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赤い皇子と大陸最高の冒険者


アンヴェルの正面にいるのは、癖っ毛の短い赤い髪と赤い目の、みはると同い年くらいの男の子だった。


(目がすごくキラキラしてる。)


みはるを珍しい動物でも見るように、好奇心丸出しの目で見ていた。

甘めな顔立ちの少年で、かわいい男の子だ。

女の子みたいにかわいい、と言うよりも男なのに、何だかかわいいと言われそうなタイプ。


「俺はローグリオ・ディナルマイン、ディナルマイン帝国の第一王子だ。」

「よろしくお願いします。」


みはるが頭を下げると、ローグリオはムゥ、と眉を寄せた。

何が不満なのか、と首を傾げるみはる。


「俺は15だ。」

「?はい。

(…私よりも年下だったんだ。)」

「そっちが年上なのだから、俺に敬語を使う必要はないだろう。」


みはるに敬語を使われた事が不満だったらしい。

しかし、初対面で、自分より身分の高い相手に「敬語を使わない」、という選択肢を持てる人間はいないと思う。


「ローグリオ様は私より、身分が高いですし、敬語を使うのは普通ではないでしょうか?」

「ミハルは、俺の子供を産んでくれるだろう?」

「!?」


いきなり言われた言葉に、みはるは固まった。


「…お前は馬鹿か。」


ローグリオの左に座っていたオレンジの髪の青年が、呆れた顔をした。

何だか体から疲れを滲ませている青年だった。


「?………………!いや、違うんだ!」

「は、はい!」


暫く首を傾げていたローグリオは、数秒経ってから赤い髪と目に負けないくらいに顔を真っ赤にした。

つられてみはるも顔が赤くなった。


「い、いや、子供を産んでほしいんだけどな!

今すぐに、とかじゃないからな!

もっと言うと、俺がもう少し身長が伸びてからの方が良いんだけど…。」

「ちょっと落ち着こうや。」


正面のアンヴェルがそう言うも、ローグリオは聞こえてないのか口をぱくぱくと開いたり閉じたりを繰り返していた。


「すみません、ミハル…。」

「いえ…。」


謝罪したアシードの顔も赤かった。


(何か、恥ずかしい。)


確かに、ゆくゆくは彼らの子供を産むのだから、そういった事をするのだ。


(で、でも、私、まだ16だよ。

せめてもう少し待ってほしいし。

…その前にアシード様達のことを好きになるのが大前提なんだけどね!?)


今更と言えば今更だ。

だが、みはるは子供の事を第一に考えて頭を動かしていたこともあり、そこまで考えが及ばなかった。

で。

ローグリオの言葉で、思いっきり色々と意識したというか、目が覚めたというか…。


(顔が熱い…。)

「と、とにかくだな!

…子供を産んでくれるのはミハルなのだから、身分を気にしないでほしいということなんだ。

その、これから…仲良くなっていく中でずっと敬語を使われていたら落ち着かないしな。

だから、敬語は使わなくて良い。」

「…えと、努力します。」

「うん。」


初々しい雰囲気の二人に対し、ローグリオの隣にいるオレンジの髪の青年は、疲れきった顔をして口を開いた。


「悪いが、さっさと進めるぞ。」

「あ、はい。」

「すまない、セルツ殿。」

「…セルツ・リプコット、冒険者、18歳だ。」


オレンジの髪と黒い目の青年は、凛々しい顔立ちをしている。

…しているが、体から滲み出る「疲れてます」オーラの方がみはるは気になった。


(こういう場所が嫌いなの…?)


初めてセルツを見た時は今と違い鋭い目付きをして、身に纏う空気が物騒で。

クレイストと同じく、全く目が笑ってなかった人だ。


(…セルツ様はアシード様達に何かあった場合、私を殺すつもりだったのかな?)


みはるがアシード達に敵意や害意を少しだけでも向けていたら、殺しはしなくてもみはるの腕の骨を折る程度は容赦なくやってのける目をしていた。

あの場には沢山の護衛がいたが、セルツがみはるの動きを封じた時点でアシード達を他の部屋に誘導する役目が主だったのだろう。


(セルツ様はそれだけ強くて、信頼されてる人。

私、本当に無傷で良かったー…。

だからって、この先も無事でいられる保証は…。)


保証は無い。

無い、が。

自分を見ているセルツは初対面の時と違い、電池が切れている状態というか。

応接室での話しが終わった時点から、みはるへの警戒レベルが最高から一気にマイナスまで下降しているとしか思えない。

自分を無害な小動物と判断し、一気に関心が無くなった?

とまで思い至ったみはるは、


(あれ…?

喜ぶべきなのに、何か切ない…。)


微妙に傷付いた。

どうしてなのか傷付いた。

馬鹿にされてるわけじゃないから、ここは安心しておこう、と自分に言い聞かせる。


一方のセルツは半目を開けてみはるを数秒見つめた後、


「その胸、重そうだな。」


などと、失礼極まりない発言をして、食堂の空気を凍らせた。


「「「セルツ!」」」


アシード、ローグリオと、セルツの左隣に座る紫の髪の青年が同時に怒鳴った。


「…あぁ、悪いな。声に出してたか。」


一瞬、キョトンとしたセルツだが、自分が何を言ったのか把握すると直ぐに謝罪した。


「私がミハルにあなたの事を説明しておくので、もう寝てて下さい。」

「誰かセルツを部屋に連れていってくれ。」

「畏まりました。

セルツ様、こちらへ。」

「わかった。…ミハル、悪かった。」

「えっと、はい…。」


ローグリオが近くの使用人に命じて、セルツを食堂から連れ出してもらう。

みはるはみはるで、いたたまれない気持ちになって俯いた。


(疲れ過ぎて、変な事を口走っただけよね?)


先程はローグリオの発言を嗜めていたし、自分の発言を謝ってくれたから、良識はあるはずなのだ。


(もう少し、胸が小さくても良いのに…。)


さっきも泣いたのに、今度は別の意味で泣きたくなった。


「あぁ、そうだ。」

「?」


扉の近くまで行ったセルツが呟いたので、みはるが顔を上げると。


「これからよろしく。」

「…よろしくお願いします。」


やっぱり良識はあったようで、失礼だが安心したみはる。





「本当に申し訳ありません、ミハル。」

「そんな、セルツ様も謝ってくれましたし、…何だかすごく疲れていたようですし。」

「ですが…、先程からミハルに私達は失礼な事ばかりしています。」


ローグリオの失言に続き、更にその上をいくセルツの発言。

アシードからすると、申し訳なくて仕方がないのだろう。

しかし、話が進まないし、アシードにこれ以上謝罪させ続けるのも嫌なみはるは、


「あの、セルツ様はどんな方なのですか?

あまりお話が出来なかったので。」


強引だが話を変えることにした。

アシードはそんなみはるからの気遣いに柔らかく笑った。


「そうですね、セルツ殿はティアラナ大陸最高と謳われる冒険者です。

実力も経験もあり、この大陸一、名が知られている冒険者。

護衛の任務、戦争、魔物の討伐が主ですが、人身売買組織の壊滅においてもセルツ殿が活躍してくれたおかげで、滞りなく行えました。」

「すごい…。」

「ですが…。」

「?」


素直に驚嘆するみはるに、アシードは渋い顔をした。


「…セルツ殿は強い相手との戦いが好きなんです。」

「……?」


アシードの言葉の意味がわからないみはるは首を傾げた。


「強い相手との戦いが極度に好きなんです。

その為、集団で危険な魔物が現れた場合でも討伐に自ら一人で赴き、気が済むまで戦うのが趣味なようで。」

「……あ、そういう…。」


アシードの言葉を要約し、みはるの推察を纏めると。

セルツは冒険者としては優秀で、頼りになる。

しかし、戦闘が好き過ぎて、集団で魔物が現れた時は相手が殲滅するまで戦う事を止めない戦闘狂。

周りの人間もその姿を見た時はさすがに引いて、冒険者の最高ランク:黒を剥奪すべしと話に出る程だった。


(…成る程…。

私をあれだけ鋭い目付きで見てたのは、アシード様達の護衛の仕事もあったけど。

……私が強い相手かもって期待してたのね。

なのに、私が雑魚で期待外れ過ぎて興味を失って。

こういう集まりが苦手なのと、私への期待外れのガッカリ感と疲れが積もりに積もって、あの発言が出た、と…。)

「セルツ殿は、普段は公式の場でも礼装で、立ち振舞いも完璧です。

ただ、彼はそういった事が苦手なようでして、本人も、冒険者として依頼をこなしている方が楽と言っていましたから。」


聞けば、セルツとアシード達は以前からの知り合いで、彼が疲れが頂点に達すると失言をする欠点があることも全員知っていた。

今日は特に疲れが溜まっている様子だったので、一旦休息を取らせて後日改めてみはるとセルツの顔合わせを行う予定だった。

ところが。


「異世界から来るのはどんな相手なのかを知りたいと、セルツが言い張って、今に至ります。」


セルツの戦闘狂としての本能が睡眠欲に勝ったというのがみはるの総評だ。

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