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ある日、地獄に招かれた  作者: 梶 央実
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嵐の前ー地獄の中の美しさー

それはやはり感動的な光景であった。実を口にできた亡者は、人間に還りこの地獄の中を光に包まれて出ていく。

ふた切れずつ投げる理由もわかった。人間に還れた亡者は周りの《蛆虫》も共に連れて行こうとするのだ。しかし《蛆虫》自身は、他人への不信感で凝り固まった存在である。余計な世話とばかりに暴れるものが多かった。けれど、二人掛かりなら暴れる《蛆虫》を連れ出せるのである。

「あれらはこの地獄で助け合っているということらしい。」

「らしい?」

「そう」

「みぃもショウもやめて。よく見てよ。池の中で全員が全員、他人を足蹴にしたり、踏みつけているわけじゃないわ。ほらそこ、蹴られて沈められた人を引き上げているでしょう」

「まあ、本当だ。蛆虫同士で助け合っている。」

「みぃ。蛆虫だなんて言わないでよ。」

「悪人だって徒党くらい組むさ。」

「ショウ、知っているでしょう。獄卒はもと亡者なのよ。仲いいくせに。」

「そうだよショウ、よく剣の稽古を一緒にしているじゃないか。」

「獄卒のことじゃない。亡者が嫌いなだけさ。」

ショウは頑固に言い張る。

白は困ったよう顔で目配せを寄こしたが、私はショウの意見に近い。

獄卒は、言ってみれば、罪を犯したけれど反省して自首してきたような人間。亡者は、捕まって証拠を突きつけられても反省しない人間。前者には同情心も湧くが、後者は憎らしいだけである。

それに犯罪者は単独で罪を犯すとは限らない。リンチだの、いじめだの多数で一人を攻撃するなんてことは、珍しくない。時代によっては国を挙げて少数者を排除した。人間は悪徳のもとでも団結できる。

私が何も言わないでいると、白は悲しそうな顔をした。黒はおろおろとしている。

色々な思惑があるとはいえ、私も実の欠片を投げ続け、地獄に光の柱が立つことを助け続けた。暗く絶望だけが支配する世界に、神仏の恩寵を乗せて光を放つ果実が跳ぶ。亡者が人の心を取り戻し、光の中を去っていく。

ショウもまた、この顛末を微笑とともに見ている。(皮肉っぽくはあるが)暗い世界のあちこちに昇った光は、間違いなく絶望の世界を希望の世界に変えていた。

誰もがその美しい空を見つめていた。嵐が去った海原の静かな凪。

荘厳な情景の残り香というべきものに誰もが包まれていた。

これで私の役目は終わった。夢ももうすぐ終わる。明日、目が覚めて私はどう思うのだろう、希望が胸に残っているのか。

そうあれば、いいと思う。例え投げ捨ててしまいたい現実でも希望があれば、私は帰っていける。たとえ不本意でも、生きていけるだろう。

後から思うと、この時もっと周りを見ているべきであった。

ここは地獄であったのだから。


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