極論男・10
俺は飲んでから車を運転している。
悪い事をしてるつもりはない。ってか悪くない。でも警察に見付かったら面倒だな。
俺は祖父母の家で宴会があり、自宅に帰る途中だ。
広い道を通って帰ろう。細い道はどこで検問をやってるか判らない。
…………やっぱ近道するか。俺は自宅までの道のりで遠回りする国道から信号機のない旧道に入る。
高速道路の脇道だから検問はないだろう。
ピピピ! いきなり制服の警察官が道路に飛び出してきた。こんな所で検問をやってる!? アパートの前だぞ。
俺は車を道の左端に停めて、ウィンドウを開ける。
「どうも、飲酒運転の検問中で」
「そうですか」
「あれ〜? お兄さん、なんだか酒臭いね〜。どれくらい飲んだの?」
「決めつけるな。酒は飲んでねえよ」
「だって〜、酒臭いよ〜。いい車で事故を起こしてもつまらんだろ〜」
警察官は自分の勘を盲信している。
「だから酒は飲んでねえよ」
「降りてきて、免許証を見せて〜」
俺は財布から免許証を取り出して提示する。
「ゴールド免許だぞ。参ったか」
「今まで、たまたま事故を起こさなかっただけだよ」
この警察官の妄想では俺は飲酒運転の常習犯までランクアップしたな。
「お巡りさん、1人か?」
警察官は俺の車のBピラーを掴む。手垢を付けるな雑魚。
「逃がさないよ〜。アパートの駐車場にパトカーがあるからね。パトカーの後部座席まで来て、検査するから」
「はいはい、分かった分かった」
「随分と簡単に罪を認めるんだな。普通はごねるのに。車内でごねるタイプか」
俺は車を降りて、パトカーの後部座席に押し入られる。半ば強引に。
パトカーの中に警察官は運転席と後部座席に1人、楽勝だな。
「うわっ! 酒くさっ! 相当飲んで運転したね?」
「このストローでビニール袋に息を吐いてパンパンにしてね〜」
俺は言われた通り、検査器に息を入れた。
警察官は検査器のメモリを見ている。
「えっ!? どういう事? お兄さん、ちゃんと息を吐いた〜?」
「見てたろ? 何か問題でもある?」
「アルコール呼気0.00パーセント…………」
「もう一度やれ。絶対飲んでる」
「ナードだな、何度やっても結果は同じだ」
その通り、検査を3回やったが結果はシロだった。
「何で? えっ? 何で?」
警察官が混乱するのも無理はない。
「最近のノンアルコールビールは香りが良いね」
「ノンアルコールビールだと!?」
「もう行っていいかな?」
「タクシー代行を呼んで下さい」
「はぁ!? ノンアルコールだぞ。理解してる?」
「しっ……しかし…………」
警察官は振り上げた拳のやり場に困り、ネチネチとした方法で消化したいのだろう。
俺は片手を出す。
「タクシー代行の代金を先払いで貰おうか。あと俺の車はロータス・エキシージ、日本限定20台のハイプライスだからね。本当に事故を起こして修理代だなんてなったら大変だよ? 片手はする」
「片手……50万ですか?」
「500万だ、アホ」
――今日も平和な1日が過ぎていく――