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36話 出発! 鉱山の国

 久しぶりに着た、重いだけの豪華なドレス。

 耳たぶが痛いイヤリングと、首が締まるようなネックレス。

 ギチギチに結えられた髪型に歯を食いしばって、私は笑顔でお茶会の席に座る令嬢たちに挨拶をする。


「初めまして。私は騎士の国──ムールアルマより参りました。ケイト・オルスロットと申します。どうか、仲良くしてくださいませ」


 ──本当、反吐が出る。


 ***


「えっ、アルフェンニアにですか!?」


 日が昇る前、私がこっそり家を出ようとした時に、モーリスに見つかった。ニコニコと圧をかける彼に、諦めて行き先を告げると、モーリスは驚いた様子を見せる。


「ああ、だから二ヶ月(ふたつき)は屋敷を開ける。それまで家を守っててくれ」

「そう、ですか。それは急ですね」

「相手はナディアキスタだからな。あいつが人の予定を気にしたことなんてないだろう。大臣や、私をよく思わん奴に目をつけられたくないが、仕方ない」

「はい。その辺は私にお任せを。侯爵様に文句のひとつも、つけられないように致します」

「助かるよ。あと、ナディアキスタがメイヴィスに、『魔女の森にいるように』と言っていた。もし姉君に会いに行くなら、森の方へ行ってくれ」

「はい。······っ! 侯爵様、そのっ」


 メイヴィスとナディアキスタの名前が同時に出てくると、モーリスが珍しく狼狽(うろ)えた。普段感情を崩さない彼とかけ離れた姿に、私は「落ち着け」と冷静に言い聞かせる。


「メイヴィスが魔女の弟なのは聞いた。だからといって軽蔑もしないし、お前への態度が変わることもない。不当な解雇はしないし、モーリスが不安になることは一切しない。約束する」

「はい、侯爵様の寛大な御心に感謝します。······名誉の為に言いますが、私は決して魔女様のスパイではありません。侯爵様を裏切ることも致しません。もしこの言葉を違えることがあれば、私は如何なる処罰でも甘んじて受けましょう」


 モーリスのかしこまった態度ち、私は笑って肩を叩く。私は彼の頭を撫でて、モーリスの額と自分の額をくっつける。




「モーリス・ホークスキッドに、『魔女』の加護あれ」




 ナディアキスタの身内なら、神なぞ祈るに値しない存在だ。万能をひけらかす彼こそが、弟たちの神なのだから。


 モーリスは気の緩んだ顔で、私に深くお辞儀する。私は彼に見送られて国を出た。




 国の外には案の定、ナディアキスタが立っていて、馬を一頭連れていた。青い毛並みの美しい馬に、私は惚れ惚れしてしまう。

 ナディアキスタは馬を撫でながら「遅い」と言った。


「すまない。モーリスに見つかってな。いやぁ、しかし······いい馬だなぁ。毛並みといい面構えといい」

「当たり前だろう。俺様が乗るに相応しい馬でなければいけないのだから」

「それはどうでもいいが。はぁ〜、騎士団の馬よりもいい。名前はなんて言うんだ?」



「ぽんきち」

「もっとかっこいい名前つけてやれよ。狸じゃねぇんだから」



 ナディアキスタは私をぽんきち(馬)に乗せると、自分は後ろに乗る。

 自分の馬だというのに、前を譲るとは不思議な奴だ。


「良いのか? お前の馬なら、私は上手く扱えないぞ」

「問題ない。この馬はガラスの国のどさくさでくすねたガラス細工だ」

「はぁ? 魔法のガラスは全部壊したって聞いたぞ?」

「これは普通のガラス細工だ。俺様の(まじな)いをかけるのに、魔法がかかった物を使うか!」

「なるほどな」


 私は納得して、手網を掴む。

「はっ!」と腹を軽く蹴ると、馬はもの凄い速さで野を駆けた。



「うわぁぁあぁぁあぁあ!」

「だっはっはっはっはっ!」



 朝日が昇る騎士の国の領土に、私の悲鳴とナディアキスタの笑い声が響き渡る。あまりの速さに私は「これ乗らない方が良かったんじゃないか」とすら思えてきた。

 ナディアキスタは私の腹に腕を回したまま、「凄いだろう!」と自慢してきた。


「ガラス細工を自在に変化させることに成功したばかりか、倍のスピードで移動出来るんだぞ! 俺様の脳は天才過ぎて辛いな! どんな奴にも真似出来まいよ!」

「分かった! 分かったから、これ! どうやってスピード落とすんだ!」

「落とせるものか! アルフェンニアに行き先を設定してある。走り出したら到着するまで止まらない! この(まじな)いの凄いところはなぁ! 半月かかる道をたった一日で走れるんだ!」

「あぁあぁぁあぁ! 魔法が使えたら、お前をボコボコにする魔法を真っ先に覚えてやるぅぅうぅう!」


 私は振り落とされないようにしっかりと手綱を握って馬にしがみつく。

 ナディアキスタは意地悪な表情で、地平線から顔を覗かせる太陽に目を細めた。


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