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紺碧の瞳:sideアシード


みはるの部屋を出たアシードは、騎士達に部屋の護衛を頼むと、廊下を歩きつつ、みはるについて考える。


(おやすみなさい、か。)


ありふれた言葉。

当たり前の挨拶。


(…私は、彼女に対して酷い態度をとってしまったのに、さっきの言葉をくれた。)


初対面で、自分はみはるに対して警戒心が先に立ってしまった。

他の世界から来た相手なのだ。

悪人か善人かわからないのだから、警戒をしない方がおかしい。

みはるも、自分が警戒されていた事については、それが普通だと考えているようだ。


客観的に見て、アシードも正しい対応だったとわかっている。

たが、


(私達の事情で呼んでおきながら、あんなにも殺気立って出迎えるなど、もってのほかでした。)


みはるは察しも良く、優しい性格をしていたから、結果的にお互いの関係が険悪にならなかっただけだ。


(もし、召喚されたのがミハルでなかったら。)


先程の穏やかな笑顔と言葉を向けられる事はまずなかった。

アシードは小さくため息をつくと、みはるの泣いた姿を思い出した。

みはるが泣いた時には動揺し、どうすれば良いのか自分にはわからなかった。


しかし、自分で持ち直した彼女は、


「これからよろしくお願いします。」


と笑顔で言ってくれた。


その後、食堂での晩餐をしてからの他の6人の紹介になった。


(多少の違いはあれ、マナーそのものに問題点はありませんでしたね。)


多少の違いは、こちらの世界との文化の差だろう。

それも誤差の範囲内。

これなら、テーブルマナーに関しては多少後回しにして、他の勉強を優先しても大丈夫だと算段する。


(まずは、文字の読み書き。

公用語から入り、各国の言葉については…その時のミハルの様子を見て、決めるとして。

歴史の授業も、大陸史からで、後は…。

…やめておきましょうか、今から先の事まで考えるのは。)


みはるの授業内容については担当教師に一任して、定期的に報告を聞くのが良い。

彼女からの申し入れがなくても、遅かれ早かれ教師はつけるつもりだったので、何人かの候補は既に上がっていた。


(彼女の性格は、大体わかったので相性の良い者を選びましょう。

…彼女には、この先もこちらの都合で困らせる事が多いのだから、せめて、笑顔でいてもらえるよう苦心しないと。)


心に浮かぶのは、泣いた後に見せた、あの笑顔。


(…しかし、彼女にとって私達の容姿はあまり魅力的ではないのかもしれません。)


初めて会った時から感じていたが、彼女は一度も自分達の容姿に見惚れていなかった。

自分達を見て、容姿の良さに驚いてはいたものの、見惚れたりといった様子は全く無かった。

美しい、かっこいい、という事は感じていても、それが恋愛感情に結び付く様子は見受けられなかった。


アシードはそんなみはるの様子に一瞬、


(世界が変われば美醜の基準が変わるのか?)


と考えもしたが、みはると話していて違うとわかった。

仮に美醜の基準が違っていようが、いまいが、みはるにとって重要なのは見た目よりも中身。

この先、付き合っていく人物をただ見た目のみで判断するのは確かに早計というもの。

それならば、容姿に惑わされず相手の性格を見極めようとする彼女の判断は正しい。

……要するに、容姿や身分に関係なく、みはるは自分達一人一人と向き合っていくつもりだということである。


(それならそれで構いませんが。)


アシードは自身の容姿がみはるに通じなかった事が何故なのか、ショックだった。





みはるを見て、最初に思ったのは、「普通の女の子。」

腰まである真っ直ぐの黒髪に茶色い瞳。

顔立ちは平凡そのものだったが、穏やかな性格が影響しているからか、優しげで。

特に、はにかんだ笑顔が可愛いと、そう思った。


(可愛い、か。)


背は小柄だが、胸は大きく、スタイルも悪くはなさそうだった。

それに、頭も悪くないだろう。


(私が告げなかった言葉の裏も、読んでいるようでした。)


彼女には、この世界が抱える問題として、女性が圧倒的に少ないことを告げた。

そして、自分達の子供を産んでほしいと伝えたが、こちらからは一言も妻になってほしいとは言っていない。

それは、みはるが妻となった場合、彼女の存在が邪魔になって暗殺される危険性もあるからだ。

それだけ聞けば彼女の事を第一に考えているように思うだろう。


(…彼女が子供に及ぼす影響がどう転ぶのかわからない。

だから、ミハルを王族の妻にさせるわけにはいかない。

また、彼女は結局部外者であり、身分そのものからして王族との釣り合いが取れていない。

…そんな考えがあるから、彼女を妻にするわけにはいかない。)


こちらの事情ばかり押し付けている。

みはるが子供を産み、会いたいと望めば少しくらいなら会っても構わない。

しかし、それは一ヶ月に一日、あるか無いかだ。


みはるを子供を産む母親にすることは出来ても、子供を育てる母親には出来ない。

彼女を自分達の庇護下に置いて、あまり不自由の無い生活を保証する事は出来るが、行動をかなり制限してしまう。


みはるは自分に求められているのは、子供を産む役割だとよくわかっている。

だからあの時、自分の産んだ子供を愛してくれるのかと確認したんだろう。


(…恐らく、私が貴女も妻として愛します、と言わなかった事で彼女なりに自分の役割を確信したのかもしれません。)


色々と裏の事情を察しても文句を言わないみはるは、何を考えているのか、とアシードは気になった。


(…彼女に快適な生活を送ってもらい、私達の事を好きになってもらう。

その上で、子供を産んでもらう。)


今後の指標を心の中で反芻する。


(好きになってもらう…。)


今現在のみはるの中にある自分達への好感度は、悪くはないと、思う。


(…そう、悪くはない。)


だが、良いとは言えない曖昧な状態なのだ。

というよりも。

セルツ、ベリル、ルゼオ。

この3人の印象は隣で見ていても凄く悪かった。

それにも関わらずみはるの自分達への印象が悪くはない、というのは正直不思議だったが。


(普通の女性ならば、あんな接し方をされたら距離を置くなりするはずです。)


みはるは心が広いのか。

はたまた、セルツ達の言動に呆れて何も言えないだけか。

どっちみち情けない事には変わりない。


(……ほんの数時間一緒にいただけで、短絡的に相手を評価するのが嫌なだけかもしれません。)


是非ともそうであってほしい。

みはるの性格に助けられたが、このままではいけないのも事実。


(本当にセルツが初対面の女性相手に、あんなことを言うとは…。

普段は常識を持ちあわせているのに。)


みはるも半泣きになっていた。

確かに、彼女は胸が、何と言うか…。


みはるの体を思い出しそうになると、アシードは顔が赤くなり、慌ててその事を頭から追い出した。

何だか気恥ずかしくて、みはるに対してそんな不埒な事を考えてはいけない気がしたのだ。

しかし、どうして考えてはいけないのかはアシードにもわからなかった。

みはると自分達は最終的にそういった関係になるのだから、今更だと、若干冷静な自分が呟いた。


(今はそんな事を考えている場合でもありません。

……セルツもまた明日、きちんとミハルに謝罪するでしょう。)


その時に、みはるの中にあるセルツへの印象が良いものになればそれで良いのだ。


(ベリルは、何故あそこまで彼女に敵意を向けていたのかは不明ですが。)


みはるの何が気に入らないのだろうか。


(ルゼオもルゼオで……。)


みはるが利用できるのか、その事にしか興味がないようだった。

ルゼオは、例え相手が誰でも自国の利益に繋がるのか、それしか考えないだろう。

次期王として、その考えは普通だ。

アシードもみはるから得られる利益について考えているのだから。

だからと言って、あそこまであからさまにする必要はない。


(ミハルは察しが良いから、ルゼオの考えている事はわかっていたでしょうね。

少し身構えていましたから。)


とは言え、明日からだ。

明日からみはると自分達の時間を沢山取って距離が縮まれば良い。


(もっと、あの笑顔が見たい。)


思い出すだけで、心が暖かくなった。




(さて、明日からの事を考えなければね。)


アシードは先程の食堂とは違う部屋へ入る。


「失礼します。」

「お、アシード王子。」

「嬢ちゃんは寝たんか?」

「ミハルは湯浴みした後、眠るでしょう。」


アシードが入ったのはソファーと暖炉がある談話室だ。

全体的にゆったりとした雰囲気で、今はローグリオが一人掛けのソファーに座り、クレイストは壁にもたれている。

ルゼオは本を読み、アンヴェルは暖炉の前に陣取っている。


アシード達はまだ眠るわけにはいかない。

早急に明日からのみはるの予定を決めなくてはならない。


「明日からの予定やけど、どう考えとるんや?」

「まず、この世界の一般的な知識と文字の読み書きを、と考えています。」


アンヴェルの向かい側に座り、大体の予定を伝えた。


「妥当やな。」

「僕も、それで良いと思うよ。」

「文字の読み書きが出来ないと、今後不便だしな。」

「私も構わない。」

「ありがとうございます。

それで、明日からミハルと親交を深めていきますが、何方からいかれますか?」


アシードの言葉に、しばし沈黙。

別段、みはると交流することを嫌がっているのではない。

全員、様々な思惑を持っているが、みはると交流する事も大切だとわかっているからだ。

そう。

この沈黙は一番最初に誰がみはると一対一で話すのが適任なのかを考えていたからだ。


「……印象が一番良いのはアシード王子、一番悪いのは、セルツか。」

「そうだな。

ベリルも悪かったが、ルゼオの言葉で多少は良い方に傾いているからな。」

「クレイスト殿もそう思われますか……。」


ローグリオ、クレイストの言葉に頷き、アシードは自分が明日、みはると会うべきかと考える。


(……私としては、セルツが会う方が良いと思うのですが。)


セルツなら、明日起きた途端、自己嫌悪で一杯になるだろう。

それを引き摺るのは本人にとっても、周りにとっても良くない。

ならば、みはるに会って、セルツが直接改めて謝罪をして、親交を深めた方が良い。


(けれど、ミハルの立場からすると嫌でしょう。)


みはるは恐らく、セルツに会うのを嫌がっている、というよりも気まずいと思っているのではないか。


(どんな顔をして会えば良いのかわからない、という所でしょうか。)


何となく、だが。

みはるの気持ちを第一に考えると、自分が行く方が色々と都合が良い。

個人的にも、みはると言葉を交わすのはとても楽しみだ。


(いえ!

私情を交えるなど、言語道断です。)


アシードは真面目な性分なので、みはると会えると思い、喜んでしまう自分を抑えた。


「俺は、セルツと会わせた方がえぇと思う。」

「僕も。」

「何故だ?

正直、俺達への印象を良くしておくには、アシード王子が一番適任だろ。」

「セルツがミハルときちんと言葉を交わしてないからさ。」

「?」


ルゼオの言葉に、ローグリオは首を傾げた。


「セルツは良くも悪くも色恋に興味なんて無い。

でも、そのままにしておいたらこの先ダメだろう?」

「…………ミハルへの興味を持たせようという魂胆か。」

「魂胆なんて酷い言い方をするね、ローグリオ王子は。」


笑うルゼオに、肩を竦めたアンヴェルが口を開く。


「まぁ、とにかく。

最悪、セルツがまた失敗したら次の日に別の人間をあてたらえぇんとちゃうか。」

「このままセルツと会わせるのを後回しにするとお互い気まずいものを抱えたままになるしね。」

(本当にそう思っているのか、ルゼオ殿は…。)


ルゼオの本音かどうかは不明だが、その意見に一理あると賛成するアシードとクレイスト。


(ミハルがセルツと明日会った時、どんな反応をするのか、それで彼女の性格を見極めようという目的ですね。)


みはるの知らない所で、明日会うのはセルツと決定。


(今から不安になってくるのは気のせいでしょうか…。)


杞憂であれば良いが。

アシードはこっそりため息を吐いた。

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