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君の心の赴くままに

作者: 海野浬

セレス・カーネリアン。

オブシディアン王国第三王子カルサイトが彼女に出会ったのは齢五つの時だった。

この国の宰相の娘で同じ歳頃なので遊び相手にということらしかったが、今回はいつまで持つか。

というのも、この国の民は大なり小なり何らかの力を持って生まれて来る。

そのなかでカルサイトは心が読めるという力を授かってしまったからだ。

触れなくても、触れればより強く。実の母すら近づき、触れることを拒むこの力。

子供ゆえにかまだ深く読みこむことは出来ないが成長するにつれて力も強くなるというのが専門家の見解だ。

後ろ暗いことがある大人は勿論、潔白な者とて心読まれて気持ちよいはずがない。

子供も同じこと。

学友にと連れて来られた者達の心を敏感に読み取ってしまうカルサイトの力は双方にストレスになる。

皆、長くても一月と持たずにカルサイトから離れて行ってしまうのだ。


眼の前のセレスはニコニコとしているが、宰相からは不安と言う感情がカルサイトに流れてくる。


「娘のセレスです。まだまだレディにはほど遠いですが…」


「セレスです!えっと、カエサル?」


「…カルサイトだ。」


宰相から呆れの感情が流れて来る。

最初の不安はセレスに対してだったのか。

もともと宰相からカルサイトに対する負の感情を感じ取ったことはないが、カルサイトは安堵した。

娘の事となったら違うかもしれないと思ったからだ。


「カルサイト!じゃあ、カルだ!カル!あのね、わたし、おにわのおはなみたい!」


「…えっ!?おい!?」


セレスは問答無用でカルサイトの手を引き、扉へ駆けだした。

宰相からはカルサイトに対する同情と少しの罪悪感が流れて来る。


「あのね、まえにパパとおしろにきたときにね、まどからおにわのおはながみえたの!」


「そ、そうか。」


「でね、ずっともっとちかくでみたいなあっておもってたらきょうはカルとみてきていいって!」


「よ、よかったな?」


「うん!」


道すがら「おはな♪おはな♪」と歌いだすセレスにカルサイトは違和感を感じた。

何だ?と思ったが、すぐに理解した。セレスの心が読めないのだ。


「…セレス。」


「なあに?おはなきれいだね!」


「ああ。そうだな。…それよりセレス、君の魔力は何だ?」


「まりょく、えっとね、あ!あのメイドさんみてて!」


セレスの魔力は魔力を無効化するものかもしれないと思ったカルサイト。

しかし、中庭から見える渡り廊下を歩く大きな洗濯籠を持つメイドを見ろという。


「えい!」


瞬間、やわらかな風が吹き、メイドのスカートがふわりとめくりあがった。

メイドはただの風の悪戯と気にしたそぶりもなく歩いて建物内へ姿を消した。


「おい!?」


「パパがおとこのろまんだって!カルもうれしい?」


宰相!?


「バカ!そういうことはダメだ!」


「あ!」


「な、なんだ。」


「パパがママいがいにやっちゃだめだっていってたのわすれてた!あやまってくる!」


「俺!俺があとで言っておくから!」


宰相の娘が悪戯でスカートめくりしましたなんて言えるか!!!!


「ありがとう!カル!カルはやさしいね!」


「…ああ。」


時間にして一時間にもみたなっかただろう。

しかし、カルサイトは疲れ切っていた。







「セレスはどうでした?」


宰相は疲れ切った様子のカルサイトへ苦笑して問うた。

当のセレスは先にお付の者と馬車で屋敷へと戻っている。


「…心が読めませんでした。」


「やはり!」


宰相は嬉しそうに声を弾ませた。


「セレスは何か特別な力が?」


「いえ、ただ物事を深く考えないで思ってることが顔や口にそのまま出るので。」


「そ、それだけですか?」


「ひどくお転婆ですが、優しいところもありますよ!」


そういうことではなくて。

カルサイトは娘語りを始めた宰相を冷めた目でみた。


「…なんでも良いですが、奥方に報告していいですか?」


「はい?」


「セレスの力をつかって悪戯をしていることです。」


「はっ!?まさか読んでしまわれましたか!?」


「セレスの自己申告です。」


「いやあ、はっはっは!」


宰相は笑って誤魔化した。





そんなこんなでカルサイトとセレスの交流は続いた。

全身で心の全てを表現するセレスにカルサイトは安心して触れることができた。

そんなセレスにカルサイトが惹かれるのに時間はかからなかった。


変化があったのはセレスが寄宿舎に入って二年目の夏、齢十四の頃だった。

長期休み、いつものように城の庭を散歩してセレスが全身で寄宿舎での生活の話を語る。

それを微笑ましく聞いていたカルサイトは自分の胸の辺りの身長のセレスの髪にどこで付けたのか、葉が一枚付いているのに気づいた。


「セレス、髪に葉がついてるぞ。」


カルサイトはなんの躊躇もなくその葉を取ってやろうとした。

が、それは叶わなかった。


「え!?いや、ダメ!触らないで!!」


「っ!?」


カルサイトがセレスに触れようとした瞬間、セレスから強い風が発せられてカルサイトは吹っ飛んだ。


「きゃああ!!カル、ごめんなさい!!」


「…いや、俺が悪い。どんなにじゃじゃ馬でもお前も年頃の女だ。やはり、俺みたいな力は嫌だろう。」


「違うの!なんか失礼なことを言われたのは置いておくけど!私、カルが好きだから触られたらバレちゃうって思って!」


「…おい、俺の気のせいで無ければ、今、俺に触られたくない理由が解消したぞ。」


「え、あ、言っちゃった!?立てる?」


セレスはカルサイトに手を伸ばす。

カルサイトはその手を取り立ち上がった。

もしかしたらと思ったが、やはりセレスの心は読めないままだった。


「なんで今日に限ってダメだんだ?いつも普通に好きだのなんだのと言うだろう。」


「お休み前に寄宿舎でお友達と話してる時にカルを男性として好きなんだって気づいたの。そしたら何か恥ずかしくなってしまって。」


「…よく考えたら、今日、出会った時に抱き付いて来たが、それは良かったのか?」


「その時は久しぶりにカルに会えたのが嬉しくて異性として好きとか吹っ飛んでた。」


「…で、寄宿舎の話をしている内に思いだして触られたらバレると思った訳か。」


「もう隠し事はないから大丈夫よ!」


…何も大丈夫じゃない。というか、返事は良いのか。


「…はあ。」


カルサイトは溜め息を吐いた。


「どうしたの?」


「お前の力が心を読めるものなら良かったのにと思っただけだ。」


「え?」


「そうしたら俺がどんなにお前を好きで拒絶させた一瞬でどんなに絶望したか分かってくれるだろう?」



― 終 ―



関係ない設定

第一王子 アズライト・オブシディアン

次の王と決まっている。

力はランダムな予知夢。


第二王子 ジャスパー・オブシディアン

ふらふら冒険者まがいのことをいている。

力は距離制限のある千里眼。


第三王子 カルサイト・オブシディアン

そのうち宰相家に婿入り。

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