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一番大切なこと。



「貴方達は私が産んだ子供を愛してくれますか?」

「はい、勿論。愛情を持って厳しく躾ます。」


この世界の教育事情は不明だが、子供に愛情を持って接してくれるようだ。


「ここで嘘を言っても、貴女から信用されないので本当ですよ?」

「…はい。」


嘘をついても、後々バレたら厄介な事になるとは彼らもわかっているので、これは本心だろう。

へそを曲げられて、子供を産まないとか我が儘を言われたら面倒だと思っているのかもしれない。


(今の私にとって、一番大切な事はこの人達が私が産んだ子供を愛してくれる、っていう確信。)


自分の身の安全も大切だが、それよりも優先するのは、子供を愛してくれる人達であるのか、という一点。


(子供を大切に出来ない人は、嫌だ。)


地球のニュースには、子供に暴力を振るう親や大人がおこした事件は多い。

それを聞く度に、心が痛んで嫌な気持ちになるのは、みはるだけではないだろう。


「私が、一番気になっていたのはこの事だけです。

それで、そちらの事情とは、何でしょうか?」

「はい。

この世界は現在、女性の数が圧倒的に少ないのです。

その結果、一妻多夫制度が認められており、最低でも5人以上の男性と結婚することが求められます。」

「…大変そうですね。」

「大変です。」


ここは女性も男性も大変そうな世界だった。


…いや、一部の女性にとっては喜ばしい事なのかもしれない。俗に言う逆ハーレムだと。


それはともかく。

曰く、女性は男性よりも数が少なくなってしまった。女性が産まれる確率は、ほぼ10分の1の確率とのこと。

その兆候が始まったのは、かれこれ50年前から。


「10人に1人しか女の子が産まれない…?」

「えぇ。

その為、女性はかなり重宝されます。

産まれて直ぐに国に届けを出せば必ず護衛及び助成金の支給があります。」

「護衛を支給する、ということは、それだけ女の子は危険、ということですよね?」

「はい、特に小さな村で女子が産まれた場合、人拐いや盗賊が警戒されますので。」


当たり前だが、女性がいないと子供は産めない。

だからこそ、この世界の女性は特に大切に育てられ、守られる。

しかし、何処にでも悪事に手を染める輩は存在する。一番問題視されているのは、女性を拐い人身売買している組織だ。


「人身売買組織の中でも、特に大規模な組織については、各国の討伐隊で一月程前に戦闘を行い、頭目や黒幕も引きずり出し、組織そのものを潰す事が出来ました。

被害に遭った女性達への手厚い保護と支援も進められています。」

「…それでも、女の子が危ない目に遭うことは変わらない、と。」


各国が力を合わせて、一つの組織を潰した。それだけでも犯罪の抑止力にはなるはずなのに。

彼らの顔が険しくなっているのは、それだけ、女性が被害に遭う事件が未だに根絶出来ていないからだった。

けれど、この問題については逐一対応していくしか道は無い、とのことだった。



「さて、何故、異世界の貴女が召喚されたのか、という事なのですが。」

「はい。」

「此処にいる7人は、それぞれの国の王族及び冒険者です。」

「冒険者…?」


ファンタジー小説には冒険者が出てくる事も多いので職業について大体の事はわかるが、どうしてその冒険者の子供をみはるに産んでほしいということに繋がるのか。

疑問が顔に出ていたらしく、アシードは苦笑しつつ答えた。


「冒険者は命を懸けて、その国に利益をもたらしてくれます。

魔物の討伐や、商人達の護衛に始まり、戦争になった場合も、実力のある冒険者が一人いるだけで戦況も有利になりますからね。

また、国からの依頼で人身売買組織の調査や討伐にも加わります。

そうして実績を上げていくと、冒険者としてのランクも必然的に上がり、国民にも人気になります。」

「…はい。」


この先の展開が読めてきたみはるは、目の前の彼らに同情していた。


「…そうなると、縁談が多数舞い込みます。

無論、王族であり、国益の為に働く私達にも縁談がきます。」

「その縁談に困っている、ということですか?」

「はい。…いえ、王族も、優秀な冒険者も、次代に子供を残す重要性は皆承知しています。

けれど、女性が少ないこの情勢下で、私達ばかりに縁談が来るのは拙い。切実に。」


10人に1人しか女の子が産まれない。

残りの9人は男性。


「えぇ、100人の場合、90人が男性。10人が女性。

当然ながら、男性達も女性と結婚したいと考えています。」

「でも、女性達からすると、王族や優秀な冒険者と結婚する方が良い、と?」

「その方が将来的に安定していますし、身分を超えての恋愛や結婚に夢を抱いている女性も多い。」


その夢を抱く女性が多すぎた、ということだろうか。


(…何処の世界でも身分差の恋愛に夢を抱く人って多いんだ。)


地球の恋愛小説も映画もドラマも、身分差の恋愛を題材にしてヒットしている物は少なくない。

この世界では貴族の女性も少ないので、自分達平民にもチャンスがあるかも…、等と考えている人が多いようで。


一方の男性達としては、縁談が集中している人気の男共にはさっさと結婚して、自分達に女性達の目を向けさせたい。


「けれど、それぞれの国内から1人の女性だけを選ぼうものなら、我も我もと手を上げる女性が出てくる危険性もあり、巡りめぐって王族に反感を抱く人間(男)が増え、内乱になっても困ります。

…男の恨みも怖いので。」


過去、とある国にて内乱はなかったが男性達がストライキを起こしたことがあったらしい。



「それに、不満を向けられた女性が被害に遭う事件が増加する可能性もありますよね。」

「はい。

そこで、如何に角が立たない伴侶を確保するのか。

それがここ数年、冒険者協会と各国首脳陣を悩ませている案件でした。」


悩んだ国々は、自分達の国内から伴侶を探すのは諦め、世界規模で探す事にしてみた。

冒険者協会トップと各国首脳陣合同会議の議題でも、


『優秀な王族と冒険者の伴侶達は何処にいる!』

『いや、1人だけでも構わない。』

『そうだ、その1人が彼らに嫁げば問題は一気に解決する!』

『では、何処の国から探す?』


以下、延々と会議は堂々巡りを起こし。






「一番角が立たないのは、異世界から女性を召喚して、私達の伴侶にする、ということに決まりました。」

「召喚されたのが、私ですか。」

「貴女です。」


が、そこで一つ疑問が。


「…異世界から召喚って、結構な博打なのでは?」


成功する確率は、低いのでは?


みはるは動じなかったが、召喚されたあの場で泣きわめいたり、目の前の彼らに敵意…を向けられる勇気を持っている人などそういないだろうけれど。

性格に難ありの人ならどうするつもりだったのだろうか。


「成功する以前に、今回の召喚は初めての試みでした。

話し合いがまとまってから、早期に召喚に必要なものを全て揃えるのにはかなり苦労しましたが。

それに、貴女が疑問に思ったように性格に難ありの人物が召喚された場合については、根気強く召喚された理由を説明させていただく事も考えておりました。」


つまり、武器を構えた者達で囲んで脅かすつもりだったということだ。


「……。」


爽やかに言い放つアシードを前に、世に言う絶句とは、この事かとみはるは現実逃避していた。


(だからあんなにも警戒されてたんだ。)


初めて尽くしの試み。

もし、先程みはるが言ったみたいに、性格に難があり、何らかの攻撃手段を持っていたら、と、考えるのは普通だ。

恐らく、目を瞑って落ち着こうとしていたみはるに対して、一瞬魔法を使われると思ったのだろう。


(王族だもんね。)


国民から人気のある冒険者もいるのだから、あの対応は妥当。

怖かったのは怖かったが、理由が判明しただけ良かったと思う。


(あれ、でも、初めての試みなら、さっきアシード様が言ってた、元の世界に戻れないっていうのは…。)


「先程私が言った元の世界に戻れない、という言葉についてですが。」


みはるの表情から察したらしいアシードの言葉によると、今回召喚に使われた媒体?はとある聖域の千年に一度しか咲かない一輪の花を使ったとのことだった。


「その花が召喚の要となりました。」

「花はもう無いのですね。」

「はい。次に咲くのは千年後です。」


おまけに、その花が今回咲いていたのは奇跡的な偶然の一致とのことで。


(……やっぱり、もう皆に会えないんだ。)


さっきの痛みが、もう一度やってきた。

一瞬でも、戻れるかも、そう考えた自分が悪い。

淡い希望があっさりと粉々になるのは世の常なのか。


(お墓参りも、もう行けない…。

後見人になってくれた学園長にも、私、何もお返し出来ない。)


ぽたりと、何かが手に落ちた。


「あ…。」


泣いてる事に、漸く気付いたみはるは、ギュッと目を瞑って俯いた。

こんな顔を彼らに見せたら、大なり小なり差があっても、申し訳ないと思われてしまうのは意地だけど、嫌だった。

小さかったみはるは、両親にろくに親孝行出来なくて。

せめて、頑張って笑って生きていこうとお墓の前で決意した。


(そうだよ、それはどんな世界でも変わらない。)


元の世界と違うから、困る事、戸惑う事も多いだろう。


(でも、それは私が知っていけば良いだけ。…というか、ここで生活していく中でこの人達を好きになって、そうなったら、お母さんになるのに、私がずっと悲しんでたら子供だって嫌だよね。)


まだ、彼らを好きになっている自分の姿が想像出来ない。

出来なくても、今のみはるを見て、どう対応して良いのか困っている気配はわかる。


(よし!)


みはるは自分の涙を指で拭って、顔を上げると、アシードの困った表情があった。


「あの、急に泣いて、すみませんでした。」

「…いえ、貴女を泣かせているのは、こちらです。」


アシードは、困ったように呟いた。


「何分、異世界での風習を知らない為、貴女に失礼なことをしてしまうかもしれませんが。」

「それはこちらも同じです。

なので、必要最低限のマナーや常識を教えていただけたらと思います。」

「すぐに手配いたします。」


アシードの言葉に頷き、みはるは彼らを一人一人見つめた。


「沢山、ご迷惑をかけると思いますが、これからよろしくお願いします。」



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