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134話 やっぱりこうなる二人

 騎士の国で習う歴史。火竜の国の成り立ちは、一頭のドラゴンと、十二人の魔女から始まったと聞いていた。

 だが、実際は違うらしい。


「十三人の魔女は、それぞれ独自の価値観と美意識があった。けれど、一人だけ、十二人とは違う道を歩んだと聞いているわ」

「違う道を?」

「魔女は人を助ける存在。人と生きる道を歩むけれど、彼女だけは、真逆の道を歩んだ」

「殺す側に回ったのか······」

「彼女は、十二人の魔女によって追放された。けれど、逆恨みしていた彼女は国に凶暴なドラゴンを仕向けた」


「それが火竜様と呼ばれるドラゴンか。さっさと殺せば良かったものを。なぜ今の今まで生かしている」

「結論を急ぐな。ナディアキスタ」


 ステリアは目線を落とす。


「······唯一事情を知っていた一人の魔女が、ドラゴンに(まじな)いをかけたの。眠りの(まじな)いを」


 その魔女は、『ドラゴンを崇めることで、災厄から身を守れる』と、仲間たちに進言した。

 魔女たちは、ドラゴンを守ることで、その加護を得てきた。


 ナディアキスタはそんな昔話を、鼻で笑う。


「要は、ドラゴンが起きないように見張りを立て、ずっと監視してきただけだろう」

「おい、言い過ぎだ」

「でも、実際そういう事よ。追い出された魔女の思惑も、ドラゴンを仕向けた理由も、全部知っているのは、あたしの祖先の魔女だけ。けれど、あたしはそれを何も知らないまま使徒になってしまった」


 使徒は、先代から受け継ぐとき、その歴史も一緒に受け継がれる。けれど、ステリアの先代、彼女の祖母は、その歴史を何一つステリアに教えずに亡くなった。


「火竜様が目覚めたとなれば、一大事だわ。使徒も国民も、全員殺されてしまうでしょう」

「所詮はただの凶暴なドラゴンだからな。で、使徒共はどう対応するつもりだ?」

「言い伝えがある。『火竜様の怒りを鎮めるのは、最も勇敢で正直者。真実を掲げ、底抜けの愛を持つ者』だと」


 私とナディアキスタは顔を見合わせた。

 大昔の人間というのは、随分と曖昧な誰かを求める。

 完璧な人間を探し出して、火竜の元へ向かわせるなんて、無理難題にもほどがある。


「魔力が溢れていたのは、その予兆か?」

「かもしれんな」

「占えないのか? その一人を」

「出来なくはないだろうが、難しいな。いもしない神様みたいな心の持ち主なんざ、この世にいてたまるか」


 ナディアキスタは背伸びをしてベッドを降りた。

 ステリアは「お願い」と手を結ぶ。


「あたしに出来るのは、せいぜい溢れている魔力を循環させること。誰かが倒れないように、流れを整えるくらいなの。あたしは魔女だから、中心街には入れない。会ったばかりの二人にお願いするのは、おかしいと思うわ。けれど、お願いします。助けて欲しいの」


 ステリアは祈るように私たちに頼んだ。

 私とナディアキスタはチラとお互いに目配せをし、ふはっ、と笑った。


「今更、見ず知らずの人を無視しないさ」

「こいつの下らん信念に付き合わされて、いくつの国の厄介事を片付けたと思っている」

「半分はお前のせいだぞ、ナディアキスタ」

「黙れ。お前が首を突っ込まねば飛び火することのなかった問題の方が多いぞ、ケイト」


 私はステリアにお辞儀をする。



「──火竜のことは任せてくれ」



 ナディアキスタはさっさと小屋を出ていった。私は彼の後ろをついて行く。

 価値観は違う。けれど考えることも、求めるものも一緒。

 それだけで、私たちは驚くくらい強い力を発揮してきた。


「おい、ケイト」

「分かってるよ、ナディアキスタ」


 喧嘩ばかりしてきた。それ以上に協力もしてきた。

 今更、一から全てを言わずとも、目を見るだけでお互いの考えなんて、すぐに分かる。


 ***



「だ〜か〜ら〜! 何っ回も言わせるなこの野蛮エセ騎士女!」



 ナディアキスタの怒号が街中に響く。

 私とナディアキスタは、登山口の前で大喧嘩をしていた。


「即決行動はケイトのいい所だがな、何もかもが早すぎるんだ! 少しくらい考えてから行動しろ!」

「考えてからだと遅いんだよ! 元凶を断ち切った方が早いって! 魔女の(まじな)いの危険性を知ってるから、そういう考え方になったんだろうが、ナディアキスタは慎重すぎるんだよ!」



「だとしても、いきなりドラゴン退治は! 何がなんでも早すぎるだろうが!」

「いるかも分からん完璧な善人探すより、私が斬った方が早いし確実だろうが!」



 何一つ分かり合えていなかったお互いの考えに、ぎゃあぎゃあとはしたなく罵り合う。


「そりゃあケイトの腕はある程度、ほんのちょっとは信頼してるがな! お前は全裸で魔物退治を······くそっ! こいつなら出来そう! 違う例えを使いたいが、何も思い浮かばん!」

「残念だったな。長い時間をかけて惨い末路に追い込むお前と違って、私は生首コレクションする方が性に合うんだよ」

「この脳筋!」

「そういやお前、悪口下手になってきたな。語彙力(ごいりょく)落ちたか? おじいちゃんだもんなぁ」

「お前にばかりとはいえ、持てる限りの罵詈雑言(ばりぞうごん)を使ったからネタ切れなんだ!」

「ご愁傷さま。ナディアキスタじいさん」

「っきぃぃぃぃ!」


 ナディアキスタの悪口を封じ、私は舌を見せて挑発する。

 ナディアキスタは地団駄を踏むが、やっぱり皮肉も悪口も出てこないようだ。悔しそうにしながら、私の腕を無理やり引っ張る。


「いいから、来い! 別に今すぐ殺す必要も無いだろうが! まず、歴史を学び直すぞ!」

「お? ナディアキスタがお勉強か。珍しいこともあるもんだ」

「いちいち(かん)(さわ)る。いいか。ケイトは俺様が古代から生きてきて、この世の生まれから何から全て、知ってるように思っているだろうがな。俺様は600年しか生きていないし、その間に起きた事柄なら大体は把握している。だが、全ての国の成り立ちも、魔女たちの行方も、作った魔法道具も! 何もかも俺様は知らないんだ!」


 ナディアキスタが今まで魔法道具の事を知っていたのも、魔女達がどうして作ったのかも、全ては彼の研究と執念で集めた知識なのだ。

 ナディアキスタはプンプン怒りながら、私をどこかへ連れていく。

 私は、ナディアキスタの薬品臭い匂いを嗅ぎながら、彼に大人しくついて行った。

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