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123話 遠い国のSOS

 戦場を駆け巡る。

 血に塗れ、沈みゆく陽に一本の剣が輝く。

 すっかり慣れてしまった、女が踏むことの無い赤いダンスホール。


 私は帰国の準備をする兵士の馬車の後ろを追いかけながら、赤と白の入り交じった鎧の音を聞く。

 馬車の中では、若い兵士が私の方を見て、感心していた。


「いやぁ、副団長ってスゴいですね。あれだけいたマンティコラの群れを一人で切り捨てていくんだから」

「そりゃあそうさ。あの人は怖いもんなしだぞ」


 私より年上の、中堅兵士がカラカラと笑いながら、若者に語って聞かせる。──私の昔話を。


「あの人は妹の嫉妬と、親の爵位欲しさに罪を負わせて、自分で家族の首を斬ったんだからな。家族殺しすれば、魔物なんて屁でもないさ」

「えっ、それホントですか!? 俺、てっきりお(きさき)さまが盗みをしてたからかと」

「そんなのウソに決まってんだろ!」



「おい、無駄口を叩くくらいなら今のうちに剣の血を落とせ」



 二人の話を遮って、私は馬車に飛び乗った。

 中堅兵士は口笛を吹いて知らん顔で奥に引っ込む。若者は、私の方をチラと見る。


「············本当でしょうか?」


 散々聞かれた噂の真偽と、話への興味。

 最初こそ否定し、事実を並べていたが、いつしか疲れ果て、自分が知っていることすら嘘のように思えていた。

 当事者が握っている真実が、こんなにも腐っている。それが恐ろしく思えて、これ以上腐敗しないように、私は答え方を変えた。



「······好きな方を信じてろ」



 ──悪役だと思うなら好きにすればいい。

 私は、自分のダンスホールで踊っていよう。


 ***


 人の知る穏やかとは異なるが、平穏な日々が続き、あっという間に半年が過ぎた。

 気がつけば、両親とアニレアの処刑日もとい、命日が近い。真っ白なスノードロップの花束を三つ、国の花屋に注文して私は、貴族の仕事を進める。


 領地の財政はだいぶ安定し、領民の暮らしも豊かになりつつある。

 米と果樹の栽培も良好で、米は騎士の国ブランドのなかでもなかなか高品質な物となりつつある。

 桃も、国内外の出荷量が増えてきた。


 魔女の森も、私とナディアキスタが出会った頃に比べると、財政も上向きになり、カゴや織物などの加工品系が売れ行きが良い。夕市ではオルテッド特製の惣菜が人気で、野菜の栽培量が増えていることと、野菜そのものの売上も伸びつつあった。


「オルテッド、上手くやってんなぁ」


 オルテッドの上手く流す話術に乗せられる主婦たちの顔が目に浮かぶ。

 私は、くすくすと笑いながら、右肩上がりの書類と、国からの手紙に目を落とした。


「──さて、私にもそろそろ()()()()()


 望まない未来を鼻先に置いて、私はうんと背伸びをした。




「失礼致します。侯爵様、お手紙が届いております」


 ドアを二回ノックして、モーリスが声をかけながらドアを開ける。わかりやすい『緊急』の態度に、私は席を立った。


「手紙? 今朝届いた分だけじゃなかったのか?」

「いつもなら。ですが今郵便局の方が、汗だくで届けに来て下さりまして」

「郵便局員が慌てて届けに来る。昼近い手紙と、黄色っぽい封筒」


 他国はシールであるはずなのに、真っ赤な封蝋でドラゴンの紋章が特徴的だ。そして、宛名書きには緑のインクが使われている。


「火竜の国か」


 騎士の国から、遥か北東に位置する一番小さな国だ。

 そりゃあ、この時間に届くのも当たり前だ。

 だが、郵便局員が慌てる理由はなんだろうか。私は送り主の名前を見た。



 “『徳』の使徒より”



 とても漠然とした自己紹介だが、私はそれで納得した。

 私は封を開け、手紙に目を通した。緑のインクで書かれた内容に、私は驚いて言葉が出ない。


「──モーリス、すぐにメイヴィスに預けてある服を持ってきて貰えるか? あと、ナディアキスタも呼んでくれ。彼に合う服の用意も早急に頼む。いっぺんに頼んですまないが、やってくれるな?」

「承知致しました。差し支えなければ、どのようなご用件だったのかお聞かせ願えませんか?」


 私は急いで荷造りをしながら、モーリスに伝えた。



「火竜の国で、疫病が発生した」



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