冒険からの脱出
心臓の音が早くなるのを感じながら、床や壁の光を避けて早足で歩く。
船長のピリピリとした空気を背中に感じながら、ひたすら前に進んでいく。
「船長!出口が見えました!」
「誰かいるか?」
「います!たぶん、ギリのやつですね。」
「ギリ!船ぇ出すぞ!動力だ!準備させとけ!」
「へえい!」
うわあ。船長の美声で大声出されると、すげえ圧力。
身体が声で押されそうになるとか初体験だっつうの。
どんだけ声に力があんだか。
でも、余裕がないのか、腰にくるような響きはない。
そうだよな。すぐにでも出発しなきゃ。
罠を抜けるまでもうちょいだ。
「うっし!抜けた!船長!先に行きます!」
「おう!」
ヤジスさんが扉をくぐって、外に向かって猛ダッシュする。俺ももうちょい。
よし、入口だ。扉をくぐっちまえば、もう罠は無い。
後ろがつかえないように前に走って、後ろを確認する。
オルに船長、イージスさん達も続々出て来た。
「サイ!上だよ!梯子を上るんだ!」
「わかった!」
俺を目があったオルが先に行けと洞窟の出口を指す。
確かに、後ろを振り返ってる場合じゃねえな。急ぐか。
いつのまにか、縄梯子が木の梯子になっていた。
お宝運ぶには、両腕使う縄梯子より木製の方がいいよな。
でも、上に上ってきたヤジスさんや俺が何も持ってないのを見ると、崖の上で待機してたひと達が梯子をいつでも外せるように待ち構える体勢に変えた。
ひとりが肩にまとめた縄を持ってるから、先に梯子を回収して、身の軽いクレックさん当りが最後に縄だけで上るとかかもな。
ズンッ
他の船員の手際の良さに感心して船に向かおうとすると、腹に響く振動を足の裏で感じる。
きっと、氷が割れたんだ。
ミランさん…。
いや、今はとにかく船で脱出だ!
俺は悪い考えを振り払うようにして船に走って行った。
帆はまだ張ってないけど、皆、船を固定してたロープなんかを外している。
ヤジスさんの姿が見えないけど、俺はどうしたらいいんだろう。
こんな緊急の出向は初めてだから、どうしたらいいかわからない。
「サイ!このロープしまっとけ!」
「は、はい!いつもの倉庫ですよね?」
「そうだ!ちんたらすんな!」
「はい!」
内心困って船に乗ったら、近くにいた船員が仕事をくれた。
ありがたい。今は何も考えずに身体を動かしてる方が助かる。
ロープを抱えながら、船長が来たら飲み物を用意しようかと考える。
こういう時に酒を出してもいいのか、こっそりおやっさんに聞いてみよう。
俺の出来ることをやるんだ。
他のことは考えるな。




