契約ー書
見えるものすべて。
見えないものすべて。
世の中のすべて。
私が欲しいと言ったらあなたは私にそれらをくれるでしょうか。
そっと髪に触れて微笑んでくれるでしょうか。
あの時みたいに私を傷だらけになりながら助けてくれるでしょうか。
そもそも···あなたは私をまだ、覚えてくれているのでしょうか。
憎いのです。自分の頭に生えるこの大きな角。
鹿のような角。洗濯物が干せそうな角。
今、そこには、硬い鎖が巻かれています。その鎖はピンと張ったまま、私が座り込んでいる台の側面に固定されています。周りは草が生えまくり、明かりは上からさしてくる日の光だけ···
ひどく寒い暗闇の中、息が白くなるのを死んだ己の目で見つめ、上の方を見上げてみたりもしてみます。
でも、やっぱり微かな明かりがここから出られない私を嘲笑っていて···
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「へえ、ドラゴンねえ」
僕は机の上のジョッキを見つめ、呟く。
「そうそう、ドラゴンはねえ、火を吹きまくっていろんなところめちゃくちゃにしちゃうのよ」
向かいの席に座っていたみつあみの桃色の髪の少女がジョッキに注いであったビールを一気に飲み干すと小柄な体型にも関わらず、何故か異様に大きい胸を揺らして言う。
少女の黄色の目は好奇心に輝いており、どうだ、と問うように肩を揺らしている。
「あえー良いけどー特に出来ることは無いよ??」
そう言うと、少女は僕の頭を優しく撫で始める。
少女は『ニキ』と言い、僕は『ノネ』という。
僕はニキの旅仲間であり、彼女を支える癒し、でもあるのだという。
己の見た目はあまりじっくり見たことはないが、簡単に言えば光る赤い球だ。
僕はニキと契約によって結ばれている『マナ』である。
故に僕はニキの家族でもあるのだろうか。
思い耽っていた少し照れているのを騒がしい店の中のニキ以外の誰にもばれることはなかった。