見習い海賊
「で?我らが船長はそれでもこの子を船に置くのかしら?」
「当たり前だ。俺が拾ったんだぞ。」
「いや。船長。そういうことじゃなくてさ。」
いよいよマズい方向に話が行きはじめた。
俺を船に置くかどうかにまで進んでる。
なら、一かバチかだ。
「えっと。俺の話、聞いてもらえますか?」
「おー。しゃべる気になったか。」
「あらぁ。何かしらぁ?」
「聞かせてくれるの?」
三人が興味深そうに俺を見る。
乗せられたのか?まあいいか。
いずれこうなったのが今になったってだけだ。
俺は腹をくくって本当のことを話すことにした。
信じてもらえるかわかんねえけど、全部話す。
このままじゃ、どっちにしろ雲行き怪しそうだったしな。
なら自分から言った方がマシだろ。
やけくそだってのはわかってる。
でも、どうせどっかでバレんだろ?
俺が空から落ちてたの見てたやつがどっかにいるだろうしな。
まあ、いろいろ言ったが、本音をぶっちゃけるとあれだ。
死にかけた後で器用にウソつけるほど、俺は頭よくねえんだよ。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺、街にいたんです。歩いてたらいきなり穴に落ちて、気がついたら空から落ちてました。煙がたってる森とキラキラした山が遠くに見えましたけど、海に落ちて…溺れてたところを助けて頂きました。」
しーん。俺の話にその場が静まり返る。
まあ、そうなるよな。俺でもそうだ。
どうしようかなあ。この空気。
でも、本当のことだしなあ。
一応、金髪の目から視線は外さないようにしてる。
眼力半端ねえけど、ここは絶対外さねえ。
「…成る程な。」
「『噴煙の森』に『輝きの山』ねぇ。そんなの知ってる人間なんて、この辺の地元の連中くらいよぉ。でも、この辺に黒髪なんていない。つまり、そういうこと、ね?」
「そんなことが…。いや、そうでもないと、この辺りで溺れてた説明にならないか。」
あれ?信じられてる?
マジで?よし。もうひと押しだ。
「お願いしますっ。ここに置いて下さいっ。」
「いいぜ。置いてやる。」
「あらぁ。決まりねっ。」
「まあ、納得してくれるならいいかな。」
反応軽くね?俺の人生かかってんだけど。
あれー。変な子扱いって空気でもねえし、納得されてる。何これ。
いいのか?こんな荒唐無稽な話、信じるのかよ?
つっても、三人とも楽しそうに笑ってるし…いいんだよな。
うん。そういうことにしとこう。
難しいこと考えすぎても、死にかけた頭に良くねえし。
「じゃあ、まずは見習いからな。」
「それなら、明日からにしてよ。船長。」
「ああっ?」
「この子、溺れかけたばっかりだよ?さすがに今日は様子を見ないと。」
「そうよぉ。あんたみたいに丈夫な人間なんて滅多にいないんだから。一緒にしちゃだめよぉ。」
「ちっ。しょうがねえな。」
「立てるかい?一緒に来て。着替えを用意するよ。濡れたままじゃ風邪を引く。」
「あ、ありがとうございます。」
銀髪のおかげで俺は今日一日は安静に出来るらしい。
着替えも用意してくれるみたいだし、イケメンだけど良い奴だ。
俺は心から礼を言って立ち上がり、銀髪について行くために歩き始めた。
これで、俺は明日から見習い海賊になるわけだ。
船のことなんて何にも知らないけどな。
まあ、下働きくらいなら出来るか?