表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/158

10話 星巡り強奪作戦

 作戦を立てた次の日。


 きじを二羽と、薄汚い麻袋を引っさげて、私は国へと帰る。



 狩人の格好のまま国に戻ると、街には新聞が出回っていて、その大見出し記事には『オルスロット侯爵家、魔女の贄に選ばれる!』『国母アニレア様が魔女のご指名!?』『オルスロット侯爵家苦渋の選択はいかに』などと書かれていた。



 私はまず家に帰り、父と母に報告をする。

 父にはご機嫌取りの雉を渡し、母と二人、ダイニングに集まってもらう。


 父はソワソワと落ち着きがないし、母も顔色が不安定だ。

 私が軽く咳払いすると、二人は背筋が伸びた。



「ケイト、魔女はどうなった?」


「なかなかに手強い相手でした。私の奇襲にも応戦し、未知なる力を用いて戦うその姿に、どう立ち向かうべきか悩むほど。私が事前に立てた作戦のことごとくが──」


「そんなことはいい! 魔女は倒したのか!? アニレアの命がかかっているんだぞ!」





(──私の命は、どうでも良かった?)





 父と母は結果を急かし、私の話を遮った。

 私はほんの一瞬だけ、冷たい目で両親を見据えて、また、笑顔を繕った。




「······宣言通り、魔女の首を()ねて戻りましたわ」




 私がそう報告すると、父と母は安堵の笑みを浮かべた。

 私が差し出した袋の中身を確認せず、両親は胸を押さえて喜んだ。

 母は父に寄り添って、「良かった」と涙をこぼす。父はそんな母を抱きしめて、「ああ」と返した。




「これでアニレアは無事なのね」




 母の何気ない一言は、私の胸に突き刺さる。せめて、せめて一言だけ、私のことも心配して欲しかった。


「では、アニレアにも伝えるために、私は城へと参りますので」


 私は二人に礼をして、自分の部屋にこもった。麻袋をベッドに放り投げ、服や髪に仕込んだ武器を全て床に落とす。




「······クソッタレ」




 小声で悪態をつき、ドレッサーの鏡を睨みつける。

 鏡に手をつき、私は自分の顔に歯を食いしばった。


 ウロウロと部屋の中を歩き回り、気持ちを落ち着けようとしても、抑えられなかった。


 苛立って、鏡にナイフを投げつけると、鏡はガシャンッ! と音を立てて割れる。

 私は狩人の服を脱ぎ捨てて、いつものドレスに着替えた。


 貴族のドレスは重く、複雑なものが多いが、私には着替えを手伝う侍女がいないから、一人で着られるドレスばかりを着る。

 しかし、今回は特別な日だ。いつもより少しだけ手間がかかるドレスを選んだ。



 深緑の髪と同じ色の、露出の少ないドレス。

 実は特注で、ドレスの下にズボンが履ける代物だった。ウエストの下にあるフリルの隙間に手を入れると、スカートの部分が脱げてタキシードになる。


 騎士としても、令嬢としても着ていける、実に便利な服だった。



「ほぉ、いい服だな。そんな物も売ってるのか」


「覗くな。女の着替えは高くつくぞ」



 いつの間にかナディアキスタがいた。

 ベッドの上で、ナディアキスタはあぐらをかいている。


 彼は「着替えの後に来たからセーフ」とケラケラ笑っていた。本当に首を跳ねてやろうかと思った。


 ナディアキスタはオークの首入りの袋をつつくと、床に散らばった服と武器をさっと見下ろす。そしてフン、と鼻で笑った。



「お前の両親はつくづく馬鹿だな。中身の確認もせずに喜ぶなんて」


「なんで分かった」


「この俺様の首(笑)だぞ。中を確認したのなら、もっと丁重に扱われるはずだ。首も、お前の武器もな」


「······私の判断材料は武器か? まぁ、確かにお前の言う通りだったよ」



 私はタキシード風ドレスを着て、よそ行き用の令嬢の髪型に替える。ドレッサーの前に座り、メイクを施していると、ナディアキスタは私のヘアブラシをひょいと取って、私の髪を解いて梳かした。



「何のつもりだ」


「別に。鏡が()()()()()()()ようだから、俺様が手を貸してやるだけだ。顔も映らぬ鏡で、髪型を確認できるとは思えないからな」


「戦場でいちいち鏡なんて見るか。適当な木の棒一本でもあれば、髪型なんてどうにでもなる」


「だがここは戦場じゃない。大人しくしていろ。優しい俺様が、女っ気のないお前でも似合うヘアアレンジしてやる」


「はっ、お前に女の髪がいじれるものか」


「……魔女の弟は、必ずしも男だけとは限らん。髪をやってくれ、とせがまれたことなんて山ほどある」



 ナディアキスタは自信たっぷりに言った。その通り、ナディアキスタの手つきは優しく、手馴れていた。私が普段しないような髪型を、手本もなしに手際よく結わえた。


 編み込みで男性的な要素も加えながら、ボリュームのある華やかな女性らしい髪型にすると、ナディアキスタは私の首に、小さな香水瓶のついた金のネックレスをかけた。



「これがアニレアの星を奪う魔法だ。アニレアに渡す時は、ネックレスのチェーンを持って渡せ。香水瓶に触れると魔法が発動するからな」


「布越しはいいのか?」


「いや、手に触れると反応する。だから絶対に触るな」



 ナディアキスタはそう忠告すると、私はから離れた。



「お前がアニレアにそれを使ったら、俺様が城に出入りするためのドアが出来る。その時に完全に、アニレアの星を取り替えるから、くれぐれも! その香水瓶に触るなよ!」



 ナディアキスタはそう私に言いつけて、瞬く間に消えた。

 私は彼がやってくれた髪型にそっと手を当てた。触れた髪束に、生花の感触がある。私は引き出しにしまってある手鏡で、それを確認した。

 そこには、騎士の国の花である、白椿が挿してあった。



「······ふん、気遣いなんて」



 私は麻袋を持ち、腰に剣を差して部屋を出た。

 私がいなくなった後に、ナディアキスタが部屋に戻ってきた。

 割れた鏡を指をでなぞり、目を伏せる。

 そしてまた、いなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ