フードコート
明日のイベントの準備が終わったあと、僕は会場に隣接するショッピングセンターへと入る。
今日は、起きてそのまま自転車を走らせて、途中からシズ子に車乗せてもらったとは言っても、そのあとはすぐにイベントの準備をして……。
今まで何も食べていない僕であった。
イベント準備をしている間は、少し緊張感なんかもあって空腹も忘れていたのだが、終わって一安心するとどっと押し寄せて来る飢餓感。
腹がペコペコ。腹が減りすぎて、体を動かそうとしてもなんだか思うようにならない。ハンガーノック寸前の感じの僕であった。
ならば、僕が向かうのは、何か食べる場所。
なるべく早く、どっさりと、できれば安く……。
と考えれば、向かうのは一択。ショッピングセンターの二階にあるフードコートなのであった。
「何を食べるかな……」
僕は、高校の体育館ほどはある広いフードコートをざっと見渡し、今の自分に一番しっくりくるものは何かと自分に問いかける。
例えば……そば? ——悪くはないが、ちょっと違うな。
そんなさっと食べれるものでは僕の心は満足しない。
じゃあ、うどん? メニューにある肉うどんに、ちょっと心をそそられるが……。
肉うどんは暖かいのだけみたいなので、梅雨の晴れ間の結構ムシムシした外で知らない間に汗をどっさりかいていた今の僕には向かないな。
なんだか考えたただけで汗がもう一回どっと出てくるような気がする。
なら、——ラーメンも同様。
豚骨で油ギトギトで塩分たっぷりのラーメンに、トッピング全部のせをした健康にわるそうな物体に、ガツガツと高校生男子の食欲をぶつけると言うも悪くはないが……。
ーー厨房から立ちのぼっている湯気を見るだけで、やっぱり汗がどっと出てきてしまい、僕は無意識に目をそらしてしまうのだった。
でも、なら? どうする?
ハンバーガー?
丼ぶり?
——それもでも良いが……
「焼きそばにしとくか……」
僕は、B級グルメとしてこの地方の名物になっている焼きそばを頼むことにしたのだった。
フードコートはほとんど全国チェーンか、ショッピングセンターの運営企業の出店の店ばかりの中、地元の名店が出店している焼きそば屋が、なんだか特別に見えたのだった。明日、地元の未来を願うイベントに参加するのならば、全国どこでも食べられるチェーン店の食事でなく、地元にゆかりのあるものを食べなければ。と僕は思ったのだった。
それに、随分と疲れている今の自分の体調的にも、塩辛いソースがたっぷり染み込んだ、太麺の焼きそばはとても魅力的に見えたと言うのもある。だから、一度そう決心してしまえば、僕はもう脇目もふらずに、焼きそばを頼むと、店の近くのテーブルに座り、渡された受信機が震えるのを待っている。
「……結構人多いな」
そして、フードコートを見渡して、思うのだった。
もう昼はだいぶ過ぎて、でも夕食というにはまだ早いこの時間だが結構人が多い。老若男女。様々な人たちが、様々にそれぞれの食事を、休息を取っている。
「今はみんな、ここに来るからな……」
自然溢れる山間の葉羽市であるが、地方の中核都市として発展を遂げたのは、商店街や工房、作り酒屋やなんかが続く昔からの市街が中心であったのだが……。
まあ、ここも他の地方と同様、ご多聞にもれずと言ったところで、この頃は、街の昔からの中心部よりも、車で来れるこういう郊外のショッピングセンターの方が発展している。
だって、まあ、車持っていたら、街道沿いの店に行きたくなるのは分かるな。高校生の僕たちは、自転車でわざわざそこまで行くよりは駅近くでいろいろ済まそうとするけれど、大人なら車も停めやすくてなんでも揃う、郊外の大型ストアの方がずっと楽なんだと思う。
葉羽市へ、近くの町から、車で通勤している人も多いから、そうなればますます車で行きやすい郊外で用事済まそうと思う人も多いし、店の種類も、ショッピングセンターの方がずっと多い。
だから、人出も自然と多くなり、こんな午後の中途半端な時間でも、フードコートが結構賑わっているのだが……、
「あっ」
とか柄にもなく、郊外の発展と街中心の空洞化なんて、社会派っぽいことを考えていたら、手に持った受信機がブルブルと震えて、頼んだ焼きそばができたことが知らされる。
僕は、慌てて頼んだ店まで向かおうと立ち上がるが、
「カケルさん」
振り返ると、そこにいたのはミクスさんなのであった。