冒険の責任
俺は急いで船長室を出て、食堂へ寄る。
医務室は閉まってるので、そういう場合は食堂にタオルやお湯をもらうことになっている。
滅多にないけどな。
今回はオルがいないから、緊急措置らしい。
お湯とタオルをもらって、先に船長の出迎えに行く。
船首の方のドアから船長や副船長が出てくる。うわ。不機嫌そう。
「船長。お疲れ様です。タオルとお湯です。」
頭を下げて、お湯の入った洗面器とタオルを差し出す。
船長はそれで手を洗い、顔も洗って、タオルで拭くと俺に投げてきた。
「酒。」
船長は何時になく低い声で言うと、食堂の中に入っていく。
次は酒とつまみだ。急がないと、俺の身が危ない。
「はい!」
「サイ。それ僕が持って行くよ。サイは船長をお願い。」
「ありがとう。」
オルに洗面器とタオルを渡して、急いで食堂に酒とつまみを取りに行く。
今日の酒はワインにチーズ、小さなパイみたいなものまである。ワインは瓶一本丸ごとだ。
「労いだからな。特別だ。お前さんにも後で出してやるよ。頑張ったな。」
「…ありがとうございます。」
労ってもらえるほど頑張れたとは思えないけど、おやっさんの気遣いは嬉しかったので、ありがたく受け取っておくことにする。
後は、酒が温くならないうちに持って行かないといけない。
船長室に着くと、一呼吸置いて覚悟を決めてノックする。
許可をもらって中に入ると、部屋の中は重苦しい重圧に満ちていた。
大魔王にあったらこんな感じかもしれねえ。
そんなことを考えて、プレッシャーを受け流しつつ、船長に酒とつまみを渡す。
船長は何も言わずに黙ったまま、酒をグイっと煽った。
俺はすかさず、おかわりを注ぐ。
「ミランは、前にもやったんだ。」
今度は少しずつ飲みながら、ポツリと船長がつぶやく。
俺は黙って聞いていた。
「金に目が無くてな。仲間を危険にさらしたこともある。だから、次やったら、船から降りてもらうことになってた。」
前にもやってたのか。ミランさん。
命より金が良かったのか?俺にはわかんねえ。
「この稼業はな。危険はつきものだ。でもな、手前の命投げ出してまではやらねえ。お宝も生きてなきゃ価値がねえ。」
船長の言葉を聞いて心が軽くなる。
良かった。船長は同じこと考えてる。そうだよな。命あってのお宝だ。
「ミランはそこの区別がつかねえやつだった。サイ。お前は何があっても俺の命令には逆らうな。何かやるときは必ず報告するんだ。いいな?」
「はい!」
これからも危険はある。でも、きっと、船長について行けば生き残れるだろう。
俺は何があっても、船長の命令に背くことはしないって、自分に誓った。




