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39話 面倒は面倒を呼ぶ

 

「婚約者が、何ですって?」


 そう話に割り込み、エリオットと腕を組む、濃い化粧の女。

 真っ黒な長い髪をボブ風にアレンジし、フリルたっぷりの真っ赤な派手ドレスを着ている。髪やドレスの模様、ピアスやネックレス、ブレスレットなどの小物に至るまで花をあしらう彼女に、私は「ダッサ」という言葉を飲み込んだ。


 エリオットは困った顔でその女を紹介する。


「こちらは、俺の婚約者で──」

「フィオナ・コリンズ男爵令嬢よ」

「そう、フィオナ」


 フィオナはわざわざ自分から名乗った上に、爵位を自慢げに披露する。エリオットは本当に困ったように紹介すると、私にちらと視線を送る。

 私は仕方なく「どうも」と挨拶をした。


「ケイト・オルスロットと申します。カーネリアム侯爵と同じ騎士団の、副団長を任されておりますわ」

「まぁ偶然ね! ダーリンと同じ騎士なんて!」

「だ、ダーリン······」


 貴族らしい振る舞いが全く出来ていないところが、とてもアニレアに似ている。私は怒りを抑えて彼女と会話をした。


「この国にはなんの用で来たの? ダーリンを追いかけて?」

「いいえ、休暇を取って観光に来たもので」

「俺が休暇をあげたんだ。しばらく取ってなかったから」

「そうなのね! ダーリンってば優しい! でもそれってぇ、お払い箱なんじゃないの?」

「なんて事を言うんだ! フィオナ!」

「お気になさらず、カーネリアム侯爵。私が仕事に夢中になり過ぎて、休みを(おろそ)かにしたのを、お優しい侯爵が時間を作って下さっただけですわ」

「なぁんだ。残念」

「フィオナ!」


 ──ああ、懐かしい。この(はらわた)が煮えくり返る感じ。


 私が苛立ってくると、フィオナはエリオットの腕を掴んで「ねぇ早く行きましょ」と、離れたがった。

 フィオナは「ケイト、明日の二時にお茶会するの。絶対来てよね」と、無理やり予定を組み込んできた。

 私が「まぁ、是非お邪魔させていただきますわ」と、返事をすると、エリオットを引きずるように、彼女は行ってしまった。

 嵐のような出来事に、私は深呼吸して冷静を装う。


「ケイト······」

「あんのクソアマ!」

「よぅし落ち着こう。あっちに宿屋があった。まずは部屋を確保して、少しゆっくりしようじゃないか。俺様は優しいから、ハーブティーでも淹れてやろうな」

「それもいいな。あの女の心臓をすり潰してスコーンに混ぜてくれ」

「それは出来ん相談だなぁ······」


 ナディアキスタに機嫌を取られる日が来るとは思わなかったが、彼に腕を引かれて宿を確保しに行った。


 ***


「──『希望の石』?」


 ナディアキスタが淹れたカモミールティーを飲みながら、私は彼の話に耳を傾ける。


「そう。それがこの国にある(いにしえ)の魔法道具だ」

「石が?」

「石じゃない。宝石だ」

「宝石が魔法道具って、何が凄いんだ。お前だって宝石に魔法をかけられるだろう?」

「もちろん。だがあれは所詮(まじな)いだ。魔法薬材を入れた鍋に放り込んで作り出したに過ぎん。だがその宝石は違う」

「どう違う?」


 ナディアキスタいわく、その『希望の石』は宝石に直接(まじな)いをかけているらしい。鍋や杖の媒介、魔法薬材から取り出した魔力を一切使わず、宝石に閉じ込めた。

 それも魔法ではなく、(まじな)いを。


「魔法なら簡単だ。中に術式を入れてやればいい。それをそのまま読んで魔力を込めれば魔法になる。だが鍋や薬材が必ず必要になる(まじな)いを、何も使わず宝石に入れるのはほぼ不可能だ」

「なら、どうしてそれが存在する? 出来ないものがあるのは変だ」

「言ったぞ。『ほぼ』不可能だと。つまり、完全に無理だというわけじゃない」

「何が言いたいのかさっぱりだ」

「この国の魔女が、『魔法』の第一発見者なんだ。後世に残した偉大な発見。後に『魔法使い』と呼ばれる人間たちを生み出すことになるほど、重要なものを」


 ナディアキスタが言いたいのは、その宝石に込めた(まじな)いのやり方こそ、『魔法』の元祖なのだ。ナディアキスタはワクワクしながら「早く欲しい」とこぼす。

 だが、その宝石がどこにあるかも全く分からない。


「せめて形が分かればな」

「ああ、りんごの形だ」


 ナディアキスタはケロッとその宝石の特徴を話す。

 りんごの形で、サイズはピンポン玉くらい。立体で、陽に当てると七色に輝く。

 分かっているのなら、さっさと取りに行けばいいのに。私がそう言うと、ナディアキスタは首を横に振った。



「実を言うと、この国の貴族が買い取ってしまったんだ」

「はぁ!?」



 魔女の魔法道具を買い取る馬鹿がどこにいるのやら。

 私は開いた口が塞がらない。ナディアキスタは言いにくそうに手を広げて話す。


「元々博物館にあったんだが、それを『可愛い宝石!』と無理やり買い取った奴がいる。魔女の持ち物だから、皆気持ち悪がるというので、俺様が『学者』と名乗って買い取りを申し出たんだ。すぐに交渉が済んだんだが、その後一週間もしないうちに『無理やり買われてしまった』と連絡が来た」

「ああ、なるほど。だからお前が無理やり旅を組んだわけだ」



「その馬鹿がさっきの女だ」

「暗殺なら任せろ。奇襲は得意だ」



 私が袖から毒針を出すと、ナディアキスタは「落ち着け」と私を止めた。


「魔法の痕跡はついていたが、その魔法道具をどこに保管しているかまでは分からん。それにエリオットとやらの婚約者だろう? 手を出したら問題なんじゃないか?」

「じゃあ不慮の事故ということで処分しよう」

「お前どれだけあの女が嫌いなんだよ」


 ナディアキスタは私を椅子に座らせる。

 そして真剣な面で、「探ってこい」と私に命令する。


「あの女がどこにそれを置いているかさえ分かれば、後はどうだっていい。焼くなり煮るなり、お前の好きにしろ」


 私が頷くと、ナディアキスタはうんと伸びをして、「準備をするか」と立ち上がる。


「何をする気だ?」

「決まってるだろう。お前、明日の茶会に呼ばれているだろう? その格好で行く気か?」


 ナディアキスタは私の狩人の服を指さす。確かにこの格好では笑われてしまう。だが、ドレスなんて持ち歩くわけもない。着替えが無いと言うと、ナディアキスタはガラスの棒を出すと、にやりと笑った。


「この俺様を誰だと思っている。この偉大な魔女に、出来ないことがあるものか!」


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