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12話 変化した生活

 


(──ああ。もう、タレ目にする必要ないんだ)



 新しくなったドレッサーの前で、新品の鏡に映る自分を眺めて、私はアイライナーを置いた。


 もう目の形に嫌味を言う人もいない。自分の服が、アクセサリーが奪われることもない。運命さえも。



「哀れなアニレア。あの時だけでも、謝ってくれたなら」



 私は思ってもいないことを呟いた。


 ドレッサーを離れ、部屋の窓を開ける。

 静かな風が吹いた。うっすらと青葉の匂いもする。



 家族が処刑され、私がオルスロット家当主になってから、一週間後の朝だった。


 ***


 一か月前──騎士の国・ムールアルマ


 私が城に赴いて、その次の日の出来事だった。



 国中に新聞がばら撒かれ、アニレアの窃盗罪が知れ渡った。



 新聞売りは楽しそうに、新聞を売りまくって金を稼ぐ。新聞を読む人達は驚いたり、怒ったりと様々な反応を見せる。

 私も庶民に紛れて新聞を買った。その大見出しは、案の定アニレアの記事だった。




『国母アニレア! まさかの大泥棒!』




 ナディアキスタが『土産』と言って、置いていった深紅のバングル。あれが、商人の国の富豪の持ち物だった。

 その富豪が紛失届を各国に出していたのだから、余計に大騒ぎになっていた。


 当のアニレアは、それを『両親から貰ったものだ』と主張して返さなかった。さらに両親を引き合いに出して、両親が城に召喚され、両親まで罪を被る羽目になった。


 更にアニレアは、私が押収した盗品や、落とし主不明で預かっていた品も、勝手に持っていったことがバレたばかりか、勝手に売ったり捨てたことも暴かれ、その罪は投獄だけで済まなくなってしまった。


 私はざわめく民衆の隙間を抜けて、薄暗い路地裏を通って帰った。






「アニレア、罪を告白し、ちきんと謝罪なさい。そうすればまだ、間に合うはずよ」



 城の地下牢で、私はアニレアにそう助言した。

 それが私なりの優しさで、私なりの皮肉だった。彼女が謝り、罪を全て認めれば、命は助かるはずだった。


 しかし、彼女に自分が死ぬなんて考えは、丸っきりなかったようで、私が何を言ってもぷいと、不機嫌に顔を背けてしまう。



「私は悪くないわ! 家族の管理する金庫に、入れておいた方が悪いのよ。だってそうでしょ?」


「家の金庫の保管物は、国の管理期間を過ぎたものを()()()()、別の国に引き渡す物なのよ。昔から何度も言われていたじゃない。

 それを確認もせずに、勝手に持っていったあなたの責任でしょう。私のせいにしないの」


「お姉様が、こうなることを予想してやった事でしょ! 私は悪くないわ! お姉様のせいよ! 私が羨ましくてやったんでしょ! お父様とお母様はどこ!? 言いつけてやるわ!」


「お父様とお母様に話をするのなら、よろしく伝えてちょうだい。私はそこと、縁遠い場所にいるから」



 私が牢を離れると、アニレアは癇癪(かんしゃく)を起こして、鉄格子をガンガンと殴りつけた。

 それが、処刑日の三日前に交わした、最後の会話だった。


 ***


 部屋のドアがノックされ、侍女が部屋に入ってくる。

 新しく雇った侍女だ。新品のメイド服に着られている、初々しさがある。


 先輩の侍女に指導されながら、新人はトレーに乗った手紙の束を、私に差し出す。緊張で手が震えているのか、トレーの上で、手紙がカタカタと揺れる。




「お、お手紙が届いて······あっ!」




 新人の侍女がうっかりトレーを落とした。

 私がさっとしゃがみ、トレーを受け止めると、先輩の侍女が新人を叱りつけた。


「手を離すんじゃないって言ったでしょ! ケイト様がお怪我をなさったら、どうするつもりなの!」


「すっ、すみません!」



 私は二人を止めて、手紙の封を開ける。



「そう怒るな。トレーごときで怪我なんてしない。それより二人とも顔が青いな。少し休むといい。眠っていないのか?」


「い、いえ。ちゃんと休みました」


「食事は足りてるのか?」


「は、はい」


「嘘つけ」



 手紙を確認しながら、私は二人をじろりと見た。


 二人して痩せこけて、血色が悪い。先輩侍女は化粧でごまかせているが、新人に至っては化粧でも隠しきれないほど、目の下のクマが濃かった。



「二人とも、今日は休みにするといい。私には執事もいるし、侍女長もいる。気晴らしに出かけるでも、ゆっくり眠るでも好きにしろ」


「で、ですが()()()······」


()()だ。これは命令だぞ」



 侍女を下がらせ、私は手紙をまとめてゴミ箱に捨てる。

 肘掛け椅子に腰かけて、頭を抱えた。




「きゃあ! ちょっと! 何してるんです!?」




 庭から悲鳴が聞こえ、私はハッとした。

 剣を持ち、庭側の窓から飛び降りて、植木を踏み台に地面に着地する。


 すると、庭の一角で、ナディアキスタが侍女の制止を聞かずに、土を掘り起こしていた。



「またお前かナディアキスタ!」


「おぉ、これはこれはオルスロット侯爵様。ご機嫌いかがですか? 見た通りのようだがな!」


「茶化しに来たなら帰れ!」


「土を貰いに来たから帰らん!」


「おいこら屁理屈!」



 侍女はオロオロしながらナディアキスタと私を交互に見る。



「あ、あの、ケイト様······」


「リーリア、そう狼狽えるな。魔女のお眼鏡にかなう土なんて早々ないぞ。知らなかったフリをしろ」


「ですが魔女様······」



 私はリーリアに『庭師を近づけるな』と言いつけて、その場から離れさせた。

 リーリアが後ろを向いた直後に、ナディアキスタの顔を素早く殴り、植え込みの上にぶっ飛ばす。


 ナディアキスタが掘っていた地面を埋め直し、私は彼を担いで屋敷に戻った。

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