敵襲!?
「おせえ。」
「すみません。エールです。」
「ん。…つまみは?」
「食事前なので貰えませんでした。」
「ちっ。使えねえな。」
「すみません。」
船長の舌打ちに軽く頭を下げて、やり過ごす。
この数日で覚えた対処法だ。
軽い舌打ち程度ならこれでいける。
船長も本気じゃないからな。
一番機嫌が悪い時は無言だってオルと名乗った銀髪が言ってたから、その時はとっとと逃げるか空気のように大人しくするかのどっちかだと決めている。
船長がエールを飲もうとすると、ドオンッという音と共に船が大きく揺れた。
とっとっとっ。あっぶね。こけかけた。
何だ?何だ?
船長を見ると、いつもの100倍は怖い顔して音の方角を睨んでた。
「…どこのバカだ?」
地獄の底から這いあがってくるような低い声で唸るように言う。
声が良いだけに半端なく怖い。
しかも、金のたてがみが窓から差し込む夕日に映えて迫力倍増。
傍にいる俺の方が泣きそうだ。
狭い廊下からドタバタと大きな足音が聞こえてきて、非常時だとわかる。
コンコンコンコンッ
高速ノックの後、返事も聞かずにバクスと名乗ったお姉の海賊が入って来た。
これも非常時に決まってることだ。
「どこだ?」
「アックスのアホよ。うちのお宝が目当てですって。」
「つぶせ。」
「あらぁ?行かないの?」
「エールがぬるくなっちまう。」
「成る程ねぇ。サイちゃぁん、船長のお世話、お願いねぇ。」
「は、はい…。」
そう言って、バクスは軽やかに身をひるがえして去って行った。
え?これだけ?
敵襲だよな?
船長がのんびり酒飲んでていいのか?
まあ、二人の様子からだと、この船にとっては大したことない相手なのかもしれないけど。
でも、聞こえてくる騒音と物々しい空気が息苦しい。
「ビクつくな。ここまで来れやしねえよ。」
「…戦ってるんですね。」
「…おめえ、ここをどこだと思ってんだ?」
海賊船です。
…愚問でしたね。すみません。
「街にいたんで、荒事は慣れてなくて。」
「ああ。そういやそうだったな。」
あんた、忘れてただろ?
顔に書いてあるんだよ。言えねえけど。
「そのうち慣れる。」
ん?何だか含みがあったような。
「気にすんな」って言われたみたいだ。
船長の顔みたらとてもそうは思えねえけど。
今にも敵を瞬殺できる凶悪な顔してるし。
まあ、でも、いいか。
心にやさしい部分は素直に受け取っておこう。
それがこのおっかねえ船長と上手く付き合うための処世術だ。
黙ったままも悪いだろ、返事くらいはしとくか。
「…頑張ります。」
ホントに慣れるかわかんねえけど、海賊船に乗る以上覚悟はしとかねえとな。
後は上の争いがとっとと終わるのを祈るだけだ。