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112話 探しもの

 朝になり、私とエリオットは国に戻ることになった。

 魔法道具を探せるのは今日一日。たったそれだけの時間で、どうやって古の魔女の物を探せというのか。


「国の歴史を一から学ぶか? それとも魔女の残した逸話か、伝説か。いっそ、魔女信仰から読み解いてみるか?」


 エリオットが国の博物館や美術館を尋ねている間、私は一人で図書館にこもり、『真実を映すもの(ドラセナ・マジナータ)』について調べていた。

 幸いにも、魔女の記録は残っていた。けれど、『魔女はとても慎重にして謎の多い性格であった』との記述の先は、とてもあやふやな逸話ばかりだった。

 さらに歴史書にも、魔女の伝説物語にも、鏡を使った話なんて載っていない。魔法道具のことすら、一文も書いていなかった。


「うーん、魔女信仰を重んじる獣人族が住むなら、一冊くらいあっても良いだろうに」


 魔女の魔法道具に関する記述が皆無となると、本は役に立たないだろう。

 しかし、それを作ったのは聡明な魔女であるのだから、本に残っていても何らおかしくはないはずだ。それこそ後世に伝えられるような形で一つや二つ──······



「──······本に残らない形で、伝わっている?」



 この魔法道具は、魔法が使えない人間たちの為ではなく、失敗した弟子たちの為に作られたもの。そして、魔女の(まじな)いは弟子以外には絶対教えられない門外不出の技術だ。

 なら、もし弟子たちがそれをお互いに教え合い、膨大な時間に押し流されないように伝えていくとしたら?


 どうしたら内密に伝えられる? 絵にしたのか。暗号化したか。

 いや、魔法道具の名前すら、魔女の言葉遊びでつけられている。なら、その管理方法も、遊び心があるのかも。


真実を映すもの(ドラセナ・マジナータ)。鏡の魔法道具。なら、鏡に類するものか?」


 けれど、名前を考えると植物に関係性があるかもしれない。獣の国にいた魔女が聡明だったというのなら、溢れるほどの知識を持っていただろう。それを考えると、知恵を象徴するものに隠したか。


「ダメだ。考えれば考えるほど深みにハマる。どうやって隠したんだ?」


 魔女の頭が良かったばかりに、可能性が星の数ほど溢れてしまう。

 その中から一つの正解を導けなんて、学童にも専門家にも出来やしない。


 たった一日しか無い。その事実が私をさらに焦らせる。

 魔女の考えが読めない。弟子たちがどうやって伝えたかも。

 けれど、今ある情報から全て読み解き、考え、答えを出さなくてはいけない。


「考えろ。どうやって、魔女が魔法道具を隠したのか。どこにあるのか」




「一辺倒な思考だな。だからエリオットを突き放すのに『戦場帰りの血濡れ騎士』だの『首狩り族ごっこ』だのが思いつくんだ」




 本棚の影から声がした。

 私はそっとそこを覗く。ナディアキスタが小説を手にしながら、私に言った。


「いいか? 『魔女が』『どうやって隠したか』じゃない。『自分なら』『どうやって隠すか』だ。そしてそれを『どうやって伝えていくか』。賢い魔女と同じ思考を持とうとするな。自分がその魔女だったらどうするかで考えろ」

「お前、どうして」

「俺様は偉大な魔女だ。それも、(いにしえ)の魔女たちにも劣らぬほどのな。今この世に存在する魔女の中では、俺様は最も賢い魔女なんだ。この俺様が助言してやったんだから、あとは何とかしろ」

「メイヴィスか、オルカか。どちらにせよ、異論がある」



「偉大な魔女なら、ガラスの馬に『ぽんきち』なんて、ふざけた名前は付けない」

「うるさい」

「古の魔女にも劣らない偉大な魔女なら、楽器の演奏ごときで喧嘩(けんか)にならない」

「うるさい」

「そして最大の反論だが。賢い魔女なら、他人の家の庭を勝手に掘り返すような愚行はしない」

「うるさい」

「そうだ。今年だったな。畑の土質を変える(まじな)いが使えるの。見に行っていいか? 断られても行くが。絶対面白いだろ。見たい」

「絶っっ対にお断りだ。そして俺様をあんまり馬鹿にするなよ!」

「あらあら、ここは図書館でしてよ。お口はチャックしましょうね」

「ここぞとばかりにやりやがって。お前の屋敷の敷地内いっぱいに『真夜中に笑い出す花』を咲かせてやろうか」

「やめろ。近所迷惑だ」


 ナディアキスタは『エルフと精霊の旅』というタイトルの本を手に取ると、ペラペラとページを捲る。そしてスッと棚に戻し、また別の本を手に取った。


「──はぁ〜、何でだろうな。ケイトと旅をするとろくな事がない」

「奇遇だな。私もそう思っていた」

「本当なら、六つの国を巡って、魔法道具を回収して、さっさと星巡りを変えていたというのに」

「迷子探しから始まって、悪質な婚約者に殺し合い大会、(にえ)の花嫁ときて、今は戦争間近に探し物」

「笑えないな」

「本当にな」


 たわいない話を挟みながら、私は本棚に本を戻す。ナディアキスタも少しだけ手伝ってくれた。


「この本たちみたいに、楽しく旅が出来たら良かったがな」

「現実は小説より奇なりとは言ったもんだな」

「物語よりも危険な旅をしているぞ。羨ましくなってきた」

「ああ、良いよな。船に乗って大陸を巡る。時には空を飛んで、海に潜り、妖精族や魔族と遊んで、最後には笑って家に帰る」

「主人公は、無条件に愛されて、必ず帰る場所を用意されている」

「分かり合える仲間がいて、愛する人さえ不自由ない」



「俺たちとは大違いだ」

「私たちとは大違いだ」



 この言葉にできない感情を共有出来るのは、やはり彼だけだ。

 寂しいとも、悲しいとも違う、形のない感情は誰にも分からない。けれど、私は彼のお陰で自分を見つめ直せた。自分の周りに、いかに仲間がいるかを思い知らされた。


 だから、私は出来るうる限りの力をもって、剣を握り、仲間を守る盾となろう。


「さて、私ならどこに隠すか、か」

「悩ましいところだな。どうやって弟子たちに伝わったか」

「真珠の国だと分からないか?」

「いいや、どこの国でも(いにしえ)の魔女の話は必ず語り継がれている。だが俺様は、(まじな)いを教えられていないし、ねぎされている。から、どう伝わっているかは分からん」

「文献を漁るのは時間の無駄かもしれないな」


 私は全ての本を棚に戻し、うんと背伸びをした。


「じゃ、偉大な魔女ならどうするか、考えてくれよ。一つ一つ試そうじゃないか」

「はっ、短絡的な騎士らしい発想だな。だが悪くない。良いだろう、俺様は今とても気分がいい。乗ってやっても構わんぞ」

「おう、じゃあまずどうする?」


 私とナディアキスタは肩を並べて図書館を出た。

 物理と魔法。剣と杖。何一つ合わないのに、彼の隣は自分でも驚いてしまうくらい、居心地が良かった。

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