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127話 原因なんてそんなものだ

 


「魔力が溢れただけ······ですか」



 リビングで緑茶をいただき、私、ナディアキスタ、ローラン、サラの四人でナディアキスタの診断を聞く。

 ナディアキスタは「そうだ」とキッパリと言い切った。


「少女の体には、収まりきらないほどの魔力が流れている。それが高熱の原因だ」

「魔力だなんて······。娘が魔女になんてなったら、どうしましょう」


 魔女を忌避する国であるだけあって、魔力の膨張で魔女になるなんて、そんな馬鹿な。──いや、知らない人からすれば、魔女のなり方なんて突飛なことから始まる、と思っていても仕方はない。

 オロオロするサラを、ローランはとても静かに励ました。


「落ち着きなさい、サラ。魔女になったその時は、火竜様に燃やしていただけばいい」


 だがローランのその一言は、狼狽えるサラにかける言葉とは思えない。私は絶句し、ナディアキスタは不満げに頬を膨らませる。しかしサラは、ホッとした表情で「そうですね」と言っていた。

 家族でも、魔女が一人出たら簡単に切り捨てるのか。私は自分の家族の薄っぺらい関係を、この国に重ねてしまう。

 要らなくなったら捨てる。それが人でも、物でも、当たり前に出来るのか。


(あまりにも無情だな)


 ──私が言えた義理ではないが。



「ただの魔力の膨張だ。魔女になるには、相当な時間と過酷な修行が必要になる。どちらもない少女に、魔女になんて務まらん」



 ナディアキスタはそう吐き捨てると、勝手に空のグラスと水差しを持ってきた。

 私は魔女バレするのでは、と肝を冷やしているが、ナディアキスタはお構い無しに症状の説明をする。


「このコップは、人が持つ魔力のタンクだ。水を魔力としよう。人間は、誰しもが魔力を持っているが、体内を流れる魔力というのは、己が持つ器の大きさと同じくらいの量のみであり、決してそれ以上の魔力があるということは無い」


 そう言って、ナディアキスタはコップに水を注ぐ。

 一杯の水をくゆらせ、テーブルに置いた。


「だが稀に、外から魔力を注がれて、器から溢れてしまうことがある」


 そしてコップに水を注ぎ足し、溢れさせてテーブルを濡らす。

 ナディアキスタは水差しを置き、「植物と同じだ」と話を続ける。


「植物は、水や肥料が多すぎると枯れてしまう。それは魔力でも同じことが言える。外側から注がれる魔力が多すぎて、自分が受け止められなくなると、体調に影響が出る。高熱は、魔力の膨張による体調不良だ。それがあまりにも長く続くから、昏睡状態に陥った」

「なら、どうやって娘の魔力を抑えたら?」


 問題はそこだ。原因が分かっても、対処のしようがなければ意味が無い。けれど、ナディアキスタはそれも「簡単な事だ」と言ってのける。




「その部屋に観葉植物を置けばいい」




「か、観葉······」

「植、物を······ですか」


 ぽかんとするサラとローランに、ナディアキスタは「パキラでいいんじゃないか?」とケロッとして言った。


「そうだ。魔力を注がれ続けているのなら、それを吸い取るものがあればいい。樹木は生命力が強く、かつ、寿命が恐ろしく長い。パキラなら初心者でも育てられる。より強力に魔力の吸収力を求めるなら、ガジュマルなんかもいいな」


 ナディアキスタは吸い取り方もサラに教える。

 部屋に置く時に、吸い取って欲しい人の額を拭いた布で、葉っぱを一枚一枚裏表きちんと丁寧に拭いてから、東側に置くといい。

 青い布か、紫の布が望ましいが、ないなら白でもいい。

 一日一回、観葉植物に葉水をかけてやれば、吸収した魔力の処理能力が落ちにくい。


 ナディアキスタは丁寧に、丁寧に教えてやる。

 ローランは私に「彼は“お医者様”ですか」と尋ねた。私は「そうですわ」と、白々しく答える。


「彼は医療従事者として働いておりますが、魔女や魔法に関する研究も行ってますの」

「なるほど。ではその知識は、研究分野の方だと」

「ええ」


「街全体で魔力の膨張が起こっているのなら、この街のどこかに原因があるだろうな」


 ナディアキスタはそう言うと、ローランにずんずんと近づいた。



「自由に歩かせてもらえないか」



『ついてくるな』『邪魔をするな』という思惑が読み取れる言葉に、ローランは少し時間を置いて「いいですよ」と許可を出す。


「ですが、国のルールは守ってください。私たちも、他国の方の処罰は胸が痛みます」

「いいだろう。侯爵様」


 ナディアキスタはそう言って、私を家の外に連れ出した。


 ***


 ナディアキスタはキョロキョロと辺りを見回しながら、何かを考えている。近くの花屋に寄ると、店先の花を手に取り、しおれかけた花弁をさする。


「······ナディアキスタ。何をしてる」

「街中に溢れた魔力の量を確認している。少女の体に蓄積したものと同じだが、その出処を知りたい」

「魔力の膨張は、観葉植物で抑えられるんだろ」

「ああ。抑えることは出来る。が、植物にも限界はある。家の中で過ごす分にはある程度は持つだろうが、それでも一週間がいいところだ」


 ナディアキスタは人通りの少ない道に逸れると、壁にもたれて話をする。


「鈍感で無知なお前のために説明してやろう。少女が魔力を溢れさせて高熱を出した。その後、大人も年寄りも関係なく、同じ魔力の膨張で倒れている。つまり、どこからか魔力が漏れだしているんだ」

「なるほど。つまりナディアキスタは、魔力の筋を辿って根元を抑えたいんだな?」

「そうだ。だが問題だらけだ」


 ナディアキスタはそう言って、問題の数だけ指を立てていく。



 一つ目は、魔力が街全体を覆ってしまっていて、魔力を辿れないこと。

 二つ目は、この国の植物が少なすぎて、魔力の吸収が全く出来ないこと。

 三つ目は、規則の厳しさゆえに、動きが制限されていること。

 四つ目は、魔女の力を火竜に知られないための作戦がないこと。



「問題は細かいのも入れるとまだまだあるが、今のところキツい問題を上げた。特に一つ目と四つ目は、かなりのハンデだ。魔力の出処が分からなければ辿りようがない。魔女バレなんかしたら、その日のうちに火炙(ひあぶ)り。弟の寿命が尽きるまで拷問なんてお断りだからな」

「そうか。まぁ、そうだよな」


 確かに今回はナディアキスタをあまり頼りに出来ない。けれど、ナディアキスタがいなければ、対処も出来ないのは事実。いかに彼を庇いながら問題を解決するかが鍵となる。

 ナディアキスタは私に「お前は最初にやるべき事がある」と指を差した。


「帯剣許可を取ってこい」

「はぁ? それがなんの役に立つ! この国では女が刃物を持つのは禁止だ! 料理は男の仕事といわれるくらい、徹底してる! 剣なんて(もっ)ての(ほか)だ! 帯剣許可なんて、取れるはずがない!」

「いいや、取れる。無理でも取ってこい」


 ナディアキスタの無茶ぶりに、私は呆れて言い返せない。けれど、ナディアキスタは「いいから」と言って、一人でさっさと街を探索しにいく。

 私はため息をついて、ナディアキスタとは逆方向に歩いた。

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