船の上の宴会
ひとしきり笑った後、船長は今まで食べたことのあるご馳走の話を聞かせてくれた。
それによると、海にすむ熊や小船ほどもある巨大なエビなど、異世界には珍種が多数存在するみたいだ。
魔物と呼ばれる種らしいが、海に多く生息している。
肉が美味いので見つけたらなるべく狩るそうだ。
中にはこの船よりデカいやつもいるとか。うへえ。会いたくねー。
船長の話は思いのほか面白く、あっというまに宴会の時間になっていた。
お姉のバクス副船長が呼びに来ると、船長の笑い声が聞こえたらしくてかなり驚いていた。
船長はあまり声を出して笑わないらしい。
笑わないって、普段からどんだけ怖ええんだよ。そっちに驚くわ。
船長とバクス副船長について行きながら、宴会中の注意事項を受ける。
といっても簡単なもので、宴会は甲板でやるが、その際、船長の傍を離れない、酒は飲まない、他の船員が絡んできても無視する…などなど。
ほとんど酔っ払い対策だった気がする。
まあ、俺だって酔っ払いの相手したいわけじゃねえし、船長の給仕に徹してりゃ、誰も絡んでこねえだろ。
甲板の上は、あちこちに傷が増えているものの、目立った損傷は無いように見えた。
海の上での船の損傷は重大だ。出来る限り無い方が良い。
宴会仕様なのか、いつものだだっ広い甲板とは違って、いくつものテーブルとイスが出されていた。
メインマストの前に用意されているひと際豪華なテーブルとイスは船長用らしい。
どのテーブルにも美味そうな匂いのご馳走が並んでいる。
ううっ。骨付き肉なんて何日ぶりだ?
地球ならカーネルなおっさんに買いに行けばいつでも食えたのに、ここじゃあ数か月に一度のご馳走だ。
腹減ったなあ。
「野郎どもっ。今日はアホどもの相手、御苦労だったっ。好きに飲んで食えっ。」
「「「おおおっ。」」」
船長がワイングラスを掲げて簡単過ぎる挨拶をすると、船員たちは雄たけびをあげて目の前のご馳走に食らいついた。
俺はというと、船長のお世話メインで合間にご馳走を食った。
祝い事はグラスでワインを飲むもんらしいので、ワインをビンから注げばいいから楽な給仕だった。
俺の席は船長の隣で、船長より低い高さのイスに座って船長のグラスが空になったら傍に立ってワインを注いだり、汚れた皿を取り替えたりしてる。
周りのテーブルの連中が珍しいもんでも見たって感じで俺をマジマジと見つめている。
やっぱ、見習いが一段低いとはいえ船長の隣はマズイか?
ここが給仕と食事が一緒に出来て楽なんだけどな。
船長にも副船長にもここに座れって言われたし、船長に「好きに食えっ。」て言われたしなあ。
…うん。いいだろ。
気にしてても仕方ない。珍しかろうが、海賊船では船長が絶対だ。
その船長がいいっつってんだから、いいんだよ。
突き刺さる視線をスルーして俺は目の前の骨付き肉に手を伸ばした。