冒険の船出
ロープをしまった後、甲板に出て様子を見る。
もっとばたばたしてるのかと思ったら、甲板には数人しかいなかった。
あれ、皆どこ行ったんだ?
いや、それより船長はまだか?
「おい、サイ!もうすぐ船長が戻ってくる。お前さんは船長室に行ってろ!何かに捕まっとけよ!動力使うから揺れんぞ!」
「はい!」
ヤジスさんに怒鳴られて、慌てて中に入る。
動力?そういや船長も動力でどうこう言ってたな。
バルバンク号はガレオン船クラスの大きな船だ。
きっと、帆以外にも起動力があるんだろう。それが動力ってやつなんだな。
もしかしたら、魔石使って動かすのかもしれない。
こっちはいろいろ便利なもんがあるからなあ。洗濯機はないけど。
「おう。サイ!揺れが収まったら、酒とつまみ取りに来い。一仕事終えた船長を労うんだ。」
食堂を突っ切る時に、おやっさんに声をかけられる。
どうやら、動力を動かすのは船長らしい。何でも出来るなあの人。
「はい!わかりました!」
「何かにつかまっとけよ!結構揺れんぞ!」
「はい!」
ここでも言われた。
どうやら、動力使うとかなり揺れるらしい。
これはとっとと船長室行って、何かに捕まっとかないとマズイな。
酔ったらどうしよう。俺、揺れる船は弱いんだよ。
そんな不安を抱えつつ、船長室にたどり着いた俺は、何がいいか見渡して船長のベッドの足にしがみ付くことにする。
机は上に乗ってるのが崩れてきたら怖いし、イスはちょっとしがみ付きにくい。これが一番固定出来るな。
ギイィ
大きく揺れたと思ったら、船が動き出した。
思ったより静かに動く。あ、でも、結構揺れるかも。う。気持ち悪。
身体に感じる揺れを逃がしながら、俺はこの後やることを思い返していた。
食堂行って、酒とつまみの用意。そんで、船長のお出迎えとお世話。
タオルもいるかな。
お湯も用意しとくか。
オルたちにも用意しとくか?
いや、船長の世話してたら、他のメンバーまでは無理か…。
他の…ミランさん、もう、無理だよな。
俺、何か誤解させるようなこと言ったかな?
試掘の奥は氷の壁で、水が滴ってて、氷も解けかけてたって言ったのに。
あの獣人のことは隠したから、それが誤解させたのか?
でも、危険なことはちゃんと言ったのに。
お宝ってそうまでして欲しいもんなのか?
わかんねえ。
海賊になったつもりだったけど、わかんねえよ。
そのまま、暗いことを考え込んじまいそうになったが、身体が揺れが収まったのを感じて正気に返る。
いけね。船長の出迎えしなきゃ。




