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トーク・ガールズ

 求道のラボに満ちるベース音。それは、次第にその大きさを増す。


 その音に、女子たちは一瞬、気圧されたかのように後ずさるのだが、その様子を見て、


「うん。じゃあここは騒がしくなるから、女の子私たちは上に行きましょうか。私たちがいたら男の子は甘えてしまうから」


 と美希(みき)が言うのであった。


 カケルと求道をラボに残して、女性陣は二階に戻ろうというのであった。


 この後は、厳しい特訓が続く。それに、優しい女子たちが残るとカケルの心が少し弱くなってしまう。頼ってしまう、との思いでの美希の言葉であったが、


「そんな、ことはないわ。私はカケルをいつも厳しく指導してるもの」


 そんな、指示に逆らうコン子だった。


 コン子は、もちろん、カケルの特訓の邪魔をする気などはなかったが、自分が残れば、その厳しい特訓の中でも、カケルの心の支えになる。支えがあれば、カケルはより頑張れる。そう思っての発言であった。


 美希とは全く逆の発想であったが——もしかして、それは正しいのかもしれなかった。カケルのことを、親以上にもっともよく知り、ずっと考えているコン子の考えは、ことカケルに関しては、もっとも正鵠をえている可能性も高いと考えられた。


 だが、


「素人は無理しないほうが良い。この後はものすごい音が出る」


 シズ子はコン子に忠告をする。


 そんな思いではどうにもならない暴力的な音がこのあとラボを満たす。そう思ってのシズ子の言葉であった。


 しかし、


「大丈夫よ私だって、カケルの家の地下室でしょっちゅうでっかい音聞いてるからーー」


 コン子は、シズこの眉間をピクピクとさせるような、さりげなく、天然の親密アピールをするものの、


「それは無理——」

 

 シズ子が言うや否や、


「えっ……」


 男たちが、本気で出し始めたベースの音の強力さに思わず言葉を飲み込んでしまうのだった。


 そのベースに、耳というよりも体全体が押しつぶされるような圧力を感じて、コン子が気後れしたその瞬間、


「ふふ……シズちゃんの言うように、女性陣は、無理せずに上に行きましょう」


 美希がタイミング良く言うと、


「はい……」


 呆然とした顔のコン子は、今度は素直に美希の後についていくのであった。


   *


二階に戻り、さっき食事していた客間から、そのままベランダに出る一行であった。


「雨はすっかり上がったみたいね」


 美希は、眼下に広がる葉羽市の夜景を見ながら言う。


 山間の盆地の地方都市のこの街は、大都市みたいなきらびやかな夜景があるわけでは無いのだが、逆に大都市では見えない満天の星空の下にある。それは、まるで地上に降りた星々のよう。小高い山の上から見れば、上も下も星に囲まれて、あたかも、宇宙に浮かんでいるそんな気持ちになるような、素晴らしい光景なのであった。


「綺麗ですね」


 コン子は、そんな様子を眺めながら思わず言う。


 すると、


「本当にね。でも君たちも負けてないわよ」


「「「「はい?」」」」

 

 意味が飲み込めずにポカンとした顔の四人。


「夜景にも、星空にも負けないほど綺麗だって言ってるのよ」


「「「「…………」」」」


「我が娘、シズ子も含めて、よくもこんな可愛い子たちが揃ったわね。(キョウ)の子供優遇されすぎよね。みんなもそう思わない?」


「「「「…………」」」」


 美希による、突然の絶賛に、何事なのか(何か裏があるのでは)と言葉を飲み込む四人だった。


 だが、美希は、別に何か他の意図があって、四人を褒め始めたのではなかった。純粋に思ったままのことを言ったようであった。


「ふふふ、みんな謙遜しなくて良いのよ。みんな抜群に可愛いのは間違いないのだから——へんな遠慮は逆に嫌味よ。このままみんなで切磋琢磨してもっともっと可愛く、綺麗になって、カケルくんを困らせたらいいわ」


 しかし、その言葉は、


「このままじゃ誰かを選べないって。そうすれば君らはもっと綺麗になって——世界を結果救うのよ」


 なんだか唐突に、大げさな話になったのに、


「世界を救う? ですか?」


 ミクスが当惑した様子で言う。


「あら、そうよね。——まだちょっと早いかもしれないわね。あなたたちがこの言葉の意味が分かるには。まだ意味不明よね。こんなこと……普通の女子高生がいきなり世界救うとか言われてもね」


 美希は、ミクスに振り向きながら言う。


 そして、さらに振り向いて、


「でも……、一人だけもしかしたら言わずもがなかしら?」


 美希は、カケルの妹、舞を見ながら言うのだった。


 しかし、


「なんの、ことでしょうか?」


 舞は何を言われているか分からないと言うような表情でこたえる。


 それを見て、面白そうな表情で首肯しながら、


「うん、まあ、君はそう言う設定としておいてあげる」

 

 と言う美希であった。


 それは、まあ今日はこのくらいで良いか——勘弁してやるかといった表情——美希は明らかに舞の秘密、偽神(デルミゴウス)としての彼女を知っている様子であった。


 しかし、舞はそんな安い誘いにのるようなわけもなく、なんのことやらと言う表情を崩さない。


 ならば、


「ともかく、余計な思わせぶりなことを言ってしまってごめんなさい。でも、この後、あなたたちはきっとそういう役回りをしなければならなくなるし——あなたたちはそれができる子たちだと思うわ……だからその日に備え今日はゆっくりと休息というところかしら——みなさん座ってね」

 

 美希は、それ以上の追求はやめて、みんなをベランダに置いたソファーに座るよう勧める。


 ちょうどラボの上が広いベランダになっていて、客間より出たすぐの張り出した屋根の下にアウトドア用のソファーが並べられていた。


 女性陣がそこに座ると、テーブルの中央が開き中からティーセットがせり出してきた。


 そして、ポットに茶葉を入れて、お湯を注ぎながら美希はさらりと言う。


「それではお茶でも飲んで女子会でも続けましょうか。みんなにはもっと恋バナして欲しいのよね」


「「「「…………」」」」


「こんなおばさんには、そういうのこれ以上ないご馳走なんだから、今晩の夕食の代金かわりとして、いろいろ聞かせてもらうからね」


 なんだか、獲物を狙う野獣のような眼光の美希だった。それにビビって腰が引けている女子たちだったが、


「特に修羅場話大好きだから。みんなの本心聞き出して、そんな風になったらごめんね」


 逃がさないというようにぐっと、少し前に出る美希であった。


 それに、ちょっとビビった様子の四人であったが、その瞬間、


「ああ〜あ」


 なんだか、鋭い警報のような音がベランダに鳴り響く。


「残念。邪魔入っちゃったかしら?」


 そう言い、立ち上がりさっと、右手を振る美希。


 その手の先からは、細いワイヤーのようなものがせり出して、


「ぐっ!」


 少し先の宙の暗闇から声がして、ベランダにドンと何かが落ちる音。


 美希は、まるで飛んでいるかのように、軽やかに、素早くその場所に駆けつけると、今度は左手の裾より警棒のようなものをせり出させ、ベランダの床に向かって振り下ろす。


 ゴブッっという硬いものの潰れるような鈍い音がして、


「なるほど、さすがキラー・フラッシュと名を馳せた閃光美希(きらりみき)ね」


 振り遅された棒が、ベランダのコンクリートを割ったその横には露出度の高い、真っ赤なドレスを着た爆乳の女性がいた。


 ——またしょうこりもなく現れた高橋幸子であった。


「あっ、高橋幸子だ」


 それを見て思わず名前が口に出た舞であった。


 その名前を言うなと言う風にギロリと睨まれる舞。


「まあ、じゃあまあ、さっちゃんってことで」


 と不遜な様子で言う舞であった。


 そして、


「へえ、もしかしてこの頃この街でうろちょろしている半妖ってあなたのことかしら」


 舞よりもさらに不遜な、まったくビビった様子もない美希。


「へえ、おばさん。私のこと知ってるんだ。じゃあ……」


 そう言うと、光り出す女。


「普通の人間ごときが、私になにもできないのを知って……」


「そうかしら。あなたは普通の人間を舐めてるかもね」


 女は自分を戒めていたワイヤーを、体に纏った炎で焼き切る(お約束でドレスも焼けるが、セルフ光で大事なところは隠れているのもお約束である)。


「舐めてるも何も、あなたこのまま私がそのかわい子ちゃんたち全員焼き殺そうとしても何にもできないでしょ」


 女はそう言いながら炎を右手に集め、美希の後の四人に向かって投げつけるようなそぶりを見せる。


 すると、その様子を見て、キッと厳しい顔になった舞が、


「まったく懲りない(おなご)じゃて」

 

 と、誰にも聞こえないような小さな声で、呟くのだが、


「舞ちゃん——良いから。あなたは今日は黙って見てなさい」


 美希がそう言うと、人間離れした素早さで、さっと女に向かって飛びかかり、


「つっ!」


 まさか向かってくると思わなかった女が、虚をつかれたすきに、後ろに回り込んで、背中をさっきの警棒で突きながら、


「はい。一丁あがり」


 そのまま地面に倒れた女を見下ろしながら言うのであった。


 その、美希が警棒でついた場所は、かつて舞が女を倒した時に攻撃したのと同じ、背中の急所。彼女の妖としてのコアが埋まっている場所であった。


「くっ!」


「あなた、もうまともに動けないでしょ? なんならそのまま、あなたのコア引きづりだして、叩き潰して、——普通の人間の怖さ思い知らさせても良いのだけど……」


 床に倒れた女に警棒を突きつけながら、厳しい表情で言う美希。


「こんな、お嬢様方の前で、そんな残酷ショーを演じるのも無粋だから」


 美希は、警棒を背中から離し、一歩下がりながら言う。


()せなさい!」

 

 すると女は、


「ちっ!」


 悔しそうに舌打ちしながら、まるで獣のように四つん這いで駆け出すと、ベランダから飛び降りて、その先の森の中に消えるのであった。丸裸で。セルフ光も出せずに。


 それを見て、


「……変質者として捕まったらかわいそうだけど」


 あんまりかわいそうに思ってなさそうな表情で美希が言うと、


「いえ、いえ、あの女は、調子乗りすぎですからそのくらいの痛い目あったほうが良いのですよ」


「あれランちゃん?」


 美希の後ろに突然現れた、ラン。


「お久しぶりです美希さん。この街に二回も来たのに、いままで挨拶もできずにすみませんでした」


「んっ? ホログラム? 緊急回線使ったのね」


 現れたランはホログラムだった。今、ウェブレイド本部のロンドンにいる彼女は、緊急回線を通じて、この場所にアクセスして来たのだった。ウェブレイドのシステムや技術サポートで緊密な協力関係にあるこの演道家の経営するフールズゴールド社、その緊密な連絡のため、このような緊急チャネルと3D通信システムが何個か用意されているのだった。ランは、その内の一つを使って、この場所にホログラムの形で現れたのだった。


 そして、彼女が現れた、その理由は、


ウェブレイド(うち)の日本のエージェントが、また連中が動き出したのを感知して——警戒するように伝言にきたのですが……もう終わってしまいまいたね」


 あの女の組織、サマー・オブ・ヘイトの怪しげな動きを感知して、警告を与えに来たのだった。


 しかし、それは少し遅く、美希は自力で解決してしまたのだが、


「いえ、まだ終わりじゃないでしょ? まあこの家に手を出すのはもう懲りたかもしれないけど……君たちなんか掴んでるんでしょ?」


「まあ、それなりには……」


「でも、まだこの街に乗り込んでこない——フットワークが軽いあんたたちにしては珍しいわね」


「それも……こちらにもいろいろ理由が。もちろん突然の有事の際にはすぐに駆けつけるつもりですが……」


「ふうん。あなたたちのパラダイスロフトだと、次の業羅には対抗できないかもしれないからね。改造中ってとこかな?」


「はい。やっぱりお見通しですね。フールズゴールドの技術者の人たちにも今いっぱい依頼を出させてもらってますが……」


「間に合うかしらね?」


「間に合わせます」


「なるほど。フールズゴールド(うち)も間に合わせろと?」


「すみませんがよろしくお願いします」


 申し訳ない様子ではあるが、有無を言わせない意思をもってランは言う。


 それを見て美希は不敵な笑みを浮かべながら言う。


「うん。じゃあ頑張らせるわ。特に、今、下で若者を特訓中(かわいがっている)のおじさんにはね」


「すみませんが、よろしくお願いします」


 美希に、深く礼をしながら言うラン。


 すると、


「まあ、受けた仕事はきっちりやらさせていただくわ。でも、一つ手伝ってもらって良いかしら?」


「手伝うって何を?」


 技術はからっきしの、自分に何か手伝えることがあるのかと不審げなランの表情。


「いえ、手伝うって言っても、サウンドシステムの話とかじゃないわよ。——どうも話を聞くと、この後、求道(きわみ)だけじゃなく、私も散々頑張ってあんたたちの依頼こなさないといけなくなりそうだけど、そんなハードワークの前には充電が必要そうなのよね」


「……?」


「だから、今晩、私の大好物の若者の恋バナや修羅場をたっぷり堪能しようとおもってたのだけれど……」


「なるほど!」


「一人対四人だと流石に分が悪いかなって思ってたから——ランちゃんも手伝って!」


「そういうことなら……」


 にやりと悪そうに笑うラン。


 そして、


「喜んで!」


 サムズアップしあう女二人。


「「「「…………」」」」


 それを見た残り四人は、なんだか先行きにどんよりとした不安を感じる。


 今晩、軽々しくこの場に来てしまったのを激しく後悔しながらも、もはやどうしようもない自分たちの運命を悟り、深い嘆息をする。


 しかし、その音は、ラボから漏れてくる激しいベースの音に、儚くも、かき消されてしまうのであった。


 そして、満天の星空を眺めながらの——恋バナという精神汚染攻撃にヘロヘロとなってしまう四人なのふぁった。


 南無三。

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