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図鑑動物園  作者: 早起ハヤネ
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図鑑動物園

はじめまして。

早起ハヤネと申します。

まず見つけてくれて感謝いたします。

第1話 図鑑動物園(ずかんどうぶつえん)




「あ、ハトだ」

 道原東湖みちはらとうこは青空を見上げた。

「ハトなんかめずらしくもなんともないだろ」

 若澤佑二わかさわゆうじはそっけなく答えた。ハトというと、自宅の家庭菜園で植えた枝豆が苗の状態の時に食べられてしまった悔しさしかない。

「リョコウバトって知ってる?」

「知らない」

「大昔に絶滅しちゃった鳥なんだけど」

 ハトは木立に切れて見えなくなってしまった。

 休日、少し遠出して訪れた公園のベンチで大学二年生の若澤佑二は同じ大学二年生で恋人の道原東湖を誘った。

「なぁ。今話題の、図鑑動物園ずかんどうぶつえんに行ってみないか? あれ、前から気になってたんだよなあ。ここから近いし」

「ずかんどうぶつえん? なにそれ。まったく流行ってなさそうなところね」

 道原東湖は小猿のように首をかしげる。

「流行っているかどうかはわからん」

「どういうところなの?」

「図鑑動物園は、動物とか昆虫とか魚とかあるじゃん。そういう生き物たちをまとめて見ることのできる図鑑の図鑑だよ」

「意味わかんない」

「図鑑の意味はわかるだろ?」

「当たり前だろ。バカにすんな。オマエとおんなじ大学生だぞ」

 若澤は恋人の顔をじっと見つめた。顔のパーツが鼻を中心に重力が働いているかのように小さくまとまっているのと、好奇心旺盛な瞳、小さい唇、小顔を際立たせる長い黒髪、童顔も手伝って中学三年生にしか見えない。

「…中学生、だろ?」

「違うわ。それは正確じゃない」

「でも認めるんだ」

「正確じゃないって言ってんの」

「じゃあ高校生?」

「違う。一見すると高校生にも見えるけど実は中学三年生で受験が終わって一息ついた頃に友達とみんなでディズニーランドへ行こう、っていうときの中学三年生かな」

「面白れー」

 座るのも飽きてきた若澤はよいしょっと立ち上がった。

「それより、行くのか? 行かないのか? 行かないなら俺一人でも行くけど」

「行くわよ。もちろん。デートなんだから」

「じゃあレッツゴーだ」




 札幌市は、中央区、円山公園の麓にある図鑑動物園。

 その日は、きのうまでの猛暑日が少し和らいだものの、体感、気温三十度越えは必至だった。

「その昔、ここには円山動物園まるやまどうぶつえん、っていう本物の動物を飼育している動物園があったの、知ってる?」道原東湖が聞いた。

「ああ、知ってる。今はもう絶滅していないライオンとかトラとかホッキョクグマなんかもいたんだろ?」

「タイリクオオカミやゴリラやチンパンジーもいたらしいよ。いやぁ残念。この目で本物を見てみたかったなー」

「そうなのか。今はもう絶滅した動物たちが。なんだか切ない話だよな…。一度絶滅したらもう二度と生まれてこないもんなあ」

「ところで、公園に来た時から思っていたんだけど、佑二その格好……」道原はアゴにピストルの形を作った左手を添えている。恋人を値踏みしているようだ。「まるで近くのコンビニへ行くみたいな服装じゃんか…」

 ロックバンドのシンボルマークのついたプリントTシャツに、下は使い古して色の剥げかかったジーンズというファッションだった。

「別にいいんだよ」若澤は心底からイヤそうに眉根を寄せた。ファッションのことを言われるのが一番イヤだった。「別に誰も見てないって! みんな自意識過剰すぎるんだよ! 芸能人じゃあるまいし」

「私が見てるじゃん…」道原は若澤のTシャツの裾を引っ張った。普段は研究一筋であまり表情を見せないが、こういったカワイイところもある。だが、若澤は人前で恋人らしくふるまうことは好きではない。

「見なくていいよ、別に」若澤はつっけんどんに返した。

 それより早く行こうか。

 二人は図鑑動物園のゲートへ入っていった。


第2話 入場


 どうやら想像していたものと違ったらしいと若澤は思った。

図鑑動物園ビブルズーというから、各国から集めた希少種を飼育しているのかと思ったけど…」

「まさか自分たちがVRで動物になって楽しむテーマパークだとはね」道原は肩に鷹でも止まらせたかのように肩を持ち上げるオーバーアクションをした。「でもちょっと面白そうじゃん」

 受付でどの動物になりたいか問われた。

 なることのできる動物一覧が提示された。かなりの種類がある。道原の話ではほとんどが絶滅した種のようだ。

「ねぇねぇ、麻衣まい〜あたしこのホッキョクグマっていうのがいいんだけど〜カラダが大きくて一番強そうだしぃ〜大物感スゲェ」

「一番強そうというなら、トラでしょ。王者感がハンパねぇ」もう一人の女の子が答える。どうやら高校生同士の友達のようだ。どこかで見たことのある制服だ。若澤自身が通っていた高校だった。

「王者と大物どっちにする〜?」

「王者よ。ほら、見なさい、一木かずき。この縞模様、どっからどう見ても威圧的じゃん」

「じゃあ、そのトラにする〜?」

「いや、やっぱよそう。トラはちょっと強すぎてNGな気がする。格ゲーでパラメ最強キャラ使って強くても、ズルいっしょ」

「じゃあ、このライオンは?」

「模様がないだけで、トラとほぼ一緒じゃん。ダメだよ〜」

「タイリクオオカミは?」

「タイリクオオカミはいいね。バランスが良さそう」

「じゃあタイリクオオカミにしよう。決定」

 若澤たちと道原の番がきた。

「どうする?」若澤が聞いた。

「私は、モチ、ライオン」

「ライオンはズルいって彼女たちが言っていたぞ? いいのか? しかも、ライオンはライオンでもホラアナライオンってのもいるぞ?」

 図鑑チュートリアルにはこのように書かれてあった。

 『更新世のヨーロッパ大陸のあちこちにおり、たてがみはなかったと言われている。しかしその後、ホラアナを住処としていたことから、現生人類やネアンデルタール人と住居や獲物をめぐって競争関係にあり、競争圧力に負けて絶滅したとのこと。その後は亜種のライオンが生き残ったが、それもちょうど情報革命後の地球の第一次気候変動による生息域の縮小や密猟者の介入によって亜種のライオンもまた絶滅したらしい』

「私はライオンにする。ライオンになってみたい。かつて百獣の王と呼ばれていたって書いてあるわ」

「お姉ちゃん、動物に詳しいね」後ろから少年が話しかけてきた。

「一応、大学生ですから」道原は胸をドンと叩いた。

「ぼく長田理ながたおさむっていうんですけど、そろそろ前へ進んでくれませんか?」

「ああ、ゴメンね」

「いえ」

「君はどんな動物にするの?」

「ぼくはシマウマですね」

「え! マジ! 小学生なのに地味なところ持ってくるね〜マジ、サイコーていうか、私ライオンになるつもりだから、食っちゃうぞ〜」

 道原は、少年の頭をバレーボールみたいに掴むと「ガオー」と大きく口を開けるアクションをした。

「そういうのやめて下さい」

 ガチでイヤがられたので、道原は両手を合わせて謝った。

「ゴメンね」

 長田理は結局、迷った末、同じ縞模様でもトラの方がカッコイイとのことでトラを選んでいた。



第3話 まずは猛獣ゾーンへ


 入場した者から先に係員からリストバンドをつけられた。遊べるブースがいくつかあり、チームプレイらしく、若澤と道原、長田の三人は、Aステージに分けられた。他にも、先ほど前に並んでいた女子高校生二人組もいる。彼女たちもAチームのようだ。他に信楽焼のタヌキみたいな恰幅の良い中年のおっさん。

 おっさんは名乗った。

「わしは、江部裕之えべひろゆきだ。仕事はコンビニのシステム管理者をやってる」

 あいさつもそこそこにAステージ班は、遊ぶための機器を身につけるとさっそく専用のブースに入った。

 安っぽいタイトル画面とともに始まった。

 気がつくと若澤はサバンナの真ん中の草地でシマウマになっていた。なんだかとても視野が広く、耳も鋭敏である。隣で草を食むデフォルトらしきシマウマの草を食む音や、消化する音まで聞こえてくるようである。

 ただ、脈が速く、いつもどこか怯えていて、警戒心を解ける安らぎという瞬間がまるでなかった。つまりリラックスできない。常に緊張している。

 若澤の耳が、ある音を捉えた。風上の方にある茂みから、サラサラ…と音が聞こえる。そよ風が起こしている葉ずれの音かもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 そうではない可能性って、じゃ、なんだ?




 気がつくと道原東湖はサバンナの茂みで、メスライオンになっていた。周りにも他のライオンたちがいて、デフォルトかもしれないし、他のプレイヤーかもしれない。

 どちらかわからないが道原は物音を立ててはいけない、という強迫観念みたいなものにとらわれていた。これは鉄則だった。何をつけてもこれだけは優先させねばならない。物音を立てるな。これは法律よりも絶対である。今の自分にとっての絶対的価値観である。本能と言い換えてもいい。

 視界がいやに狭い。前方のある一点だけしか見ていない。普段はひなたぼっこして静かな心が今は興奮でドキドキしている。

 目の前に、のんきに草を食んでいるシマウマがいた。

 こいつを襲わなきゃと脳の一部から指令が下った。あるいは食欲の刺激である。ゲームにもかかわらずお腹も減っているような感じさえしてくる。

 飛び出すタイミングを見計らった。ちょうど短距離走の選手がスタートの合図を待っているように。



 若澤は反射的に駆け出した。理屈ではない反射だった。危険を知らせるアラームが理性ではないどこかで警告している。慌てて身を翻したときにライオンが視界に映った。そこからはスローモーションだった。若澤の駆け出しを合図に他のシマウマたちも一斉に逃げ出した。

 なぜ俺が標的に? 他にもいっぱいいるのに。

 絶望的な理不尽を感じながら若澤は逃げ続けた。茂みという茂みが全て恐怖だった。この茂みにもう何頭かのライオンが息を潜めて待っている可能性もあるからだ。ライオンはそういう連携プレイをするという話を前に東湖から聞いたことがある。

 幸いにも今回それはなかったが若澤は致命的なミスを犯した。逃げ込めるブッシュの密集地帯まで来たはいいが、低木に足を取られて転倒してしまったのだ。

 その瞬間、ほとんど間を置かずにライオンが喉元に喰らいついてきた。ゲームなのでとくに痛いということもないが心臓がバクバク脈打っている。捕食される側にとってあまり心臓にいいゲームではない。




 BGMとともに安っぽいコンピューターの音声が聞こえてきたかと思うと道原は次の瞬間サバンナの真ん中でクロウサギになっていた。

 イヤホンから若澤の声が聞こえてくる。

「おい、東湖。いま俺を襲っただろ?」

「やっぱりあのシマウマ、佑介だったの? めっちゃ楽勝な狩りだったよん。だって自分からすっ転んじゃうんだもん。野生じゃ真っ先に命を落とすツキのないタイプだね」

「まぁそうだな。それは認める。一番の標的にされたところもツキがない。それはそれとしてどうして今度はクロウサギになってるんだ?」

「わかんない。そういうルールなんじゃないの?」

 心拍数がいやに速い。視野が広い。シマウマの比ではなかった。真後ろ以外はほとんどカバーしているといってもよい視界。まるでパノラマ写真だった。その視界に、のっしのっしと歩くホッキョクグマの姿が映った。

「マジかよ。サバンナにホッキョクグマか。ずいぶんユニークだなあ。とにかく逃げろ! ダッシュだ!」

 若澤が叫んだ。どうやら捕食された側と捕食した側は、プレイヤーとして共有することになるらしい。

「大丈夫だよきっと。今の私は俊足俊敏なウサギだからね。あの巨体に襲われて捕まるほど鈍くはないと思うから」

 その言葉通り、道原は跳ねるように二つ飛びでブッシュの中へ隠れると少しだけ身を潜めてから、できるだけ遠くまで逃げた。

 穴だった。穴を探さないといけなかった。



第4話 チュートリアル


「どうやら草食動物が肉食動物に捕食されたら、別の動物に変わるっていうシステムらしいな」

 若澤の声がイヤホンからきこえてくる。

「そうみたいね」

「どこにもそんな説明は書いてなかったけど」

「やってるうちにわかってくるっしょ」

 道原はどんな状況でも受けて立つといった声だった。

「まぁ、たしかにそうだよな。最初からライオンとかトラになったら、そいつらが最後まで生き残るもんな」

「でもこれって、生き残りゲームなのかしら」

「言われてみると違うと思うけど、どうなのかな」

「だよね。ただ動物になってみて楽しむゲームだと思う。ていうか、そうであってほしい。いずれにしてもクロウサギとはね。スキル自体はかなり弱くなったね。毛色も目立つし」

「頼むぜ、師匠。俺はなんにもできねぇ。しゃべるくらいしか、な」

「しゃべりすぎて私の集中力を乱さないでね。あまり有利な状況とは言えないけどこの俊敏さで最後まで生き残るわよ」

 ようやく見つけた穴の中に隠れているからか、視界はだいぶ暗い。その時イヤホンからブーンブーンと警告音が鳴り今度は視界が赤くなった。

「な、なに? まさかハンターが来たの?」

 だとしたら袋のネズミだったが、いくら警戒して息を潜めて待っていてもハンターは現れなかった。

「もしかして…これはいわゆる空腹アラームなんじゃない?」

 道原が言うと即座に若澤の声が返ってくる。

「そうだ。そうにちがいない」

 このままじっと穴にこもっていたら最後まで生き残れるかもしれないが、それではゲームとしてつまらない。早くここから出ろってことだろう。そして一定時間経過するとたぶんゲームオーバーになる。

「クロウサギの主食というとやっぱり草花だろう 昆虫も食べるんだったっけ? …辺りを警戒しながら食べないといけないな」

 クロウサギの天敵といえば、猛禽とかキツネとかヘビだろう。

「空と地上の両方を注意しないといけないなんて! ウサギってタイヘン。佑介、あんた空の方を警戒頼むわよ」

「オッケー」

「じゃあ、いっせーので、出るわよ! いっせー、の」

「で!」

 クロウサギは穴から飛び出した。巨大な鳥が上空に旋回している。

「めっちゃやばい! 逃げろ! あれタカじゃん!」

 若澤が叫ぶと道原は鼻をピクピクさせた。

 チュートリアルを呼び出した。

 ハゲワシとは、簡単に言うと腐肉食動物スカベンジャーという腐肉専門の大型の鳥のようだ。

「なるほど…。でもさ、たとえ腐肉専門だろうが、空腹を感じたらこんなちっぽけなウサギを襲おうこともあるんじゃないか?」

「そういうこともありそう」

「だろ?」

 自然界では空腹になったら何が起きるかわからないだろう。生息圧や環境変化によって臨機応変にニッチを変え食料もかぶらないようにすることで進化してきた種もいるようだ。

「だから早く逃げよう」と言う若澤に対して道原は落ち着いている。

「それは自然界の話でしょ。これはゲームだからね。ちゃんとハゲワシのデフォルトは忠実に生態を再現されていると思うんだけど」

 ほら見て、と道原は言う。「さっきからぐるぐる回っているだけで降りてこない」

「じゃあ、クロウサちゃん、生死を賭けた冒険の旅に出よう」


第5話 サバンナでデート


 道原は若澤のガイダンスに従ってサバンナを疾走していた。

「前方にアカシアの木がある。ウサギだからそこには登れない! 左にはヘビがいる! 右だ! 右に直角カーブだ!」

「直角カーブってどうやってやるのよ!」

「わからん! テキトーにやってみてくれ!」

 道原はタイリクオオカミに追われていた。

 サバンナになぜオオカミ? という問いかけはもはやナンセンスとさえ言える。ホッキョクグマさえ出現したのだから。

 とりあえずタイリクオオカミである。

 チュートリアルによると、イヌの先祖に当たるらしいが、イヌの先祖は、比較的ヒトに懐いた種と種を掛け合わせて人工的に繁殖させられたものからイヌに進化していったらしいが、気性の荒いタイリクオオカミはイヌにはならなかった。つまり、今やもう別種とさえ言えるらしい。

 やはり野生の力スゴイ。

 しつこく付け狙われて初めてわかる。一匹しかいないのにその底なしの持久力。しかも、デカい。イヌの比ではない。大物感がある。イヌにはない眼光の鋭さ、突き出した鼻、唸りを上げる牙、人間にへりくだることのない気高さもあった。

 なによりその執念と追われる者の感じる圧。群れで追われていたら、もっと状況は厳しかっただろう。

 どのくらい逃げただろうか。始めはスタートダッシュで俊足を飛ばして距離を広げたものの逃げ込める巣穴がいっこうに見つからなかった。今はもうバテて足が動かなくなってきている。

 ブッシュに隠れて身を潜めても嗅覚に優れ、賢いオオカミには通用しないだろう。後ろからは「ハッ、ハッ、ハッ」とオオカミの息継ぎの音がきこえてくる。

 なまじ耳がよくきこえるだけに戦慄が募るばかりだ。

 心拍数も上がってきている。

「東湖! 心拍数三百を超えた! 人間だったら異常な数値だ! なんかよくわからんが数値が見える! リストバンドと連動しているみたいだ! 少し休んで息を整えろ!」

「そんなわけできるわけないでしょ! 後ろからオオカミが来てるんだから!」

 言い合いをしているうちにオオカミの前足に引っかけられて転んだ。すぐに首根っこに牙を食い込まれる。

「ピーッ!」断末魔が上がった。

「あ、食われる」まるで緊張感のない若澤。

「ゲームオーバーになっちゃう!」




「次はなんだ?」と若澤。

「サル?」と知らない女性の声がした。若そうな声である。

「いえ。これはチンパンジーじゃないかしら」道原の声が応じる。

「チンパンジーってサルに似ているんですね」また知らない女性の声である。

「サルよりは賢い生き物だったらしいわ。私たちヒト属と非常に近い種だったの」

 道原の声が弾んでいる。絶滅種に出会えたからだろう。

「ところであなたたちはオオカミだった人たち?」

「そうです。オオカミです」最初の女性の声が返事をする。「どうして知らない人の声がきこえるの?」

「そういうシステムらしいのよ」道原は先輩風を吹かせるように得意げに答える。「捕食したものは、捕食された者と視覚や音声データを共有する。つまり私たちはあなたたちに取り込まれたってこと」

 そういうことでヨロシクと道原はとくに悔しそうでもなく気さくだった。

「私は道原東湖よ。H大の学生です」

「へぇ、H大なんですか。道原さん頭イイんですね。あたし、K高に通っている小飼一木こがいかずきって言います」

「わたしも同じくK高の大西里后おおにしりこです。よろしくお願いします」

「俺は道原と同じH大の若澤佑介です。ヨロシク二人とも」

「あーなんかイケメンっぽい声ですねー」小飼が友人の大西に話を振る。

「声を聞けば、たしかにそうだね。名前もイケメン風です」

「見てくれは別に大したことないよ」

 若澤は冷静というか淡々としていた。

「私はイケメンだと思ってるよん」

 恋人同士にしか通用しない傍目から見るとイタい道原の甘え声だった。高校生のバカップルじゃあるまいし。こういう配慮に欠ける発言を公の場でされると困る。

 案の定「えー!」と二人の女子高生のそろった声。

「お二人って付き合ってるんですか!」小飼の甲高い声。

「そうとは知らず、サバンナデートを楽しんでいたところを襲って食べてしまいすみません」大西である。

 まったくもってふざけている。今度はこの若い子たちと一緒にプレイしなければいけないのか。若澤は内心で悪態をついたが、ゲームとしてはなかなか面白くなってきたと感じていた。



第6話 四人で回ろう


 チンパンジーになった瞬間には、まず敵の縄張りの中へ丸裸にされて置き去りにされたような不安、イラ立ち、そして恐怖心から来る震えと、矛盾する来るなら来てみろという強がりにも似た凶暴性を人間に近いものだと小飼は感じた。

「小飼さんパラメーターはどう?」

「サバンナに対する適応値が低いです」

 図鑑チュートリアルでもっと詳しい情報を調べると、ジャングルへの適応値が高かった。

「ってことはジャングルへ行ったらいいのか?」

 若澤が問いかけると道原のウキウキした声が返ってくる。

「でしょうね〜」

「じゃあ早くここから離れよう」

「ジャングル探しますか? マップ出しますよ」小飼一木は道原に聞いた。

「チンパンジーってなにを食べていたんですか?」大西理后である。

 食料をチェックする。

 雑食、とある。

 木の実やハチミツ、場合によっては他の霊長目の幼獣を襲って脳も食べたとのこと。

「脳を食べてたんですか!」と大西。

「それじゃゲーム的には、食料の幅が広くてわりと助かるじゃん」

「なんで絶滅したんですか?」と小飼。

「アフリカのジャングルがぜんぶ平原や砂漠に変わってしまったからだと書いてあるわ」

「なるほど…。じゃあ、次はジャングルへ行って、他の霊長目をメインに狩りをすればいいんですね。…でも、脳を食べるのはイヤだなぁ」

 どちらかというと大西よりも小飼の方がチンパンジーの主導権を握っているようだ。

「待って」と大西。「ジャングルに戻ったらあたしたちはそこにいる捕食者に襲われることはないの?」

「ジャングルには彼らの天敵がいると思うわ。ヒョウとか」道原である。

 わからないときはチュートリアルの図鑑を開こう。

 ヒョウは人類の進化の歴史と共に歩んできて、俗に言う剣歯虎サーベルタイガーが滅びていく中、サバンナ、ジャングル、山などさまざまな地域で生きることのできた適応性に優れた猛獣らしい。

「でも、あたし、簡単にはヒョウにやられない自信があるわ」と小飼。「ね? 理后。そう思わない? なんていうか今での動物に比べて非常に頭がクリアというかさ」

「わかるそれ! なんかうまく立ち回れる気がするんです!」

「まーチンパンジーだからねー知能は優秀っしょ」

 道原が洞察を加える。ピンク色の唇を真一文字に結んで得意げにマユ毛を下げている表情が若澤の目に浮かぶかのようだ。

「それなら安全策をとってジャングルへ引きこもろう。ヒョウが現れたら要警戒だ。チンパンジーのエサは樹上にもあるだろう。当面はゲームオーバーになる心配はなさそうだ」

 チンパンジー四人部隊は、地平線の彼方に見える緑地帯へとナックルウォークで向かった。地上でのカレは決して速いとは言えなかった。賭けだった。このあいだに足の速い捕食者に狙われたらゲームオーバーは必至である。

「ジャングルへ逃げ込んだら、まず木の上に逃げましょう」

 道原のアドバイスで樹上に避難する前だった。




 突然茂みからなにかが飛び出してきた。

 トラだった。

 まるで交通事故だった。いきなり右から車が突っ込んできたみたいに。

 回避する間もなかった。

 狩られる動物というのはこうやって突然の事故のように一瞬にして命が奪われてしまうのだろう。

「思い出にひたる時間もなかったですね」

 小飼がわざとらしくシュンとして言った。

「そうだね」と大西。「まーうちらの本当の命が奪われたわけじゃないけどね」

「でも感情はリアルだったよ」

「そういうふうに設計されているみたいね」と道原。

「それはそれとして、キミたちもゲームオーバーになってしまったな」

「てゆうか、まさかサバンナのジャングルにトラとはね。恐れ入ったわ。これが本当のライガーね。樹上に逃げる前にまんまとやられたわ。ヒョウに警戒しすぎた」

「この展開だと次に起こることは…」

 若澤が今朝剃り残したまばらに生えた無精ヒゲに触れている。

「何が起きるんですか?」と小飼。

「ちょっと前にあなたたちオオカミにクロウサギだった私たちが襲われてチンパンジーになったように、このトラのプレイヤーがいったい誰で、そして次はまたどんな動物になるのかってことね」

「あれ? どうやら大所帯のようだね」少年らしい高い声がした。「ぼくは大人数でつるむのはキライなんだけど」

「子供か」と若澤と道原が同時に言う。

「男の子かしら」と小飼。

「え? いったい何人いるの?」少年は少し戸惑っているようだ。

「ぜんぶで四人よ」大西である。

「ほんとうにうんざりするくらい多いね」どこか物事を達観したような生意気そうな声である。「でもまーいいや。次はホッキョクグマじゃん。サバンナにホッキョクグマってめちゃくちゃだけど。陸上最強の動物といってもいいんじゃん。これでぼくがトップでクリアーほぼ決定かな。…いーやまだか」

 ひとまず動き出す前にみんなで自己紹介をした。

 少年は長田理ながたおさむと名乗った。ゲートの入り口で見かけた少年だった。

「ところでぼく、小耳にはさんだ耳寄りな情報があるんだけど」

「どんな情報だい?」と若澤。

「ぼく、あなたたちを襲う前にシマウマだったんですがトラに食べられましてね。そのとき、トラだった人が……もうゲームからエスケープしていないんだけど、そしたらその人がめっちゃすごい合体技を教えてくれたんだ」

「めっちゃすごい合体技?」道原が前のめりになる。「なに?」と食いつく。

 ところで、今の話で誰も気づいていないようだが、どうやら同時プレイ中に仲間がエスケープして自身のプレイヤーしか残らなくなると食った側の肉食動物のまま残るようだ。…トラがシマウマを食べて変身するところを、トラが脱退して食われた方がトラのまま残った。

「ねえちゃん、その前にまずゴリラを探さないと」

 長田は合体技というキーワードをわざとらしくかわした。もったいぶっているようだ。

「ホッキョクグマの姿でゴリラを狩るの?」

「すごいファイトになりそうだな」と若澤。

「どうやって決着がつくのか見ものね。もともと出会うはずのない動物だっただけに」

「東湖、好きか、こういうの」

「ゲームだからね。実際にはこんなことできないっしょ。妄想みたいなモンよ。たとえばヒグマの檻にジャガーやヒョウを放つとかさ。古代ローマのコロシアムじゃあるまいし、マジでやったら動物愛護団体はもとよりふつうの良識ある人々からも苦情が殺到して炎上必至」

「そろそろ行こうぜ」と長田。「ところで、おねえちゃんゴリラってどこにいるの?」

 図鑑チュートリアルで調べる。

「高地にあるジャングルね」



第7話 五人で回ろう


 サバンナをのっしのっし歩くホッキョクグマに挑みかかってくる者は誰ひとりいなかった。

 ひなたぼっこ中のライオンも木陰でちらりと見ただけですぐに目を逸らした。行く先々で見かけるシマウマやガゼルも蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「気持ちいい」長田が言った。「まさに最強だ。サバンナにいるのは違和感あるけど、ライオンですら手が出せないこの巨体。百獣の王も子供に見えるね」

 ユキライオンっていう種はいなかったのかなぁと若澤が呟くと、

「それはいなかったわね」道原が残念そうに肩をすくめる。「でも大昔にはホラアナライオンっていう動物がユーラシア大陸にいたからね。ホラアナグマもいたし。ライオンとクマが出会うこともあったんじゃないかな」

 ホッキョクグマというからには暑さは根っから苦手なのだろう。サバンナの暑さにホッキョクグマはへたばっていた。アラームが鳴っている。放っておくとゲームオーバーになってしまうだろう。

 長田は川を見つけるとそこで水浴びをして体温を下げた。川辺にいたワニやヌーといった大型の動物たちでも逃げていった。ヌーを狙って茂みに潜んでいたライオンですらも。

 そろそろ空腹を感じていた。狩りをしようかと相談し合ったが、サバンナにおいてはお世辞にも上手なハンターとはいえなかった。そもそもカラダが大きく目立ちすぎてすべての動物に逃げられてしまった。

 道原の話ではホッキョクグマのおもな獲物はアザラシやシロイルカらしく、ここのサバンナにはアザラシはいなかった。

 シマウマの死骸があった。まだ肉が残っていた。ブチハイエナやハゲワシ、カラスや小型の鳥が群がっていた。少し離れたところではコウノトリもいる。

 ホッキョクグマは突撃した。鳥たちは驚いて逃げていった。むさぼるように食べた。残ったのは肋骨や骨盤だけだった。しかし空腹は満たされなかった。

「あそこ! あそこに見える山にゴリラがいそう!」道原が目的地を見つけた。





 高地をめざしてジャングルに入った。樹上でサルと鳥の鳴き声がまるで恐竜の世界のように響いていたが、恐竜の時代にはまだサルも鳥もいなかっただろう。

 厳密にいうと恐竜の一部が進化して鳥類になっているので鳥の原型になるような生き物はいただろうが、さすがにサルはまだいなかった。

 哺乳類が繁栄してくるのはまだだいぶ先である。恐竜の時代の森はむしろ昆虫の天下だったろう。

 なにせ森を賑やかにする鳥やキツネザルといった種がまだいなかったのだから。そのため、恐竜の時代において本当の主役は昆虫であり、夏であればセミとかキリギリスの仲間が鳴いていたら、賑やかだったろう。トンボの翅音だって聞こえていたかもしれない。どこかで水滴が落ちる音なども。

 長田理は足元に珍しいバッタを見つけて興奮する。

 長田の好きな昆虫はなんといってもこの地球の真の主役だった。昔に比べたら絶滅によって相当な数の種を減らしたというが、それでも哺乳類や鳥類、爬虫類などに比べるとまだまだ圧倒的に種や数は多い。さすがにもう新種は見当たらなくなったけど。どれもこれも人間のせいだ。

 ホッキョクグマでは、樹上にいる動物には手が出せなかった。キツネザルのような原始的な霊長目はたくさん見つけのだけど。

 やはりゴリラという動物を探さないといけない。ジャングルというだけあって足の踏み場もないほどブッシュでいっぱいだった。草には露がついている。ところどころぬかるみもあった。高地だけあって雨が多いのだろう。

 そう思うとグッと暑さが増した。まるで着ぐるみを着ているみたいだった。

「あ! あれはなんですか!」と大西。

 一同の視線がそちらへ向かう。

 サル、ではない。サルよりはずっとカラダが大きい。ナックルウォークをしている。こちらを見るとある種の威嚇のように胸をポコポコ叩いた。

「ゴリラね」道原が断言した。「間違いない。絶滅した霊長目の一種よ」

 さぁ少年、となにかのアナウンスをするような言い方をする。どちらか一方の口角を上げてどんな状況でも楽しむ心を忘れない好奇心旺盛な笑みが若澤の目に浮かぶようだ。

「ゴリラがめちゃくちゃすごい組み合わせになるって言ったわよね?」

「はい、言いました。このまま襲っちゃいますよ」

「任せたわ」

「どんな動物になるのか楽しみですね」と小飼。女子高生らしくなんの憚りもなくウキウキはしゃいでいる様子が伝わってくる。

「やっぱりホッキョクグマとゴリラの組み合わせだから、とんでもなくすごいヤツになるんじゃない?」今度は大西。

「なんだろう…」

 若澤は考えるもののとんでもないすごいヤツがなかなか出てこない。

 なんかいるか?



第8話 レストハウス


 江部裕之えべひろゆきは、目の前のシロクマに対してドラミングを行ったもののまったく逃げていかずピンチだった。

 今まではタイリクオオカミやヒョウといった動物があらわれたときには、ドラミングをしたらたいがいは逃げていったのに。今はなにか明確な意図があって自分をターゲットにしているとしか思えない。

 だがこのゴリラという動物。極太の腕を見るかぎり、腕力はありそうだ。犬歯も戦闘用に使われるものだろう、相手の首根っこに噛みつけば即死させられるように鋭く尖っている。なによりこのアドレナリンの高まり。

 江部ゴリラも戦闘態勢に入っていると言える。迎え撃てば、もしかしたら勝てるかもしれない。

 さいごにもう一度ドラミングをすると吠えた。樹上にいた小鳥たちがいっせいに羽ばたいた。



 シロクマ長田は、外野の声に辟易していた。

「長田くん! 右からフックをかませ!」

「あー! 決まった!」

「さすが鋭いツメね!」

「ツメ立てるなんて反則じゃん!」

「うっさいなーあんたたち。ボクシングじゃないんだからさー」

「ほら、怒ったじゃん」と道原。「佑介あんたが右フックなんて言うからさー」

「ていうか、おまえもノっただろ」

「ノることにはなんの罪もないわ」

「いやある。あると思う。俺のセリフに追従していないとノることはない」

 イジメでも、イジメてるヤツに振られたセリフにノるということは、そいつにとって直接加害する明確な意図に欠けるというだけで、間接的にイジメを促しているのと同様だろう。だからそういうヤツはズルいと思う。

「あんた、あいかわらず細かいわね」

「こういうセンシティブなところは細ければ細い方がいい」

「わからなくもないわ」

「じゃあいいじゃんか。わからなくもないなら、どちらかというとわかってほしい」

「言ってみたかっただけよ。細かいわねって。私たちってあまりそういうことを言うことがないから」

 たしかに、ない。お互いカンカン照りの日に外干ししたようなドライな性格なので、細かいことはいちいち指摘しない。それが良好な関係を築くに当たって一番大事なことだと思う。

「…ちょっと恥ずかしいから、ここでそういうプライベートなことにツッコむのはやめないか? みんな聞いてるんだよ」

「私といて恥ずかしいだなんてヒドい」

「そうとは言ってないだろ」

「じゃあ、自慢の恋人です、ってここで宣言してよ」

「イヤだ。ぜったいイヤ」

「地球が滅んでもダメ?」

「ダーメッ!」

「分子レベルにまで解体されたら、愛しているもなにも言えなくなるわよ」

 ツンとした道原の澄まし顔が目に浮かぶようだ。

「…仲がよろしいんですね」と小飼。

「まったくもってマイナーなカレシとカノジョの関係ですね」と大西。

「カノジョとか言わんでくれ。恥ずかしい」

「じゃあなんて言えばいいんですか?」

「恋人」

「恋人? えーそっちの方が恥ずかしくないですかー」

「カレシとカノジョが許されるのは、高校生までだよ」

「道原さん、恋人ですって」

「うらやましいですね。私も恋人って言われたいです」

「あ、ああ、あんたたち年上をからかうもんじゃないわ」

 こういう冷やかしには動揺しやすい道原だった。いつもは無表情な童顔をわかりやすく紅潮させているに違いない。

「皆さん、ぼくが苦戦しているときに、なにをベラベラくっちゃべってるんですか!」長田はイライラを募らせているようだ。

「あまりイライラすると老けるぜ?」

 若澤が小学生に言ったが誰も笑わなかった。

 長田シロクマは、白い体毛に血しぶきを浴びながらも、ようやくゴリラをその足元に屈服させていた。



第9話 もう一周しよう


「なんで?」

「どうして?」

「マジで?」

「弱体化したの?」

「振り出しに戻っただけじゃん」

 口々に不満と心配の声が上がった。その中で道原だけがあっけらかんとしている。

 図鑑チュートリアルを呼び出すと競走馬とは違ったがっちりとした体格のウマだった。人間が家畜化する前の野生のウマらしい。

「いいじゃん、べつに。ノウマだってりっぱな動物じゃんか。肉食動物好きなんて子供だよー草食動物にも敬意を表するようでなきゃ、人間としてなにか肝心なところが足りないわ」

 そういうことで、ホッキョクグマとゴリラの組み合わせで、なぜかウマになった一行だった。野菜を食べたい衝動に駆られた。なんならベジタリアンになってもいいくらいだ。そして、風を切って大地を走りたい。

「もしかして、一度最強になったら、今度は狩られる側である草食動物になるっていうシステムなんじゃないですか?」小飼である。

 そういう核心部分に関する図鑑チュートリアルはなかった。

「いや、違います。ぼくがエスケープした人から聞いたのは、そんな単純なことじゃなかったです。いくつかある組み合わせの中からそれを選択すると、まったく新しい展開へと進むみたいなんだ」

「新しい展開って?」大西。

「うん。そのためにはまずこの中からひとりいったん分離して、ホラアナライオンになってもらう必要があります」

「そんなことできんのか?」

「分離は、この集団からひとりだけゲームオーバーでエスケープして、あらためて違う動物で途中参加することですよ」

「なるほどね。それなら私が一抜けしてホラアナライオンをやるわ。じゃあ私はホラアナくんになってノウマであるあなたを襲えばいいのね?」

「さすが道原さんですね。ぼくが説明する前からすでに…。まさにその通りです」

 それからすぐに道原は音声ガイダンスに従って、いったんゲームオーバー扱いになった。ほどなくたてがみのないライオンとして現れた。初めに道原が選んだライオンよりもやや体格が大きい。肉への衝動がすごかった。今夜は、佑二と焼肉へ行こう。

「では、ぼくたちを襲って下さい!」

 ホラアナライオンが喉元に食らいついた。

「…リアルじゃないってわかってるんだけど、あまり気持ちの良いものではないな、これ」

 若澤の感想にみんな一様にうなずいた。




「ウソでしょ?」

「マジで? 怪獣?」

「こんなのアリかい?」

「すげぇ飛躍してんじゃん」

 あちこちで飛び交う驚きの声。音声マイクが渋滞していた。

 それもそのはず。

 ホラアナライオンが数々の組み合わせを経て生まれたノウマを食らったあと、サバンナに現れたのは、恐竜。

 それも地上最強の肉食動物と言われるティラノサウルス=レックスだった。

「これがレアな組み合わせなんだな! めっちゃカッコイイ!」若澤は飛び上がらんばかりの喜びようだった。「道原さん道原さん、応答願う」

「応答願わんでもちゃんときこえているわよ。それにしてもTレックスとはね。バカみたいと言えばバカみたいだけど、捕食者としてのホッキョクグマのポテンシャルを上回る地上の肉食動物と言えば、たしかにTレックスくらいしか思い浮かばないわね。これでもうゲームはこれで終わりじゃない? 最強になったら、もうゲームを続けるモチベーションなくなるっしょ」

「フッフッフ、それが終わりじゃないんですよ」長田がもったいつけるように言う。

「フッフッフ、じゃねぇよ。早く言えよ」

「ひとまずまた何人かゲームオーバーになってこのTレックスから離脱しないといけません」

「ん? っていうことは、誰かがこのバカデカい動物の犠牲になるってことかね?」江部がたずねると、

「いえ、次はまた違います。今度はとりあえず小飼さんと大西さんには一度ゲームをリセットしてチンパンジーとしてふたたび参加してもらいます。若澤さんにも同じことを。若澤さんはノウマでお願いします」

「ノウマ? ところで、不思議に思ったんだがどうしてウマがいるんだ? このアトラクションって絶滅動物たちが中心のものだろ? ウマってどこにでもいるじゃん。競走馬だってそうだし、乗馬の馬だっているし」

「それは私が説明しましょう」道原は図鑑チュートリアルを開いた。「い〜い? 今いる馬っていうのは、すべて野生の馬をいくつも掛け合わせて生まれたみたい。昔から馬は人間の戦争とか移動に使われていたからね。だから純粋な意味での野生の馬は、もうかなり昔に絶滅していたってワケ」

「そうなのか」

「さぁ若澤さん! 小飼さん! 大西さん! そろそろやっちゃって下さい!」

 名指しされた三名は言われたとおりにした。

 サバンナにチンパンジーと野生のウマが同時に出現した。競走馬と違うからか、だいぶ不恰好というか鈍重そうである。これが本来の自然のすがたなのだろうけど。

 Tレックスが両者を見下ろすカタチになる。文字通り、ひとひねり、できる状況である。が、Tレックス長田道原江部は、まったく動かない。襲うことが目的ではない、と言っていたからだろう。長田の声でチンパンジーに指令が発せられた。

「小飼さん、大西さん。ウマを襲って下さい!」

「え? マジで?」と若澤。

「わかったわ」

 チンパンジーは二匹がかりでウマに襲いかかった。反射的にウマ若澤はきびすを返して逃げた。

「若澤さん逃げないで下さい!」

「いやこれ、逃げるだろフツー」

「チンパンジーにはウマを殺せるだけの能力はありませんよ! 現時点ではね!」

 長田は例の、フッフッフという笑い方をした。

「小飼さん! 大西さん! そこに転がっているおっきな石を拾って、ウマの脳天に一発ガツンッ! とやっちゃって下さい!」

「了解!」と二人は声をそろえる。

 若澤ウマは身をひるがえしたが、その先にほかのプレイヤーかデフォルトだろう、ライオンが潜んでいるのを感じた。ライオンにやられたらもっとまずいだろうと踏みとどまり、棹立ちになった。

 元の姿勢に戻った瞬間、すきを見逃さず小飼大西チンパンジーが手にした大きい石にガツンとやられる。若澤はその場に崩れ落ちる。その次のときだった。

 チンパンジーのすがたが、変わった。



第10話 シークレット・ゾーン


 チンパンジーは、みるみるすがたを変えていった。それまでの動物から他の動物へと姿形を変えてゆく変化とはどうも違って、ずっと手が込んでいた。

 よく人類の系統図で見られるようなヒトの進化の変遷。

 それがある時点で分岐していく。

 チンパンジーから分岐してヒトになり、現生人類とは別のいまはもう絶滅してしまったネアンデルタール人のすがたになった。背は低いが肩幅が広く、がっちりした骨太な筋肉質の体型である。二足歩行で立っている。

 しかも、二人いる。どうやら小飼、大西の女子高生チームらしい。二人の手にはそれぞれ棒の先端に石器をつけた槍らしきものがある。

 そういう若澤もネアンデルタール人のすがたである。手には例の石器もある。

 若澤が途方に暮れているとTレックスが襲いかかってきた。この中にいるのは、長田と道原と江部だった。

「長田くん! どうして俺たちを襲ってくるんだ!」

「ここからが本番ですよ!」

 歴史上リアルに実現することのなかった恐竜とヒトのサバイバル。

「理后! とりあえず逃げましょ!」

 小飼の声を合図に、二人はいっせいに駆け始める。「若澤さん! もしよろしければ、そこで囮になってくれません?」

「それはいい考えだ。囮になろう」

 ひとりカッコつけてブツブツ呟いていた若澤だったが、Tレックスの顔が近づいてくるにつれて気が変わった。

「やっぱダメだ! 怖ぇ!」

 手近にあった石ころを拾い、それを恐竜に向かって投げた。当たり前だがまったく抵抗にすらならなかった。ちょっとかゆいなという程度だろうか。

 ネアンデルタール人は意外にも走るのが遅かった。これは致命的だった。心臓の鼓動が早い。ブレスレットのバイタルをチェックしたら、血圧の上が百三十、下が八十を超えていた。脈に至っては百を越えている。警告アラームが鳴った。これ以上は健康上危険だということだろうか。

 苦肉の策として三人は散り散りに逃げた。データによるとこのヒト属のパラメーターには、チンパンジーを優位に越す賢さがあった。

 散り散りに逃げたら、Tレックスも狙いが定まらないだろうと思ったのだが、相手は知恵を持った長田と道原と宇部という最強の侵入種インベーダー現生人類ホモサピエンスどもである。

「佑介を狙え!」

 道原の嫌がらせというか、むしろ彼女なりの好意によってTレックスは若澤に狙いを定めた。

 Tレックスのパラメーターはというと、意外にも賢さの数値が高かった。賢さが高いということは、アクションを取れる幅が広いということだ。

 若澤は人類が第一歩を踏み出したと言われるサバンナをひたすら駆けた。

 散り散りになった二人が横からTレックスに石つぶてを投げてフォローしてくれるが、硬いウロコと羽毛に守られているためか、攻撃力オフェンス防御力ディフェンスの数値ともに異常に高い。石つぶてではなく、崖の上から巨大な岩を落とすくらいじゃないと効果はないだろう。

 若澤は素早くマップを呼び出した。大地溝帯グレートリフトバレーがあった。

 大地溝帯とはアフリカを南北に縦断する想像を絶するほどの巨大な谷で、いつか若澤も生で見に行ってみたいと思っていたスケールの大きな絶景ポイントだ。

「大地溝帯へ行こう! ここから近いみたいだ!」

 データ上からネアンデルタール人の身体能力を十分に生かすため提案したのは、Tレックスの身体によじ登って牙から遠ざかるというアクション映画っぽいやり方だった。

 通信システムで二人と連絡し合い、軽く打ち合わせをした。

 まずは、Tレックスが若澤と大西を追いかけているあいだ小飼が急に方向転換をしてジャンプ。

 実際にやってみるとデータ通り屈強なネアンデルタール人は身体能力が高かった。図鑑チュートリアルによれば、当時の現生人類よりも大型であったと言われており、トラのように待ち伏せ型のハンターだったという。

 小飼はしかし、羽毛につかまりなんとかよじ登ったものの飛びつく場所が首に近い辺りだったので、邪魔者が取りついたことに気づいたTレックスは首を激しく振り小飼を落とした。小飼は地面に激しく叩きつけられ、悲鳴をあげることなくその場にうずくまった。

 敵討ちとばかりに大西が手にしていた槍を遠くから投げた。が、届かなかった。へにゃへにゃ…とTレックスの手前の地面に落ちた。

 その様子を、Tレックスは今にも笑い出しそうな顔で見下ろしていた。今が襲うチャンスのはずなのに。

「アイツら、ちくしょう。バカにしやがって」

 調べたところ、ネアンデルタール人は屈強な体格を生かし、おもに近接戦闘で獲物をヤリで突き刺す狩りをしていたらしい。そのためか命を落とすことも少なくなかったそうだ。投げやりで獲物をしとめていたのは、現生人類らしい。

「大西さん! 槍は投げちゃだめだ。使うことがあったら、突き刺した方がいい!」

「この硬いウロコをどうやって! やるんですかッ」

「背中だ! 背骨に取りつこう!」

 若澤が見本を見せると言わんばかりに方向転換をすると小飼と同じように跳躍して今度は背骨に生えた羽毛に取りついた。今度は振り落とされなかった。小飼を助け起こした大西とその小飼も次々とジャンプして羽毛に取りつく。

 目標を失ったTレックスは走るのをやめキョロキョロと辺りを見渡した。さすがにこの巨体を転がして落とす気にはならないようだ。

「よし! やるぞ!」

 タイミングを合わせていっせいに三人で首元に槍を突き刺した。硬いが首ならなんとかなりそうだ。噴き出す鮮血。きっとTレックスの中にいる二人には警告のアラーム音が響いているだろう。もっと焦ればいい。

「この調子でしばらく続けよう!」

「佑介! それで助かったと思うなよ!」

 道原はだいぶ熱くなっていた。もともとゲームをやると自分が勝つまでぜったいにやめないタチの悪い負けず嫌いだった。

「長田! そこにアカシアの木があるだろう。枝に体をこすりつけろ!」

 すぐに意味を察したのか、Tレックスはアカシアの枝に背中をこすりつけた。

「イテッ!」

「そりゃねぇーだろ!」

「ひっどーい!」

 三人はアカシアの枝のトゲに刺されて地面に転がり落ちた。

「…バーチャルなのに、イタいって感じるの怖ぇな」

 呟いた若澤の眼前にTレックスの恐ろしげな顔が迫ってくる。幼獣だったらワニみたいに多少はカワイイのだろうけど、成獣のあの縦に走る針みたいな目だけは本能的に好きになれなかった。

 すぐに襲ってこないのは、ふざけているのだろう。

「甘く見んなッ」

 ムカッとした若澤は砂を握りしめるとそれを振りかけた。襲いもせずに無防備に顔を近づけたからだ。さぞかし意外な一撃になっただろう。もたついているあいだに、三人は逃走を再開して大地溝帯をめざした。マップではまだもう少し先だった。

 砂かけの時間稼ぎは十分ではなかった。後ろを振り返るとTレックスがふたたび駆け出している。

「めっちゃこえー」

 昔、こういう映画があった気がした。

 途中、のんきに草を食んでいるデフォルトのノウマの集団を見つけてそのうちの一頭に飛び乗った。小飼、大西もそれに続いた。

 グンッとスピードアップした。もちろんサラブレッドには及ばないだろうが。

 ところが、それにも増してストライドの長いTレックスの足の速さときたら、マップを移動するポインタの速さが尋常ではなかった。

 大地溝帯が目前まで迫ると若澤はノウマから飛び降りた。ノウマは止まることができず非情にも崖の下へと落下していった。同じように小飼と大西も飛び降りた。

 三人でTレックスを取り囲み、槍を構えながらすきをうかがった。すきが見当たらない。体高がありすぎる。獣脚類というだけあって殺人的な鋭いかぎ爪もある。近づきすぎるのも危険だろう。取り囲んでいても心の余裕が生まれなかった。

 崖の近くにいる若澤はちらりと下を見た。使い古されたやり方だが今はこれしか思いつかなかった。

「キミたち、なにか方法はあるかい?」

「たぶん、若澤さんや一木かずきの考えていることと同じだと思います」

 大西が崖の方へ徐々に後退してゆく。

「じゃ、それで行こうぜ」

 若澤は地面に落ちていた石を手に取るとTレックスの顔に投げつけて挑発した。

「佑介。あんたたちがやろうとしていることが私にわからないと思って?」道原が逆に挑発してくる。「そろそろ決着をつけようじゃないの」

 気がつくとTレックスの周りには若澤、小飼、大西とは違うヒト属がどこからともなく集まっていた。別のプレイヤーだろうか。Tレックスを倒すというアトラクションにおける共通の目的でもあるのかもしれない。

 彼らはどこから集めたのか、それとも作ったのか、手にそれぞれ石器ではなく鉄器を携えていた。鉄器ということは現生人類ホモサピエンスなのか。

 彼らはそれをTレックスに向かって投げつけた。その一部は硬いウロコに突き刺さった。一部は、弾かれて地面に落ちた。

 若澤は地面に落ちた鉄器を拾うとTレックスの背にふたたび飛び乗り、目に突き立てた。若澤は崖の側に飛び降りる。

「佑介ぇぇぇぇ! よくもやったわねぇぇぇぇ!」

 道原は頭に血が上ったようだ。リアルでもないのに、自分の片目を抑えて怒り心頭に達しているすがたが目に浮かぶようだ。

「おねえちゃんダメだ!」

 長田が諌めるもののすでに彼女に声は届かなかった。

 Tレックスは崖スレスレにいる若澤に襲いかかった。

 若澤にはもはやネアンデルタール人そのものの魂が降りてきたと言っても過言ではなかった。

「俺たちにはたとえ滅びるとしても危険をおかしてでもやらなくちゃいけない度胸があるんだァァァァ! ネアンデルタール人ッ! アナタたちとはきっと友達になれたッ!」

 若澤は雄叫びをあげタイミングを見計らうと崖に降りた。もちろん崖の突端にあるちょっとした岩のヘリを手でつかまりぶら下がった。

 その彼の上を、Tレックスが駆け出したまま大地溝帯に落ちていった。マヌケな構図ではあった。

「やったぜ!」

 安堵したのもつかの間、崖の一部が崩れ落ちた。Tレックスの重さに耐えられなかったのだろうか。あの体重を支えられるほど頑丈な地面であることにまで考えが及ばなかった自分のミスだった。彼もまた落下していった。

 大地溝帯が逆さまに見える。この絶景を見られただけで落下する価値があるものだった。

 ゲームオーバーと無情にも音声が告げる。



最終話 閉園時間



「子供だましかと思ったけどなかなか面白かったわね」

 レストハウスで道原東湖はウィンナココアの生クリームをスプーンをいじりながらニコニコ笑っている。

「俺は絶滅動物ってあんなにいたのかってことに驚いた」

「あれはあくまで哺乳類だけに限った話でしょう? 鳥類とか魚類、昆虫とか爬虫類、両生類やバクテリアにまで範囲を広げたらもっと絶滅しているんじゃかしら」

 ちらりと横目にした彼女の視線の先には、『こちら鳥類ブース』と案内があった。

「これからもまだまだ絶滅する種は増えていくんだろうな」

「ねぇ、佑二。昔さ、ある学者がいろんなデータからシミュレーションして、人間が絶滅する可能性のある年数を割り出したんだけど、何年くらい先かわかる?」

「わからん。五千万年くらいか? 恐竜より長く繁栄するのは難しそうだってことはなんとなくわかるけど、その頃には別の進化を遂げているかもしれないし、がんばれば一億年くらいは行けそうだけど。まぁ、想像もできない未来だよな」

「七百万年」道原はスプーンを抜いて指揮棒を振るように言った。

「七百万年? たったそれだけの年数で人類は滅びるのか?」

「七百万年とはいえ、途方もない未来の話だけどね」

「どういう理由で滅びるんだ?」

「さぁ。そこまでは知らないわ」

「じゃあ、現生人類が誕生してから、ほとんどなにも変わらない年数で絶滅しちまう可能性があるってことか」

「昔、人類の社会では、三つの産業革命があったって言われているのはもちろん知っているわよね?」

「もちろんだ。高校までの常識だろう。第一は、稲作だ。稲作を始めたことで人類は食料を蓄え、命を落とす危険のある冬を乗り越え、危険な狩猟をしなくても生きていけるようになった。第二は、産業革命だ。石炭をエネルギーにして物を大量生産できるようになり、人々の暮らしは格段に豊かで便利になった。第三は、情報革命だ。インターネットの世界的普及と第一世代のスマホ、機械学習の発達。ビッグデータ。いちばん大きいのは、AIの発達で人類が働かなくも暮らしができるベーシックインカムが広がったってことと、ほとんどすべての国が電子国家になった、ってことだよな?」

「そうね。そこは大きいわよね。それからもう一回きくけどレッドリストの評価基準には、どういう区分があるかわかる?」

「待ってくれ。いま思い出す…。なんか昔、総合学習の授業でやったな。まず上から『絶滅』だろ。えっと、それから、『野生絶滅』それから、『絶滅危惧』、えっと次は、『絶滅寸前』、次に『絶滅危機』あとは、なんだっけ? 次にくるのは……」

 道原はカップの底に残ったココアのカタマリをスプーンで集めるとカップに口をつけて吸い取った。

「ズズズズズズズ、次にくるのは、『危急』」

「そうだった! だいぶゴールが近づいてきたな。危急の次だから、『低リスク』だ。で、次は『準絶滅危惧』ときて、さいごにくるのは『低懸念』だったか。けっこう難しいなあ」

「そう。ちょっと抜けてはいるけどだいたいその通り。昔ね、情報革命があった頃には、現生人類の絶滅可能性は、『低懸念』だったの。当分、絶滅する危険は少ないっていうね。で、今はどれくらいかわかる?」

「いや、今も低懸念なんじゃないの?」

「甘い。今の人類の絶滅リスクは、『危急』よ」



                                    (了)

読了していただき、ありがとうございました。

貴重なお時間のムダになりませんでしたか?

そうではないことを願いますが、こればっかりはどうでしょうね。

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