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媒介者

短いですが物語の展開点となる大事な場面となる今話。次からはしばらく学園パートになる予定なので、しばらく出て来ないシリアスを、できればお楽しみください。

 (わらわ)——高見舞こと偽神(デミウルゴス)は、葉羽市街を離れ、その周りを取り囲む、山脈の上を飛ぶのだった。


 雨はや止んだが、まだ空は雲が覆い、星も月もない漆黒の闇の中を、星振の乱れを感じながら飛ぶ。


 妾には、今日すべきことがあった。


 妾は——それをしなけければならないのだった。


 この世界の摂理などを超えた、超越の必然が起きる今夜。


 妾は、必然(それ)に少しでも抗おうと——それが無駄なこととは知りながら——その場所——それが起きる場所に向かうのだった。


 今夜起きること、それは世界創造者(デミウルゴス)などに止められるものではない。


 それは、世界の(ことわり)など超えた必然であるのだった。


 ならば、妾にはそれを止めることはできない。


 妾が、そこに向かっても何にもならない。


 無駄であった。


 ——だが行かずににはおられない。


 兄様のために少しでも利する可能性があるならば、妾は滅するとも構わぬ。


 やれることをやらずに後悔をしたくない。


 止められぬまでも、そのこの世でのあり方を、少しでも兄様のためになるように……


 ——そう思い妾は向かうのだった。


 その場所に。


 禍の場所に——


 妾は……


   *


 そして、辿り着いた、その場所は、葉羽市の灯りもも遠く寂しげな、この辺りで一番高い山の頂上であった。

 

 高地の厳しい自然環境の中でも豊かな植生と様々な生き物の集まるこの山の自然、森が、その場所だけは不自然に途切れる。そんな怪しげな場所。


 それがこの山の頂上であった。


 ——妾は、さっきまで降っていた雨のせいで少しぬかるんだ、そんな頂上にふんわりと着陸をする。


 そして、


「ふん、——禍はまだのようじゃな? それなら待たせてもらおうか?」


 妾は、ひどく不満そうに言う。


 なぜなら、


「全く、兄様のいる家にあんな盛りのついた女子(おなご)が二匹も来たと言うのに、今夜はここにおらねばならないとはな! まったく、繰り言の一つも言いたくなるものじゃて」

 

 と言うわけで、妾は、吐き捨てるように、そう言うと、わざとらしく嘆息をついて見せるのだが……


 と言っても、——ここでそんなことをしてもどうなるわけでもない。


 ここで、恨み辛みを叫んでみても、無人の山が木霊を返してくるだけならば、


「ふん、まあ良い……あやつらが兄様に何かする度胸があるとも思えぬし……そんなことをしたなら、あやつらの過去ごとこの世界から存在を消し去ってしまえばよいだけじゃろうて……」


 そんな無為でむなしきことをする由もなし。


「ならば……」


 妾はだまって——月も星空も見えない暗闇の中——ただ「こと」が起きるのを待つのだった。


 暗闇に向かって声にならない言葉を呟きながら、ただ待つ。


 雲の向こうで星が周り、その切れ間から月の光が差す、その山頂の草っ原を注視する。


 すると、激しく気が乱れ、それが近づいていることを知る。


 妾は言う。


「来たな……」


 すると、風が吹き、周りの森がガサガサと音を立てて揺れ——現れる。


 妾はゆっくりと、その音のした方向に向かって振り返り、


「………………!」


 さすがの妾も絶句するのだった。


「ふふふ、こんにちわ。舞ちゃん、お久しぶりね」


「その姿は——貴様!」


 今回、この世界で、媒介者(コーティネーター)は、妾にとって、いや兄様にとって、到底許せぬ姿を借りて現れたのだった。


 妾は、無言で、怒りをこめてそ奴を睨むのだが、


「あら、……折角の感動の対面になのに随分とつっけんどんな感じなのね」


「……ふざけるな! 己はいつも人の心を弄んで……」


「あら、人のことなんて虫けらくらいにしか思ってないはずの世界創造者(デミウルゴス)様が随分と湿っぽいことを言うわね。今回は人の身に生まれて心が弱くなってしまったのかしら?」


「——言ってろ! 妾が人の心がわかるなどとは言わぬ。正直、人などと言う脆い存在など、どうなっても良いと思うておる。しかし、己のその姿は、——兄様の心を害なすものじゃ!」


「ふふふ、あなたをそこまで激昂させられるとは。嬉しいわ。ふふ、じゃあ今回は、私の勝ちということで良いかしら? 舞ちゃん?」


「その口で、その名を呼ぶな!」


「あら怖い。私はそう呼ぶ資格あると思うのだけど? なんと言ったって、私はあなたを、産ん……」


「——それ以上言うでない!」


「……ふふ、そんな怒らなくても良いじゃない。舞ちゃん?」


 こやつ、コーティネーターは、妾の気持ちをわざと逆撫でにするように、かつてのこの人のような、慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる。


 だが全て偽物だ。  


 妾が偽の神であるように、こ奴も、偽物の存在。妾を、兄様を、陥れるために、あの人の姿を借りたに過ぎないのだった。


 しかし……

 

 それは、分かっている。

 

 分かっているのじゃが、


「この妾を嘲るのならいくらでもするが良い。所詮、妾などその程度のものなのじゃ。しかし……」


 このふざけた女の姿を見ていると、何もかも諦めて、この世界を終わりにしてしまいたい衝動に狩られるのだ。


 しかし、


「まあ、そんな短気を起こさずに始めましょう——禍を!」


 今ばかりはぐっと我慢せねばならぬだろう。それは兄様の望まぬことじゃろうから。たとえ、兄様がこの後にどれだけ苦しむことになろうと、——兄様はそれに立つ向かうことを望むだろう。


 ならば、


「始めるのじゃ——禍を!」


 妾はそう叫び……


 ——今回もまた「必然」に妾は負けるのであった。


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