まだ一緒に居たい。
今日は日曜日なので少しゆっくりして自宅に戻る予定だった。なので、時間はある。芽衣がよければ、と言うより、どうしても、時間が許す限り一緒に過ごしたい。
「今日は時間ある?」
ソファに座っている芽衣に、おそるおそる聞いてみる。返事までの数秒が怖い。
「あるよ…。」
良かった。しかし俺の方をを見ない。怒っているのか?
「少し話したいんだ。」
「うん…。」
ホテルのカフェで一緒に朝食をとったが、パンケーキにも、ミルクティーにもほとんど手をつけず、うわの空。
「口に合わなかった?」
「そんなことないよ…。」
返事はするものの、ナイフとフォークを握る手は動かず。
「出ようか。」
「うん…。」
さて、どこで話そう。家だと、家族に会わせることになるので、外だな。カフェなんかだと誰かに会ってしまうかもしれない。やっぱり事務所がいいかな。今日は出勤するスタッフはいないはず。
チェックアウトを済ませると、芽衣を車に乗せて、事務所に向かった。
事務所までの約40分、俺と彼女は一言も言葉を交わさなかった。
「小さな事務所だけど。」
鍵を開けて、中へ案内すると、怪訝そうに足を踏み入れる。
「座ってて。」
ソファをすすめてから、キッチンでお湯を沸かす。冷たいジュースより、温かいコーヒーの方がいいだろう。
マグカップにドリップパックをセットしながら様子を伺う。ソファに座って、事務所の中をゆっくりと見回している。
「何を話そう…。」
ドリップパックにお湯を注ぎながら考える。一緒に居たくて引き留めたけど、考えがまとまっていない。いきなり、これからのことを話してもなあ。俺は良くても、彼女はどう思うだろう。
「コーヒーどうぞ。」
テーブルにマグカップを置いて、向かい合ってソファに腰かける。
「強引なことして、ごめん。」
涙ぐんで首を振る芽衣。
「酔っていたとはいえ、勝と、そんなことになるなんて思ってなくて…。」
「ごめん。」
本当は、もう少し一緒にいたかっただけだったけど、言い訳できない。こんなに傷つけてしまったなんて。
「別れてから、色々あったけど、ずっと芽衣のことが心のどこかにあって、でも結婚したの知ってたから、話せるだけでもいいと思ってた。」
「……。」
うつむいたまま、黙って聞いている芽衣。結局、言い訳してる俺。
情けねー。
どう言えば、いいんだ。
“三度も振らないでくれ”
“今の芽衣に一目惚れしたんだ”
“いい加減な気持ちで、あんなことしたわけじゃないから”
“後悔させないって約束する”
全部本当の気持ちだけど、どう言えばいいんだ。
「あのっ!昨日、久しぶりに会って、今の芽衣に一目惚れして、いい加減な気持ちじゃないし、こ、後悔させないから!」
一気に言ってしまった。今までのどんな試験よりも緊張した。
そしてソファから立って、びっくりしている芽衣の前で土下座しながら言った。
「俺と付き合ってください!」