカとマーガレットを指さした。


「トラヴィチカは知っておるようじゃな。彼奴(あやつ)は『渡り鳥の魔女』じゃ。マーガレットは『花畑の魔女』。可愛らしいじゃろう?」

「そうだな。名前だけなら。······魔女とは結構幅が広いのか? なんというか、得意分野というかこう···」

「言いたいことは汲み取ってやる。もちろん、魔女それぞれで得意な分野は全く異なる。錬金術に特化した者、薬学に長けた者など、本当にそれぞれな。彼らの下について学び、修行した弟子は、師匠と同じ肩書きを使うことが多い」

「じゃが儂やトラ、マーガレットは魔女の学びを修め、それぞれ独立した魔女として活動しておる。故に個人の肩書きがあるんじゃ」


 ナディアキスタはリリスティアと目配せをすると、ふん、と鼻を鳴らした。


「トラヴィチカは机だろうと土だろうと、あらゆるものを鳥に変化させる力がある。鳥との繋がりが深いんだ。ある意味召喚術に長けている。お前が俺様の胸から引き抜いた剣も、トラヴィチカが召喚したものだしな」

「そうなのか」

「マーガレットは魔法薬の精製に長けている。しかし、彼女自身は魔法薬単体の使用が出来ない。花や蝶々など、媒介に薬を持たせなければ使えないんだ。だからマーガレットの(まじな)いは強力的ではあるが、縛りが多い」

「それは難儀だな」

「儂は主に未来予知が得意じゃ。良く『お前は魔法使いみたいだ』と言われたがの。得意なものは変えられん」


「待て、私にそれを教えていいのか?」


 私は急に不安になった。魔女の口があまりにも軽い。

 私と同じように不安になっているのはトラヴィチカくらいだ。オルテッドも私の言いたいことを察すると、「あー」なんて声をこぼす。


「私は騎士の国の騎士団副団長だ。迂闊に話して魔女狩りに遭う、とか思わないのか?」

「ないな」


 リリスティアはきっぱりと言い切った。


「ナディアキスタが不在の森を守ったのはトラじゃ。それに、お主の従者がトラに物資補給を言いつけていたから、情報も事細かに入ってきた」

「ケェトさんは危なくなぁいよって。そぉ言ったのボクちゃんだからねぇ」

「それに、ナディアキスタを無事に連れて帰ってきたのもお主じゃ。魔女に手を貸すのなら、儂らも安心してもいい」


 リリスティアはケラケラ笑うと、私の顎をガシッと掴む。



「じゃが、もし儂らを裏切ることがあれば、その時は別やもしれん。お主の心臓を晩餐に出したり、魂を(まじな)いに使うかもなぁ? そうなっても構わんのなら、好きにすれば良い。なぁに、相手の生き死にを握ったのは儂らも同じ。お互い、良い関係を結べると良いがな」



 ナディアキスタよりも脅しが上手い。ただひたすら言葉を並べるよりも、着実に追い込んでいくその言葉に私は背筋が凍る。


 ナディアキスタは不満げな顔でリリスティアの腕を掴み、私から引き剥がした。


「ケイトに手を出すな」

「なんじゃ、この程度で怒るタマでもあるまいに」


 リリスティアは目を見開いてあからさまに驚いた振りをする。ナディアキスタはより不満げな表情になった。


「この俺様を差し置いて、ケイトとばかり話をするから本題が分からんのだ。俺様が襲われた理由はなんだ。心臓が欲しいだのなんだのと、訳の分からんことを並べておいて、ウヤムヤにすることは許さんぞ」


 リリスティアは「おお、そうじゃった」と手を叩く。

 リリスティアは指を鳴らし、全員分の椅子を用意すると、そこに座らせる。トラヴィチカはナディアキスタの隣に座りたがったが、いつナディアキスタを狙うか分からず、私が二人の間に座る。オルテッドがトラヴィチカの右隣を陣取ると、彼はしゅんとして静かになった。


「さて、ナディアキスタが苛立たないよう、先に言わねばならんことがある。ちと面倒なことが起きた」

「それは予想出来る。面識はあるが関わりのない魔女が三人揃って俺様の所にやってきた。そしてそのうち二人は俺様の心臓を欲しがっている。俺様に関わりがあり、なおかつ俺様の心臓を(まじな)いに使わねばならない出来事だ。俺様が聞きたいのは──」

「やれやれ、もう苛立っておったか。短気は損気じゃぞ」


 リリスティアは呆れたため息をつくと、難しい顔で私たちに言った。



「『嘆きの魔女』が、復活した」


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