朝まで。
「お前なあ、そこまで自分をかわいそうがってんじゃねーよ。芽衣だってしんどいんだぞ。気晴らしに遊ぶことだってできるのに、それをしないのは、お前に対する、あいつなりの礼儀だろうな。」
シャワーの音を聞きながら、一希先輩の言葉を思い出す。最初にフラれた数日後に言われた言葉だ。俺と別れた途端、周りの男どもがこぞって告白したが、芽衣は全部断ったらしい。
シャワーで、かなり酔いが覚めた。今、ベッドに行けば、芽衣と寝てしまうことは簡単だ。しかし、本当にそれでいいのか?
いや。俺は、決めたんだ。
しかし…。
「ここ、どこ?」
目を覚ました芽衣はキョロキョロと部屋を見回す。
勝とバーに行ったところまでは覚えているが、その後の記憶がない。ソファに目をやるとスーツのジャケットとネクタイが置いてある。
…もしかして、ここって、ホテル?あの音ってシャワー!
私って、勝とホテルにいるの?そういえば「泊まっていけよ」と言われたような…。服は乱れてない。よかった。コトは始まってなかったようだわ。とにかく帰らなくちゃ。
いそいとバッグをたぐり寄せ、ベッドの近くに投げ出されたようになったパンプスを履く。
フラフラとドアに近づこうと歩き出したとき、手前のバスルームのドアが開いた。
勝が腰にタオルを巻いて出てきたのだ。
固まる芽衣。
「目が覚めた?」
「あ、あの。ご迷惑おかけしたようで…。か、帰りま~す。」
本人は必死に歩いているつもりたが、フラフラしていて危なっかしい。…と、早速躓いた。
「わっ!」
「ほら、危ない!」
反射的に勝が抱きとめるとタオルがバサッと落ちた。
全裸で芽衣を抱きしめる形になってしまった勝。心は迷っていても、体は迷っていない。
固まったままの芽衣を抱きしめて、唇を重ねる。ひょいと抱き上げてベッドに乗せる。
「勝?」
起き上がろうとする彼女を押し倒して、また唇を重ねる。彼女の素肌を手で確かめる。
怯える彼女を抱きしめる。最初から、こうしていればよかったんだ。
「やり直そう。長い空白の分まで。」
無我夢中で彼女を抱いた。怯えていても、俺には止められなかった。
そのまま、朝まで抱きしめていた。強引に抱いて、泣かせてしまったから。
「後悔させないから。」
逃げ出すわけでもなく胸の中でしゃくり上げる彼女は、とても華奢で弱々しくて、別人だった。