冒険の細道
細いデコボコ道をおっかなビックリ進んでいく。
松明の長さが少し短くなってるおかげで、何とかつっかえずに進めている。
今までの場所と違って罠を示す光もない。
やっぱり、ここって試しに掘ったんだな。
にしても、何だか寒くないか?
場所が変わったからかなあ。
ピチャンピチャンと音が聞こえるから、鍾乳洞みたいに地下水が漏れてるのかもしれない。
でも、ここって岩場っていうより固めの土の壁だよな?どうかいきなり崩れませんように。
「ん?何か光って?…ひっ。」
少し進んだ先に何かが光った。
確かめるために慎重に松明をかざすと、奥には氷の壁が出来ていた。
しかも、中には人ではない何かが閉じ込められている。
金の目がぎらぎらとこちらを見ている。
服を着てるが体毛が全身を覆っていて、人じゃないのが見て取れる。
ゲームに出てくる獣人みたいだが、まるで何かを吠えるように口が大きく開いていた。
「なんだ、これ。何で凍って…。」
もっと良く見ようと近づくと、水の音が大きくなっているのに気づく。
慌てて周囲を良く見て見れば、氷の際の壁から水が垂れていた。
てらてらと光る氷と壁を伝う水の音に一瞬思考が停止する。
もしかして、水源が近くにあるってのか?
じゃあ、この氷の向こうは…。
そこまで考えて、光る氷の表面が濡れているのに気づく。
げ。もしかして、もしかしなくても、松明の火で溶けだしてる!?
やばいと思った俺はすぐさま元来た道を引き返した。
「サイ。…何があった。」
戻った俺を見た船長が静かに問いかける。
多分、俺は今そうとう酷い顔をしていると思う。
何でアサイー帝がここを放棄したのか、その理由に行きあたったからだ。
報告しなきゃ。あの氷の壁のことを。
「まあまあ。ちょっと落ち着かせようよ。サイ。松明持つよ。水、飲める?」
「あ。うん。ありがと。」
「ゆっくりね。」
オルが気を利かせて、俺に猶予をくれる。
助かった。あのままだと声が出なくて、船長に蹴られてただろう。
急いで水を口に含むと、ゆっくり、少しずつ喉に流し込んだ。
ほんの数秒のことだったけど、喉が潤ったことで落ち着きが戻ってきた。よし。
「船長。この道の奥は氷の壁に突き当たって終わりでした。」
「氷の壁ぇ?」
「はい。地下水が流れてるみたいで、壁から水が漏れて来てました。松明を近づけたら氷が溶けそうになったんで、そこで戻ってきました。」
心配そうなオルに頷いて、自分の見たことをなるべく短く端的に答える。
地下水と氷の壁、この2つで船長なら気づくはずだ。
ここは危ない。
あの獣人が誰かは知らないが、不自然な氷の壁は、昔流れ込んできた地下水を凍らせてせき止めた跡だろう。
きっとあの先にはまだ大量の地下水が残ってるはず。
せき止め切れてないからか、壁から水が滴ってたしな。
「そうか。よし。お前ら。船に戻るぞ。」
「え。あ、はい。」
「了解しました。」
伝わった。良かった。
この時、俺は自分の言いたかったことが伝わったことにホッとして、ミランさんが試掘の方を見てたことに気づかなかった。




