38話 再会のエリオット
エリオットと私の関係を知らないナディアキスタは、こてんと首を傾げて私の袖を引っ張る。ハッとした私がナディアキスタに「騎士団長のエリオットだ」と簡潔に紹介すると、エリオットはナディアキスタに深々とお辞儀をした。
「エリオット・カーネリアムです。以後お見知り置きを」
「ナディアキスタ・ロジャーだ」
ナディアキスタはエリオットと握手をすると、少し強ばった表情で私を見る。
(騎士団長が何でここにいるんだ)
(私が知りたいくらいだ。お前、絶対に魔女だとバレるなよ)
(お前こそ、俺様の正体をバラしてみろ。どうなるか分かるだろう?)
二人で視線だけの会話をする。
エリオットは私の方を見ると、にっこりと笑顔になる。
「嬉しいなぁ、ケイティがここにいるなんて。観光かい?」
「あ、ああ、そうだ。せっかくの休暇だからな。少し羽を伸ばそうと」
「うんうん。だが、ケイティが一日でここに来るなんて不思議だな。馬を持っていたか? 俺でも昨日の日の出に出て今日の昼過ぎに着いたんだけど、ケイティを見なかったな」
「あぅ、えっと······速い、馬を彼が持っていてな。それに乗せてもらったんだ」
嘘ではない。ナディアキスタはエリオットを警戒している。私は早くこの場を去りたかったが、エリオットが私から離れようとしてくれない。
「そうだったのか。それで、ナディアキスタ殿はどんな仕事を? ケイティが誰かと一緒にいるのは珍しい」
「あ〜、えっと······え〜〜〜っと」
私が汗をダラダラ流しながら上手い言い訳を考えていると、ナディアキスタは「占い師だ」と嘘ではないが、嘘をついた。
「主に占星術で占っている」
「へぇ、ケイティが占いに興味があるなんて」
「ケイトが占いに興味があるわけがないだろう。自力で突き進むような奴に、星の導きが必要になるか? ただ俺様がここの薬草を買いに行くのに、付き合ってくれているだけだ」
「······おかしいな。ケイティを呼び捨てにするなんて。爵位は?」
「ない。付き合いが長いんだ。お互いに呼び捨てあってもいいだろう」
「不遜な態度の占い師なんて、初めて見たな。ケイティ、本当にこの人と知り合いか?」
ナディアキスタの高慢な態度が、余計にエリオットの疑いを深くする。私は「頼むからもう黙ってくれ」とナディアキスタに心の底から願うが、ナディアキスタはエリオットを睨み続ける。
エリオットもナディアキスタを不審に思って、「脅されてたりは?」と私に尋ねる。
「そんなわけないだろう。すまない。彼は他人への警戒心が強くてな。ついつい強気な態度で威嚇する癖があるんだ」
「そうだったのか。それはこちらこそ申し訳ないことをした」
聞き分けのいいエリオットに、私はほっと胸を撫で下ろす。
エリオットは私の手を握る。
「ようやく落ち着いて話が出来るな。お茶でも?」
「するか! お前はいい加減、婚約者がいることを自覚しろ!」
「婚約者が何ですって?」
私が手を振り払うと、エリオットの後ろから女の声がした。