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ある日、地獄に招かれた  作者: 梶 央実
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五香景義

ではでは、白の言っていた、たった一人殺したい相手とは・・・

 「知らないはずあるまい、あの狡猾で欲深く無慈悲な、五香景義だ!」

五香家、日本を代表する財閥の当主である。もともとは神社の神主家ということが、知られている。いつのころから、恐らく家を継げなかった次男だか、三男が商売を始めたらしいという。戦国時代には、楽市楽座の恩恵を受け、明治時代には、本家が神社であることを利用してうまく立ち回ったと言われる。とにもかくにも現在は、銀行、保険、証券、IT産業、小売業その他のグループ企業を持つ大財閥である。

やはりショウは大財閥の御曹司であったのだ。でも景義氏は事故(、、)で急死したが、やり手で中興の祖と言われる人物であったはず。あの、リーマンショックで受けた打撃を切り抜けたのだ。

経営に失敗するとすぐリストラをして、立て直しを図る事が当り前の風潮の中、かれはリストラをするなと命じたと聞く。それでも彼が指揮を執り始めて3年後グループ全体で数千億あった負債を返済し、5年目には黒字に転換したと言われる。6年後彼が急死した時には、多くのグループ社員が涙したと言われる。立志伝中の人だ。

つまり、彼は人生の成功者で尊敬を集める人物だ。

「皆、騙されているのさ、先を見通せる有能なCEO、部下思いの人格者と言う。しかし実態は家族をストレスのはけ口にして、暴力を振るい、自分に都合の悪いことは他人に責任を転嫁する人物だった。身内と言っていいほど近しい部下に、責任を押しつけ切り捨てるそんな奴だったのさ」

 「そんな、まさか」

 「本当だよ。皆信じちゃあくれないが、僕は両手両足、2~3回ずつ骨折している。あの男に殴られてね。現世に戻れば、今なら証拠を見せられるさ。あいつが死んだから証言してくれる人間もいるだろう」

 「そ、そんな、どうして」息が苦しくなってきた、走ってもいないのに息が上がる。私もこの世界になじんできたのか、口先の言葉か、そうでないのかを感じ取れるようになってきた。声に込められた映像も見える。真冬に裸にされ外に放り出され、さらに水や熱湯をかけられる、そんな情景が伝わってきた。

 「ど、どうして世間に伝わってないの、あり得ない、そんな。」

 「権力っていうやつは、存在する。多くの日本人は自分の国を平和で平等だと思っている。どんな有名人でも罪を犯せば暴かれると信じているが、あいつはそんなこと気にしたことなかったさ。」

 「気にしたことなかった」ただ繰り返した、他になんと言っていいかわからない。それに、しゃべるにしたがって気のせいかもしれないが、ショウの目に映る狂気の色が薄れてきた。

 「僕を庇って殴られたことがある者まで、いざとなると貝のように口を閉ざす。特にあの男がCEOになってからは、尚更だった。」

 「尚更だったのね。」

 「そうさ、尚更さ。今でもよく秘密が漏れなかったと思うよ。殴られて怪我をした時着ていた服なんて、よく燃やされたよ。」

 「服を燃やされた。」

 「そうさ、庭に立派な焼却炉がある。普通なら何に使うのかと言われそうだけど、五香家にはあってもおかしくなかったらしい。」

 「普通ならおかしいのに、おかしくないとされた。」

 「そうさ、だから犠牲者が増える前に、増える前に」ショウの様子がおかしい。さらに空の様子もおかしくなってきた。赤黒くなっている空に稲妻が光っている。

 勘でしかないが、ショウが言いあぐねている言葉を口にさせてはいけないと思った。私が先に何か言わなければ、否定的でない言葉を言わなければ。

 「犠牲者を増やすことを、防いだ(、、、)のね。」

 「そう、そうなんだ、防いだんだ。弟や妹を守ってやりたかった。」

 言葉に反し、彼の目は暗い。

 「成功したわ、守り通せたわ。」

 「でも、こんな世界があるとは知らなかった。すべて終わったと思った、だから自分で自分を罰したのに、目が覚めたらこの世界があることを知った。あ、あの男のような人間が山のように蠢いていた。だから、だから」

 「ショウ、もうこれ以上はいいのよ、あなたはやり遂げたの」

 「いや違う、やり遂げてはいない」

彼の目の色がまた元の暗い色へ戻る。

私はとっさに剣を握ったショウの手を上から握ろうとした。だが握れなかった。


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