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人間嫌いの池上君  作者: 阿来かと
2/2

そんなわけで池上昴は久しぶりに高校に行く。

※※※

5月の、爽やかな風が吹くある日。

そんな天気とは反対に、池上昴は暗鬱な気分で、朝倉私立高等学園の門をくぐった。




………学校に行きたくない。




本当なら、家でラノベや漫画を読んだりゲームしたり、……そういう、いつもと変わらない穏やかな日常を過ごす予定だったのだ。



…しかし、妹の星架がこの時期には珍しいインフルエンザを患い、一週間ほど家で休養を取ることになった。



ちなみに星架は3つ年下の、現在中2になる垢抜けた感じの美少女。


キラキラした感じの華やかなオーラを身にまとい、元々は黒だった髪をライトブラウンに染めている。

一つのクラスで例えると、運動神経が良いイケメンやら超可愛い女の子やらが集まっているグループがあるだろう。

我が妹の星架は、その中にいるようなタイプの、俺とは真逆の生物だった。

そういえば、クラスで最もキラキラしたグループの中にはかならずうるさいチビがいたように思える。


それで、朝の九時ごろ起き、ぼうっとしながら顔を洗って歯磨きをして、そしてリビングに出ると、ソファに座ったピンクの毛布を巻いたもこもこしている何かが、幼女系のアニメ映画を見ていた。



「…星架…?」

不安げに尋ねる。

何年か前、夕食中に幼女系のアニメを見ていると、星架が珍しくアニメに熱中していたのを思い出した。


これでもし正体が親父だったなら、これからの接し方が分からなくなるところだった。


「…ふぁ………?」


正体はやはり星架だったのだが、頬が赤く染まり、妙に潤んだ瞳が俺を見上げる。


「せっ……星架…!?大丈夫か!?」


慌てて駆け寄るが、星架は優しく、蕩けそうな笑顔で微笑んだ。


「あー…うん、大丈夫。インフルエンザだって…。ちょっと休めば治ると思う…」

「そうか…なら良かった…」


安堵して立ち去ろうとすると、「待って」と弱々しい声が響いた。


「何でお兄ちゃん、こんな時間に家にいるの?」


ピタ、と俺の足が歩くのを止める。




中学生の星架は、中学校に行くのにバスを使っての登校であるため、家を出るのが7時くらいになる。

だから、俺よりも早く家を出ることになるのだ。

だから、兄が高校に行っていない事実を知らなかったのだろう。




無言で逃げる手段もアリだと思ったが、星架に睨まれながら「何でさっき逃げたの?」と聞かれるほうがよっぽど恐ろしい。


正直に答えるしかないと分かった。


「最近…っていうか、…去年からそんなに学校行ってなくてさ…」


星架は真面目な顔で俺を見た。


「…。…お兄ちゃんさ、去年と今年まででどのくらい行ってなかったの?」

「…ほぼ毎日」


「……。今年は行った?」

「……いいえ」


何だこれ、どっかの国の拷問みたいなんだが…。


「今年の6月にさ、お兄ちゃん、テスト控えてるよね?」

「ああ」


学年始めに、必ずあるテストだ。

去年習った単元の問題も出るし、今は高2だから内申にも若干響くらしい。


「…今、結構重要なときだと思うんだ。まだ新しいクラスになったばっかりだし、馴染める可能性がある。これから授業の内容についていけるか分かんないし、……」




「だから、今日だけ、学校に行くだけやってきて」




「絶対教室に入れとは言わないし、…まあ、できれば入って欲しいんだけど、できなかったら帰ってきても大丈夫!だけど、今日だけでいいからできるとこまでやってきてほしいんだ…。…………ダメ、かな?」



これがただの美少女だったら、俺は「無理。嫌だ」と即座に却下していただろう。



しかし、妹である。



却下できるわけもあるまい。



※※※


そんなわけで、今廊下を歩いている。


…………、やっぱ、教室は無理だ。

ハードルが高すぎる。


断腸の思いで断念し、俺は『相談室』の扉を開いた。


ここは、不登校の生徒や引きこもりがちな内向的な生徒だったりが授業中に勉強できる部屋だ。


教室から隔離された、自由な空間。


まあどうせ誰もいないだろうし、自由にできるだろう。


そんな感じで気軽に中を見回すと、




忘れるわけもない。

去年、俺と同じクラスだったやつがいた。




名前は桜庭天夢。




去年のクラスで最も華やかなグループに属していた美少女だった。




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