バトル・オブ・高見家
なんとも——
前の日、深夜まで続いたDJ練習の間、ずっと一緒にいたコン子とシズ子は、そのまま僕の家に泊まったのだった。
いや女子高生二人があっさり家に泊まっていくなんて、どんなラノベ主人公だよ俺って感じだけど、確かに、時間も時間だったので、女子を夜一人で家に帰すなんてありえないし、僕が送っていこうにも街を見下ろす丘の上のシズ子の家は往復で下手したら空が白み始めるんじゃないかって距離だし、泊まっていくと言うのは確かに合理的な選択肢の一つではあった。
でも、実は途中、彼女の家から迎えの車を寄こしてくれると言う連絡があったようで、それを待てばシズ子も家に帰れたのだと思うのだけど、今日はサウンドエンジニアとしてやって来たと自負を持って言う彼女は、車の移動時間も惜しい、——ギリギリまで僕の練習に付き合うと言う。
で、実は、もう泊りになると思ってやって来ていたようで、
「この家に泊まるのが合理的。高校生として明日の勉学に影響を残さないためにこの家で寝れば一番睡眠時間が取れる。実はそう思って、明日の着替えもパジャマも持参済み」
と言うのだった。
「何言ってんのよ! テンプレ無表情銀髪女がなにさかってるのよ! いくら相手がヘタレのカケルだって、男子高校生の家に泊まるとか気軽に何言ってんのよ」
すると、予想通り、コン子が断固拒否の構えを見せるが、
「テンプレ幼馴染こそ黙っててほしい。毎日やってきて、カケルと一緒に過ごすことができると言う、他のヒロインを大きく引き離せるはずの好条件をたまたま家が近いと言うだけで与えてもらったのにもかかわらず、あまりに日常になりすぎた毎日を変えれない。そんな日常に満足して、——得ているものを失うことが怖くて、変化を受け入れることができない。遅くまでダラダラしても必ず家に帰る。その一線は超えられずに、結局幼馴染ポジションの限界から脱却することができず……」
「くどーい!」
確かにシズ子の理屈っぽい話はくどいなって俺も思った。
「要はアレよね?」
「アレ?」
「アレったらアレよ!」
「アレ? さすが語彙力のない幼馴染は言うことが良くわからない……」
「なによ、この行間を理解しない理系女——アレって言うのは……私を見損なうなってことよ!」
「見損なう? そもそも見損なうほど期待も、評価もしていないが?」
「ま、まったく……ああ言えばこう言う女ね。でも、言いたいのは、あなたは私を甘く見ているじゃないのってことよ!」
「甘く?」
「そうよ! 甘く見ないでよ。私にだってできるのよ!」
「何が?」
「……あなたがどうしてもカケルの家に泊まっていくって言うのなら——分かったわ。受けて立ちましょう!」
「…………?」
「私も今晩はカケルの家に泊まるってことよ!」
*
と言うわけで、ただ泊まるだけでなく、僕の部屋にやってきて、二人とも床に寝ると言うからさすがに女の子にそれはと言ったら、二人とも僕のベットに寝ようとして譲らずに、結局二人ともそこで寝てしまって……
——なんだかいつのまにか女二人で抱き合ってるし。
朝も、昨夜シャワーも浴びれないで寝てしまったからと風呂に向かうのに、——どっちが先に入るのかで譲らずに……
結局一緒に入って、罵倒しあいながらもなんだか胸だ腰だと、風呂場から漏れて、ちょっと聞こえてきただけでこっちの顔が赤くなるような話を大声でして……
でも声はなんだか少し嬉しそうで……
実はこの二人結構気があってるんじゃないかと言う気さえしてくる、——騒がしく、楽しげではあるが疲れる朝であったのだが……
「高見くん? どうしたのかな? なんだか目の下にクマもあるし、随分とお疲れみたいだけど?」
「い、いえ!」
「……ん? なんでそんなびっくりしてるのかな?」
そんな、慌ただしい朝から始まった一日、寝不足で授業中はぼんやりしつつもなんとか先生たちに叱られることもなく授業がすべて終わり、さっさと帰って今日もドラムンベースDJの練習の続きをしなくては思っていた帰りのホームルームでっあった。
しかし、そんな最後の最後で担任の御曽路美子先生から告げられた一言、
「あ、で、カケルくん。生徒会の人たち今日君に用事あるみたいだから、このあと生徒会室に言ってくださいね」
その言葉を聞いて僕はなんだか背中から血の気がスーッと引いいていくような感触を感じたのだった。
——いや、生徒会だよね。風紀委員会じゃないよね。
僕は、そんな言葉を唱えながら、生徒会室に向かう廊下を歩いたのだった。
だって、女の子が二人僕の家に泊まったその日に生徒会から呼ばれた。
たぶん、具体的にどう書かれているか確かめていないけど、それは明らかに校則違反のはずだ。
不純異性交遊なんて絶対なかったけど。校則って、あり得ないような清廉潔癖な若者を想定しているから——実は朝あまりに二人からいい匂いするからこっそりベット近づいてクンクンしてしまった。
これだけでも万死に値するといわれてしまいそうだ。
いやこんなの人に知られたら万死の前に恥ずかしくて悶死してしまうが……
まさかバレてないよね?
他に……
パジャマがないので僕のでかいTシャツ着て眠ったコン子の足が布団からはみ出たのを凝視していたら、それにシズ子の足が絡まった瞬間に思わず前に一歩出てしまったこととか……
シズ子のパジャマの胸もとが乱れて、僕の心も乱れてる時に、その谷間に寝ぼけたコン子が顔つこんですりすりして、僕の心は乱れに乱れて座ってた椅子から転げ落ちたこととか……
昨日の夜に健康な青少年たる僕の理性に与えられた高度な試練と言えるラッキースケベ的なシチュエーションの数々。僕は生徒会のみなさんに、それらが糾弾されるんじゃないかと気になってしょうがなかったのだった。
しかし、
「今日は、君に来てもらったのは、君に何か生徒会として指導とかあるんじゃないわよ。安心して」
——ほっ!
部屋に入るなり会長の志度さんは僕に向かって言う。会長は、どうやら、僕の昨日からの(小)悪を裁きたいわけではないようだ。
でも、なら? なぜ? 僕は呼ばれた?
「でも、ちょっと協力して欲しいのよ。こう言うこと……多分、高見くんが適任だと思うので……」
で、何?
「それは……」
はい?
——地域創生?